“秋葉原”から“アキバ”、そして――変化する街を作る方法 

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「秋葉原の信号を1つ廃止するならどこ?」。中小企業診断士の研修で、一風変わった問いを投げかけられた。変化する街“秋葉原”をより生き生きとした街とするためには、どういう方針で、どの信号を廃止すればいいのだろうか?(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年9月11日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

中小企業診断士の更新研修とは妙なものである。行く前には「退屈なのがまたやってきた」と思い、行った後には「案外よかったな」と思い直す。年に1度の理論政策更新研修、今年もそうだった。

白書を捨てよ、街へ出よう

中小企業診断士資格を維持するためには、毎年、理論政策更新研修を受けなければならない。“士”としての自覚というより義務感にかられて、夏の土曜日、秋葉原に向かった。JR秋葉原駅中央改札口から1分、中小企業振興公社ビルの研修室に入る。

極めて退屈な中小企業白書の解説の後、5~6人で1チームの課題解決研修に移る。いわゆるグループ討議だ。

チーム研修で出された課題の趣旨は、“白書を閉じて、街を観察しよう”というもの。まず、1枚の地図を渡された。秋葉原電気街振興会のアキバ街歩きMAP。地図で注目スポットを紹介しているのは、アイドルの南明奈さん(通称アッキーナ)だ。

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秋葉原電気街振興会のアキバ街歩きMAP。南明奈さんは振興会のイメージキャラクター

課題の具体的な内容は、以下の通りだ。

屋外の交通信号(10カ所程度)を観察し、そのうちの1つに注目してください。その上で、次の質問に答えてください。

■その信号を廃止することによって得られる効果
■廃止するための条件
チームごとに街を歩き、観察して討議するという内容。この会社の研修は5回ほど受講しているが、こんなテーマは初めてだ。誰かが「まるで新入社員研修みたい」と呟く。外ではあいにくの小雨が降りだしてきた。やれやれだ。

なぜ信号機を廃止するといいのだろうか?

それにしても、なぜ信号を廃止するといいのだろうか? 危険じゃないのか? 疑問が頭に浮かぶ。

研修資料を読むと「全国に19万2000機の信号がある」とあり、1台あたりの設置・運用コストも記載されている。また、信号を廃止することで「規制よりも交通参加者の認識を高める」というEUの取り組みも紹介されている。そういうことか。

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秋葉原とはこのエリア(上、Google Mapより引用)。秋葉原を6つのエリアに区切って考える(下)

「外は雨だし、仮説を立ててから決め打ちで出よう」と、外に出る前にあらかじめ、廃止するメリットについて討議した。出た結論は「景観」「コスト」「回遊性」の3つ。後は歩きながら考えよう。
私たちは反時計回りにF→C→B→A→D→Eと歩いた。以降の写真は当日の経路を別の日に撮影したもの。

FブロックからCブロックへ

FブロックからCブロックのエリアは、秋葉原再開発のコアとなる部分だ。その昔、卸売市場がありゴッタ煮になっていたCブロックは、ヨドバシカメラができて別の街になっていた。この辺りはヨドバシカメラを訪れる人の車しか通らないため、交通量は少ない。2つほどの信号が即時廃止可能である。

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JRの高架をくぐり抜け、中央通りとの交差点へ向かう。UDXの一帯はムダな信号ばかりだ。再開発で信号を付けまくったが、不必要な場所ばかりにある。ふと上を見ると、電線地中化が実現されたおかげで、景観はかなりすっきりしていた。

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秋葉原にとって中央通りは“背骨”だ。高架を抜けた先、中央通りとの交差点は秋葉原の中心にあたる。この街の“交感神経”をつかさどるわけだから、交差点の信号は外せない。そういえばこの一帯は最新のアイテムが見つかるホットスポットエリアでもある。

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D・Eブロックでも相変わらずの雑踏が続くが、この背骨道路に面する大型店の不振のせいで背骨も曲がり気味。中央通りのBブロック側にはゲームセンターが軒を連ね、Aブロックの路地にあった部品屋はメイド喫茶になった。かつてDブロックにあった大型家電店やPC店は、廃業してしまったところが多い。

D・Eブロックの真ん中に“解”を見つけた!

人いきれの中央通りの歩道を、もみくちゃにされながら“元”家電タウンの中央部、総武線の高架下へ向かう。先ほどの交差点と万世橋交差点のちょうど真ん中。ひらめいた。この信号を取っぱらえば“秋葉原”と“アキバ”がつながる!

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最も横断者が多い場所なのに、2つの交差点にはさまれているため、信号のタイミングによっては自動車の通行量が意外に少なくなる。信号が変わると横断歩道をハミだす人の群れ。旧秋葉原の象徴、家電エリアとマイコンエリアへの人の流れはまだまだすごい。

秋葉原の再開発の象徴、ダイビルとUDXを“クロスフィールド”と名付けたのは的を射ている。秋葉原が「アキバッパラ(原っぱだったゆえにそう呼ばれた)」から「秋葉原」になり、やがて「アキバ」になった。その名前の変遷はクロスカルチャーの歴史そのものである。

アキバは商業と欲望のクロスポイントだ。ダイビルとUDXの広場がクロスフィールドの“頭脳”なら、総武線高架下は“下腹部”だ。欲望やオタク丸出しだが生き生きしている。

散策を終え、研修室に戻って発表資料をまとめた。まず、中央通りは幅が広いので、中央帯に“緩衝地帯”(途中で立ち止まれる島)を置く。そして、自由に横断できることをドライバーに知らせるために、横断歩道の白黒にLEDを埋め込むというアイデアも付け加えた。ブロック間の回遊性(人の流れや動線)を高める趣旨の発表。講師の思惑通りだったようで、褒められました。

街は“flies and comes”で生き生きとする

"米国人から“White flies”というフレーズを聞いたことがある。「白人が飛ぶ」とは、有色人種が街に増えたのを嫌って、白人が郊外などに移り住むことだ。

それをもじるとBブロックは「オーディオ・フライズ」で「ゲームセンター・カムズ(やってきた)」、Aブロックは「PC・フライズ」で「メイド・カムズ」、Dブロックは「家電・フライズ」で「ジャンクフード・カムズ」、Fブロックは再開発で「ヨドバシ・カムズ」。

筆者は電気少年でもパーツ少年でもなかったけれど、30年前の秋葉原できらめいていた部品や雑踏が好きだった。闇市的な怪しさが面白かった。今日までの変化で辛酸をなめ、閉めた店も消えた人も多いが、この街への新しい流入パワーは途切れない。

街作りをするためには“囲い込み”をしてははだめ。アーケードを造るとシャッター商店街と化してしまう、閉鎖空間になるからだ。自分たちだけにお客を呼び込もうなんてヨコシマな考えである。街はオープン系にするべきだ。その方策はただ“信号を取っぱらう”だけ。何かを新しく造る投資は要らない。信号を取り“歩く体験”を真ん中に据えて、街に息を吹きこもう。

街が変化すると、新たな登場人物も現れる。しかし昔の秋葉原が好きだった筆者は、道端に立つメイドも、練り歩くゴスロリも好きになれない。街歩きMAPの南明奈さんの笑顔とも重なり、かわゆいと振り向くけれど心理は複雑。アキバの次はやはり、アッキーナならぬ“アッキーバ”になるのだろうか?

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