サラリーマン川柳に見る「共感文化」の隆盛とその活用の難所 

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少しばかり旧聞に属する話となりましたが、今年も第一生命主催「サラリーマン川柳」の1位作品が決まりました。「ゆとりでしょ? そう言うあなたは バブルでしょ?」がそれです。バブル入社世代の筆者にはいささか微妙な一句ではありますが、世相の切り取り方はやはり巧みと言えるでしょう。

このサラリーマン川柳は今年で30回目を迎えます。応募数も右肩上がりで、昨年のおよそ39,000通から今年は5万通を超えたということですから、まさに国民的風物詩となった感があります。

では、このサラリーマン川柳はなぜここまで支持されたのでしょうか?

1つに時事性と面白みがあります。毎年の1位作品を見ると、やはり時事や世相を反映し、かつそれをユーモラスに描いているものが多いことが分かります。以下がその典型です。

「退職金 もらった瞬間 妻ドローン」(2016年)
「うちの嫁 後ろ姿は フナッシー」(2014年)
「仕分け人 妻に比べりゃ まだ甘い」(2010年)
「ドットコム どこが混むのと 聞く上司」(2001年)

ただ、それ以上に多いのは、上記との重複も含めて、いわゆる自虐ネタです。以下がその典型です。

「いい夫婦 今じゃどうでも いい夫婦」(2013年)
「昼食は 妻がセレブで 俺セルフ」(2006年)
「オレオレに 亭主と知りつつ 電話切る」(2005年)

「川柳であって標語じゃないから」と言ってしまえばそれまでなのですが、勇気づけられるようなポジティブな句はほとんどありません。スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグのスピーチのような、感動的な要素もありません。

筆者の知人などは、「あれは面白いけど感情移入できないんだよね」などと言っています。

では、この自虐ネタの隆盛をどう捉えればいいのでしょうか? 単に面白いだけで流行っているのでしょうか?

個人的な見解ではありますが、これは昨今の「イイネ!文化」の裏返しの側面が大きいと感じています。「イイネ!文化」とは要するに「共感文化」です。

世の中の不確実性は高くなり、先行きも見通しにくくなりました。またITをはじめとする技術進化はとどまるところを知りません。

そうした時代の過渡期に、人々は人間的な共感をより強く求めるようになってきました。赤ちゃんの写真をSNSにアップすれば「イイネ!」、感動的なエピソードを紹介したら「イイネ!」。そこかしこに共感があふれかえっています。ときどき同調圧力を感じるほどです。

ただ、人間はそう単純な動物でもなければ、善人ばかりでもありません。ポジティブな共感が盛り上がれば、一方でややネガティブな共感の捌け口を欲しがるものです。そこにはまったのが、匿名で投稿できるサラリーマン川柳というわけです。

また、これが剥き出しの憎しみを前面にした句ばかりだったらここまで一般受けはしなかったでしょう。自虐や悲哀を前面に出しながらも、裏側では「まあ、でもそんなに悪くもないよ」という微妙なバランスが取れているところがミソです。17文字という制約ゆえに一定の歯止めがかかるという側面もあります。「あるある、そういうこと」という意味での共感性も高いものがあります。

たとえば先述の「うちの嫁 後ろ姿は フナッシー」「いい夫婦 今じゃどうでも いい夫婦」も、あくまで推定ですが、奥さんや旦那さんに対する愛情が完全に冷めているかと言えば恐らくそんなことはなく、そこそこの夫婦仲だからこそちょっと笑い飛ばしてみた、あるいは「自分もそう感じることがたまにあるよ」という側面が強そうです。

その意味で、結局これも「イイネ!」ネタの一環なわけです。「イイネ!」のネタをストレートに出すか、それとも川柳という取りつきやすい形で捻ったかの差と見れば分かりやすいでしょう。

昨年リバイバルでヒットした自虐マンガ『翔んで埼玉』(魔夜峰央作)が、埼玉県において非常によく売れたのも、埼玉県民の「なんだかんだ言って、埼玉は良いところだよ」という余裕の裏返しとも言え、構図は似ています。

言うまでもなく、現代社会において、共感文化はマーケティングやリーダーシップの在り方などにも大きな影響を与える、非常に重要な要素です。それをどのように活用するか、あるいは表現上の工夫をするかは、企業にとっても非常に大きな宝の山と言えます。

一般に、典型的な共感ネタは、「感動できる話」「憧れ」「郷愁」「可愛いもの」などです。当然、CMなどでも多用されています。ただ、ライバルと同じことをしていてもなかなかアドバンテージは得られません。リスクはあるものの、「その手があったか!」というような共感文化への切り込みも期待したいところです。

たとえばCMであれば、古い例ではありますが、かつてのキューサイの青汁の「まずい!」のCMはその意味でも新鮮でした。「実は自信があるんだろうな」と多くの視聴者は感じたわけです。

一方で、一昨年の民主党(現民進党)の「休みはなくなる。当選の保証なし。しかも民主党だ」の候補者募集CMは、「笑えない」「そんなことを言っている場合か」などと評価は今ひとつでした。

ほんとに余裕があるからこその捻りなのか、焦っているのに余裕あるように見せているのかを、人々は敏感に感じとるものです。ここに共感文化を多少捻ったアングルから攻めるときの難所があります。

それをクリアする鍵は、受け手の視点に立った高度なバランス感覚と、伝え手側のイマジネーションでしょう。

こうしたことも理解した上で、サラリーマン川柳などとはまた異なるタイプの、新鮮なアングルからの共感獲得へのチャレンジを見てみたいものです。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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