良い経営資源の条件は何か? 

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『新版グロービスMBA経営戦略』から「VRIO」を紹介します。

経営資源は、戦略論、特に資源ベース論(RBV)で考えるときに「どのくらい自社の優位性に貢献しているか」、「他事業でも効果を持つか」を考える必要があります。その際に役に立つのが、J B.バーニー教授が提唱したVRIOのフレームワークで、資源ベース論の代名詞ともなっています。これを用い、4つの項目への合致度を調べると、それが自社にとってどの程度価値がある資源なのかを判断しやすくなります。特に、経済的価値を生み出し、希少で真似しにくいものほど大きな価値があります。一方で、予期せぬ代替品が自社の属する業界そのものを破壊することもあるのが昨今です。たとえば米国コダック社の銀塩フィルムに関する技術力やチャネル網は同社の成功を長年支えた優良リソースでしたが、銀塩フィルムがデジタルカメラに代替されるに伴い、無価値化しました。そうしたリスクも意識しつつ、自社のリソースの価値を正しく見極めることが必要です。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

◇ ◇ ◇

VRIO

企業のリソースがどのくらい強みになるのか、言い換えれば、組織が持つリソースの有効活用可能性をチェックするフレームワークとして、バーニーが提唱したのがVRIOである。バーニーは、以下の4つの問いによってリソースを評価できるとしている。

●経済価値(Value)に関する問い
●希少性(Rarity)に関する問い
●模倣困難性(Imitability)に関する問い
●組織(Organization)に関する問い

図からもわかるとおり、バーニーはVRIOの4つの項目に関して、上から下に行くほど、競争優位に資するリソースになると考えている。経済価値があるのはもちろんのこと、希少性や模倣困難性以上に、それらを活かせる組織能力が競争優位を持続させるという考えである。

4つの中で直感的にすぐ理解できるのは、経済価値と希少性であろう。経済価値を生み出せないリソースが無意味であるのは言うまでもないし、希少性が高いほど良いリソースであるのも理解しやすい。

たとえば、かつてダイヤモンドの生産・販売においてデ・ビアス社が圧倒的なポジションを有していたのは、ダイヤモンド鉱山を押さえるとともに、流通チャネルをほぼ独占していたことによるところが大きい。日本の地上波テレビ局各社がいまだに一定の地位を築けているのも、電波を利用する権利を独占的に与えられているという事情が大きく寄与している。

その次の模倣困難性は、VRIO、あるいはRBVの要所となる考え方である。つまり、誰にでもすぐにまねできるようなリソースは強みとなりにくいが、容易にまねできない、つまり模倣がそもそも不可能であるか、模倣しようとすると莫大な投資・コストが必要になるようなリソースは、経済価値や希少性が担保されていれば非常に大きな強みになるということである。

模倣困難性は、広義にはさまざまな要素に起因する(莫大な投資など)。しかしバーニーは、簡単に、あるいは短期には模倣されにくいリソースの条件として、(1)独自の歴史的条件、(2)因果関係の不明性、(3)社会的複雑性を指摘しており、こうした特徴を有するリソースを持つ企業は中長期的な優位性を築きやすいとしている。

(1) 独自の歴史的条件

歴史的な偶然や出来事、蓄積によってもたらされたリソースの優位性である。NTT各社やJR各社、日本郵政の店舗網や技術はかつての国策によるところが大きく、競合がこれを模倣することは極めて難しい。私立大学ビジネスにおけるハーバードやオックスフォード、ケンブリッジなどの超老舗大学の資源の優位性も、多くはこれで説明しうる。このように時間がもたらす経済性を、競合の側から見て時間圧縮の不経済性と呼ぶ。同じ資源を獲得するために、歴史を繰り返すのは難しいということだ。

経路依存性もこの歴史的条件に含まれる。企業のある強みはさまざまな試行錯誤、時には失敗からの学習などを通じて生まれるものであるが、それを表層だけたどって再現しようとしても容易ではない。ましてや、競合がその経路まで含めて模倣することは非常に困難である。トヨタのリーン生産システムなどは、数十年かけて練り上げたものであり、経路依存性が大きいといえる。

バーニーは、こうした強みはトップの大きな意思決定もさることながら、ボトムからの小さな意思決定の集積による部分が大きいとしている。現場発の小さな意思決定を競合がすべて把握するのはほぼ不可能であり、それゆえ模倣は困難なのである。

(2) 因果関係の不明性

「これをすればこのリソースが手に入る」という因果関係が明確であれば、優れたリソースも要素分解して模倣しやすくなる。だが、企業の強みとなる多くのリソースは、そのような単純な因果関係では説明できない。それゆえ、模倣が困難となる。たとえば、日本企業の「阿吽の呼吸」のような暗黙知の文化や、それを包含する擦り合わせの技術は、なかなか外国の企業には理解しにくいものだ。一見シンプルに見えるセブン-イレブンの仮説検証能力も、現場のレベルに至るまでには無数の試行錯誤があったわけであり、それゆえに競合は簡単にはまねできないのである。

(3) 社会的複雑性

一般に、シンプルなものほど模倣しやすく、複雑なものほど模倣は難しくなる。たとえば個々の製品はリバースエンジニアリングである程度分解はできるが、それを生み出した企業内におけるコミュニケーション、組織文化、サプライヤーや顧客とのやりとりなどは、社会的に複雑でわかりにくく、競合がそれを模倣するのは容易ではない。バーニーは、ハードな要素より、こうしたソフトな要素ほどまねしにくいと指摘している。

VRIOの最後の要素は、これまでの3つの要素を使いこなす組織能力である。その意味で、この要素はほかとは意味合いが異なる。組織能力の具体的な内容としては、個々人のスキルに加え、指示系統やコントロール・システム、評価報奨体系などが含まれる。これらも外からの見え方だけではなく、その運用の微妙な呼吸、ニュアンスが重要となるため、競合が容易に模倣するのは困難である。トヨタ、GE、サムスンなど、国内外で大きな収益を上げている企業は、概ねVRIOの4つ目までの要素を満たすリソースを保有していることが多い。

(本項担当執筆者:グロービス出版局長 嶋田毅)

『新版グロービスMBA経営戦略』
グロービス経営大学院  (著)
2800円(税込3024円)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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