『葉隠』――武士の死生観から自分の成したい姿を考える 

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グロービス経営大学院で「リーダーシップ開発と倫理・価値観」というクラスを受け持っている。「自分とは何者なのか」「何を大切にし、何を成し遂げたいのか」等々、己を偽ることなく正直な自分を直視することが、このクラスの基本姿勢である。とはいえ、多くの受講生は日常業務に追われてこのような根本的な問いと向き合うことがないため、スタート時点では戸惑う姿をよく見かける。本書はそんな方々の参考になる1冊だ。

約400年前に書かれた、武士の心構えである『葉隠』は、隠匿した佐賀鍋島藩士、山本常朝の談話を後輩の田代陣基が筆録した全11巻におよぶ書だ。もともと「追って火中すべし」という常朝の言葉通り、秘中の書であった。他人に見せるものではなかったために、処世術的な要素も含め、実利的なことが多々記されている。そのため、封建制度を絶対的なものと認めていた時代に書かれたのにも関わらず、ビジネスパーソンにとって身近な知見にあふれている。いくつか代表的な言葉を紹介する。

「武士道といふは死ぬ事と見付けたり」
第一の教訓として紹介されている有名な言葉である。戦中この一句を強調、曲解したために、多くの人々を死に追いやったと言われることもあり、『葉隠』とはこの句を指すと思っている方もいるかもしれない。しかし、『葉隠』は「如何に生きるべきか」を書したもので、この一句も日々生死を強く意識せざるを得なかった武士が最高に生きるためのものである。今我々がこの句を読むにあたり考えなければならないことは、自分にとっての原理原則であろう。「つまり自分は何者なのか」ということだ。ビジネスパーソン、エンジニア、経営者云々。そして、その立場において原理原則になる価値観は何なのかということではないか。

「一心不乱に生きる」
今、我々が生きている時代は、一心不乱に生きることが難しい時代なのかもしれない。仮に今日調子が悪くて2割の力で仕事をしていたとしても、一般的には食うに困らないだろう。さらに、隣の芝生が青く見えてくるほど情報に晒されている。今ここで一心不乱になれる何かを見出すこと、それが出来なければ他の一心不乱になれる何かを探すことが必要なのかもしれない。

「七つ呼吸する間に腹を決める」(七息思案)
ダラダラと考えていても良い智慧はでないということである。これもその通りだと思う。一方、無為に時間を費やしている、費やせてしまっている日常があるのではないだろうか。

どのような言葉であっても、ものごとには表と裏があり、ここで紹介した言葉が全て自分に当てはまるわけではないだろう。しかし、生死がより身近であった当時の武士が、最高に生きることを指南した『葉隠』は、現代を生きる我々においても灯台の役割を担ってくれるのではないだろうか。

ちなみに、本書は読むほどにスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で語った死生観に関する有名なスピーチと符合することに気付く。そういった視点で読んでみるのも面白いかもしれない。
 

『葉隠(人間の「覚悟」と「信念」)』
奈良本辰也(訳編)
知的生き方文庫
570円(税込616円) 

『葉隠(現代人の古典シリーズ4)』
山本常朝(著)神子侃(翻訳)
徳間書店
1800円(税込1944円)

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