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競合分析の肝は真の競合を見極めること

投稿日:2017/05/20更新日:2019/04/09

『新版グロービスMBA経営戦略』から「競合分析」を紹介します。

有名な『孫子』の中に、「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」という言葉があります。戦争でもスポーツでもビジネスでも、競争戦略を考える上で競合を的確に分析することが大事であることは実感からもお分かりいただけるでしょう。ただ、ビジネスの場合は他の分野とは異なり「誰を競合とみなすのか」という難しい問題が生じます。代替財(同じ顧客ニーズを満たす別の形の製品・サービス)に市場を奪われることもあれば、より広い意味での競合と競うこともあります。たとえばブックオフは、既存の中古書店には大きな優位性を築いたものの、昨今はAmazonやメルカリに押され、業績を急激に悪化させています。あるいは、かつて653万部の発行部数を誇った少年ジャンプが、他の「暇つぶし」ニーズを満たすものに代替されたり、スマーフォンに読者層の「お小遣い」を奪われたりして、200万部を割ったというニュースも流れました。目の前の同業他社だけに意識を向けるのではなく、数年後に「競合になりかねない相手」に意識を払うことが、環境変化の早い昨今では非常に大切なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

競合(Competitor)分析

競合分析を行うためには、まず競合の定義をしっかり考えることが重要である。競合と言うと、ややもすると、同じ業界としてくくられた企業群が分析の対象として挙がってくる。しかし、分析すべき競合は、必ずしもその範囲に収まるとは限らない。

競合の定義が必要となる第1の理由は、インターネットを中心としたテクノロジーの進化や規制緩和などによって、いままで存在していた業界の垣根が意味をなさなくなってきているからである。デジタルカメラ業界の競争に大きな影響を与えたスマートフォンや、音楽CD販売チャネル業界に対する音楽ダウンロードサービスなどがわかりやすい事例だろう。あるいは、タクシー業界に大きな影響を与えているウーバー(Uber)のような、海外プレーヤーの新規参入もある。こういった垣根を越えた戦いは、テクノロジーの進化が激しい昨今、めずらしいことではなくなった。その意味からも、後述するPEST分析を通じて、競合の存在をマクロ環境の変化とともに見極めることが大切である。

2つ目の大きな理由は、自分たちがどの抽象度の顧客ニーズにねらいを定めているのかによって、競合の定義が大きく変わるからである。

たとえば、ドトールコーヒーの競合はどこであろうか。これを考えるうえで大事なのは、ドトールコーヒー自体が顧客ニーズを、「コーヒーを味わうこと」という具体的なところで捉えているのか、もう一段抽象度の高い、「喉の乾きを潤すこと」「忙しい中で手軽に一息つくこと」にあると考えているのか、ということである。ねらい定めた顧客ニーズによって、スターバックスやタリーズといったコーヒーショップを競合として定義するのか、家庭用コーヒーメーカーや、セブン-イレブンのようなコンビニ、もしくはホテルのラウンジや飲食店までが競合として入るのかが変わってくる。

このように顧客ニーズの抽象度を高めて考えていくと、競合との戦いは、顧客にとっての「最大のボトルネック」の奪い合いであることに気づくだろう。たとえば、忙しいビジネスパーソンにとっての最大のボトルネックは「時間」である。ビジネススクールと居酒屋とフィットネスクラブはけっして同じ業界ではないが、ビジネスパーソンのボトルネックである時間を奪い合うという関係性においては、競合関係にあるともいえる。同様に、女子高生の視点で考えれば、携帯電話サービスとファッションは、最大のボトルネックである「お小遣い」を奪い合うという点で競合関係になる。

こうした視点は、予期せぬ競合の登場に対する備えにつながるので、一度は考慮すべきことだ。しかし同時に、ビジネスの焦点がぼやけかねない、というリスクも認識する必要がある。戦う相手が多岐にわたりすぎると、誰と戦っているのかを見失いかねないからだ。では、競合の範囲をどこまで広げて考えるべきか、ということになるが、それへの明確な答えはない。最終的には事業の当事者が、自社は顧客のどのようなニーズに応えていきたいかということに関して、いかなるビジョンを持つかで決まってくる。

いずれにせよ、競合分析の際に重要なのは、業界内にいる競合プレーヤーをただ並べるのではなく、まずは競合の範囲を考えることである。「~業」というカテゴリーで思考停止してはならない。そして、顧客ニーズをどの抽象度で考えるにせよ、最終的な想定競合を明確に定義する。ビジネスを行うにあたり、競合が具体的にイメージされなければ、競争戦略を立案することは困難である。

競合の情報収集

競合を特定したら、次には競合の強みと弱みをあぶり出していく。そのために2つの切り口で情報収集を行う必要がある。

1つは、アウトプット(結果)系情報とインプット(施策・リソース)系情報である。アウトプット系情報とは、売上げや利益、シェア、ブランドイメージといった結果にかかわる情報、平たく言えば競合の実績である。アウトプット系情報に関しては、その業界において意味を持つ数字を押さえることも重要になる。アパレル業であれば、坪当たり売上高のような、ブランドや店舗の力を見るうえで極めて重要な数字がある。

インプット系情報とは、アウトプットにつながる打ち手、つまり競合がやっていることである。たとえばプロモーション施策、商品ラインナップなどが該当する。第1章で述べたバリューチェーンのフレームワークを活用して、競合が行っていることを丹念に分析していく。

もう1つの切り囗は、公開情報と非公開情報である。ホームページや経営計画などの公開情報も大事だが、顧客の声などの非公開情報からも有力な情報は多く入手できる。顧客に意見を聞くのは、必ずしもニーズを把握するためだけではない。競合の評判などをしっかり収集することにより、外からは見えない重要な情報をうかがい知ることができる。競合の顧客、もしくは自社を選ばなかった顧客は、自社と直接の接点が少ないために情報入手の心理的なハードルが高く、おろそかにされがちである。しかし、こういった非顧客の声を集めることができれば、公開情報からは知ることのできない、別の競合像を浮き彫りにすることができるだろう。

これらのアウトプット/インプットと、公開/非公開の切り囗を組み合わせると、図のような、4象限のマトリクスができあがる。これらの4つの象限について、丁寧に事実を押さえながら競合についての仮説を立てていくことが求められる。

(本項担当執筆者:グロービス経営大学院副研究課長 荒木博行)
 

 

『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

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