出光興産の有機ELディスプレイ材料がiPhone8に採用、日本企業にチャンス到来か? 

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2017年4月、出光興産の有機EL材料がiPhone8に搭載されることが発表された。携帯電話やスマートフォンのディスプレイはこれまで液晶が主流だったが、ハイエンドなスマートフォンを中心に、有機ELが採用され始めている。有機ELの普及によってどのような日本企業が伸びるのだろうか。それは一過性なのか、それとも持続しうるのだろうか。

有機ELディスプレイとは

有機ELディスプレイとは、エレクトロルミネッセンス(Electro luminescence=EL)という電気を光に変える原理によって、ディスプレイ自体が発光するディスプレイである。液晶ディスプレイと違いバックライトが不要なため、ディスプレイを薄くできる。また、形状の自由度も高く、将来的には折り曲げられるディスプレイも可能になる。特にスマートフォンは「薄さ」と「デザイン性」が重視されるため、有機ELディスプレイに分がある。また、画質についてもコントラスト(陰影)、応答速度(チラつきの少なさ)、視野角、色再現性などの点で液晶ディスプレイに優っている。

このように液晶ディスプレイに比べて利点の多い有機ELディスプレイだが、現状ではスマートフォンの「ハイエンド機種」のみで採用されている。なぜか。それは「製造コスト」の面で液晶ディスプレイに分があるからだ。ただし、スマートフォン用の小型ディスプレイに限って言えば、サムスン電子が2016年に液晶パネルと同等のコストを実現している。とはいえ、この話には前提がある。有機ELディスプレイの製造には製造設備に多額の投資が必要になるため、設備の稼働率が製品のコストを大きく左右する。2016年に液晶と有機ELのコストが並んだのは、有機ELの製造工場の稼働率が90~95%と非常に高かったからである。稼働率が高くなったことにより、固定費(主に製造設備)の分散効果でコストを押さえることができた。いわゆる規模の経済効果である。

なお、有機ELディスプレイは先述したようにバックライトを用いないため、いずれは液晶ディスプレイよりも安価に生産できるようになると考えられている。コスト面の課題が解決されていけば、スマートフォンやモバイルPCのディスプレイの主流は有機ELに置き換わっていくだろう。

日本企業はどこで稼ぐのか

日本企業がどこで稼げるのかを考えるにあたり、有機ELディスプレイのバリューシステムを示す。※バリューシステムとは、自社を含めた業界の川上から川下までの事業連鎖のことである。業界のバリューチェーンとも言う。

図はスマートフォン用の有機ELディスプレイのバリューシステムである。有機EL関連の部分を実線で、スマートフォン関連の部分を点線で囲んでいる。日本企業が稼げそうな領域はどこだろうか。また、どのような企業がその中心となりそうなのか。A~Dの各領域の現状を分析する。

図:スマートフォン用「有機ELディスプレイ業界」のバリューシステム

A. 有機EL原料・部品製造業界

この領域は日本企業が多い。これは液晶ディスプレイも同様である。主な材料メーカーを以下に挙げる。

<日本の有機EL材料メーカー>
●   発光材料:出光興産(蒸着型)、三菱化学(塗布型)など
●   正孔輸送材料、電子輸送材料:出光興産、保土谷化学工業 など
●   基盤材料(フィルム):宇部興産、帝人デュポンフィルム など

<有機ELディスプレイの構造>

川下製品の性能・コストに大きく影響する材料を「機能性材料」という。有機ELの材料で最も重要なのは「発光層」とその周辺の「電子輸送層」「正孔輸送層」で用いる材料であり、中でも「発光材料」が重要である。出光興産は発光材料だけでなくその周辺材料も手掛けることで、自社の発光材料の性能を最大限に引き出している。

なお、機能性材料業界は一部の企業が独占的シェアを占める「独占業界」か、少数の企業で市場を占有する「寡占業界」になりやすい。その最大の理由は、技術的な模倣困難性による参入障壁の高さである。ゆえに各領域でノウハウを持つ企業が突出したシェアを持ちやすくなる。発光材料で独占的シェアを持つ出光興産は有機EL関連の特許を1800も押さえており、さらに特許を押さえようとしている。特許網を築くことで、模倣者による新規参入や競合の追随を抑制している。

B. ディスプレイ製造業界

液晶パネル製造では韓国メーカーと台湾メーカーが強い。有機ELディスプレイでも同様の構図になりそうだ。なぜ、日本メーカーは材料のように強みを発揮できないのだろうか。

有機ELディスプレイの製造には多大な投資が必要になる。自動車のように人力で組み立てる工程が少なく、クリーンルームで製造装置によって作られるため、こうした装置への設備投資が多大となる。また、技術進化が早いため、その都度設備を更新していく必要がある。装置産業においては、規模の経済が大きく効いてくる。また、有機ELや半導体パネルはその特性上、経験を重ねることによる歩留まり(良品率、部材の無駄の少なさ)や生産効率の向上の改善幅も大きい。そのため、この業界では設備と技術に先行投資を行い、大量に生産すること(高稼働率)が成功のカギとなる。

体力の無いプレイヤーは生き残れないため、寡占的な業界になりやすい。現状ではサムスン電子1強である。続くのがLG電子、今後はフォックスコン(ホンハイ)・シャープ、ジャパンディスプレイが有機ELディスプレイの製造に参入する予定だ。なお、日本企業にとって不利なことは、国内生産時のコスト高である。人件費の差が注目されがちだが、実は電力コストが大きい。有機ELディスプレイの製造工程ではチリやホコリが入ることが許されないので、クリーンルームで製造装置がディスプレイを製造する。そのため、自動車工場などに比べて多大な電力コストがかかる。これは半導体や液晶パネルも同様である。そうなると、原発が稼働しており電力コストで日本に勝る韓国や中国にはかなわない。ホンハイの傘下に入ったシャープやジャパンディスプレイの健闘に期待である。

C. 製造装置業界

製造装置には大きく分けて、以下の2つがある。

(1) 材料や部品の製造装置:発光材料のような化学品の場合、製造装置は基本的に内製である。製造設備や製造プロセスはノウハウの塊であり、それこそが模倣困難性の源泉だからである。ゆえに技術は社内にある。

(2) ディスプレイの製造装置:ディスプレイの製造装置は外製と内製が入り混じる。外部から調達する装置は、装置専業メーカーの技術力が不可欠な製品に限られる。例えば半導体の場合、日本企業の東京エレクトロン(サーマルプロセス、コータ/デベロッパ、エッジングなどを行う装置)、ニコン(ステッパー)などが高いシェアを誇る。有機ELディスプレイの製造では、蒸着装置(パネルに発光材料を気化させて付着させる蒸着装置)が鍵を握る。この装置の世界シェアトップは「キャノントッキ」という日本企業である。

D. 製造プロセス材料業界

製品には使われないが、製造工程で用いる材料も製品の性能に大きな影響を与える場合はある。こうした材料も「高機能材料」である。有機ELディスプレイの製造工程では、発光材料を基盤(ガラスやフィルム)に蒸着する際に用いる「メタルマスク」が重要な部材になる。メタルマスクには高精度かつ高品質が求められ、ディスプレイ製造メーカーの厳しい要求に応えられる企業は少ない。現在は大日本印刷が独占的なシェアとなっている。

まとめ:日本企業はどの領域で稼ぐのか

現時点において、有機ELディスプレイの普及によって日本企業が稼げそうな領域としては、「有機EL材料(主に発光材料と周辺材料)」と「ディスプレイ製造装置」、「製造プロセス材料(メタルマスク)」の3つが有望である(下図の黒塗り部分)。また、これらの領域には既に独占的シェアの企業が存在している。

図:スマートフォン用「有機ELディスプレイ業界」のバリューシステム

さて、この領域で日本企業は今後も存在感を持ち続けられるのだろうか。また、企業の顔ぶれは変わらず維持されるのだろうか。次回はこの3領域における将来的な見通しについて述べる。
 

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