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通勤時間を使って脳の活性化に励んでいる人をよく見かける。DSで脳トレ? 携帯で数独? それもいいが、筆者のオススメは「回文トレーニング」。“しんぶんし”、“たけやぶやけた”など、上から読んでも下から読んでも同じ発音になる回文を、自分で作ってみるのだ――。このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年7月31日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

通勤通学のお伴といえばニンテンドーDSで脳トレか、携帯で数独でしょうか? 私には座右の書がある。日々持ち歩き、折に触れて開く。自分の“行き当たりばっ旅”な人生の行方に疲れ、“うふふ”な発想が枯渇したときに、すっとカバンから取り出す。そのワザを上達させたくて、持ち歩く。だが読んでも読んでも、クスクスするだけでスクスク成長しないのですが……。

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画像も回文?

『軽い機敏な仔猫何匹いるか』は広告界の重鎮、土屋耕一氏の回文集である。タイトルがすべてを表している。「かるい きびんな こねこ なんびき いるか」――これが回文(上から読んでも下から読んでも同じ発音)だとは、まさか思わない。

回文遊びの歴史は古く、実に鎌倉時代から歌人の作にあるそうだ。短歌、連歌、俳句、子どもの歌遊びにまで広がったが、回文集というたぐいの本は多くはない。著者の土屋氏は「君の瞳は1万ボルト」(資生堂)、「おれ、ゴリラ。おれ、景品」(明治製菓)など歴史に残るコピーを生み出してきた。だからこその、ことばマジック満載の本である。

何度も読み返すと「さかさま 仔猫 まさか、さ」とか、いくら「読んでも ニャニ もでんよ」ぐらいの回文作句ができるようにはなる。“数はわずか”だが、私も回文作りに挑戦し、“疲労ご苦労、記録後披露”してみたい(前者は達人、後者はアマ作品、違いが分かるな)。

回文作りは結構難しい。本書は絶版本なので、読者のために土屋氏の傑作をいくつか紹介したい。

逆さ化することのコツ

1部と2部は短い回文。まず回文という“詩歌を解し”てほしい。

機敏万引(キビンマンビキ)
動物狂(アニマルマニア)
新幹線沿線監視(シンカンセンエンセンカンシ)
ダンディは遺伝だ(ダンデイ ハ イデンダ)
誤診千回いかんせん死後(ゴシン センカイ イカンセン シゴ)
プツリとすたれたストリップ(プツリト ス タレタ ストリツプ)
(広告業界で)すでに地位は1、2です(スデニ チイハ イチ ニデス)
(それならば、)世界一の地位生かせ(セカイ イチノ チイイカセ)

短い回文、機敏やダンディのようなワードを“逆さ化”するのが作句作法のようだ。“ルーマニアのアニマール”や“震撼初期余震監視(しんかんしよき よしんかんし)”が作れると回文師匠の弟子に認定してもらえるでしょうか? いえいえ、3部は長い文章主体で、こんなお手軽にはいかない。

お次は長めに

品川にいま棲む住まい 庭がなし(シナガワニ イマスム スマイ ニワガナシ)
烏賊、鰤、かもめ、鯖、サメも カリブ海(イカ ブリ カモメ サバ サメモ カリブカイ)
昼間 すやすや 胃をいやす 休まる日(ヒルマ スヤスヤ イヲイヤス ヤスマルヒ)
こだまにて 帰省相席 手に真蛸(コダマニテ キセイ アイセキ テニ マダコ)

非常に驚いた一句は「烏賊、鰤……」である。回文の重鎮たる土屋氏だからこそ、こんな発想が出てくるのだろうが、魚でカリブ海をシメルなんて、“シメシメ飯飯”なんてバカなことは言ってられない。もうちょっと挙げよう。

堅い帯いたく 肉体美老いたか(カタイ オビ イタク ニクタイビ オイタカ)
堕落妻が居て 家庭が真っ暗だ(ダラクツマ ガイテ カテイガ マツクラダ)
食ってまた乗りもの 森の多摩テック(クッテ マタノリモノ モリノ タマテック)
快感長く 今いくが何回か(カイカン ナガク イマイクガ ナンカイカ)

最後の一句は“快感二句”のうちの一句だ。まさか土屋氏は、快感中も回文を考えていたのだろうか? なんて想いにふけっていたら、付けっぱなしのテレビから「特大の方がお得だよ!」という音声が聞こえてきた。「とくだい……おとく……」、ピンときた。これは1つ回文をモノにできそうだ。しばしうなって作ったのがこれ。

「特大 ボイン 抱くと」(トクダ(ン)イ ボイ(ン)ダクト)

惜しいンですよ。「ン」が1つ余計でボツ。回文作り、脳をユルめないといつまで経っても何も出てこない。「右脳、活! と使うのぅ!」(ウノウ カツト ツカウノウ)。土屋氏によれば、これは言葉継ぎ足しのアプローチである。

長い回文を作るコツ

散歩していて道ばたに菊があったとする。菊か、逆さまにするとクキだな。クキは茎に通じるから逆さにできる。こんな具合に最初のひと文字を決め、その間をつなぐ助詞を付ける。

菊の茎(きく の くき)

ここからは2つのアプローチがある。「上下に伸ばす」と「真ん中をふくらませる」。まず前者をやってみると、「ひな菊の茎無ひ(ひなぎく の くきなひ)」と途端に古文に埋没してしまう。土屋氏は上下に伸ばすと振り出しの句が解体されるので、真ん中を膨らますとよいとアドバイスする。ハンバーガーを作るように、上下のパンは決めたら動かさず、中のレタス・ミートパティ・トマトを足すのである。

菊の香る春、丘の茎(きくの かおるはる、おかのくき)

あまり上手くないけれど、続けていると “聞くに耐えない 萎えた憎き”(きくに たえない なえた にくき)など、漢字を変えて恨み節も作れる。日本語の奥行きは誠に深い。

こんな“文字トレ”、ネット時代だからこそ必要なテクだ。メールマガジンにせよブログにせよニュースにせよ、ネットの文章はブラウズ(拾い読み)される。だから、視線を立ち止まらせて読ませるためには、“見た目のリズム感”が大切なのだ。

ネットでは“こんばんワァー!(・∀・)/”といった表現をよく目にするが、これは、漢字・ひらがな・カタカナ・英字(と顔文字)のミックス表現。読者の目の動きを制御するテクだ。漢字の画数や漢字の持つイメージを気にして書くことも必要。はんらんする情報の中、読ませるためには“文字ヅラ”の独自性が欲しい。

回文は文字ヅラを軽やかにするにはもってこいの文章トレーニング。とはいっても“軽くだね とっさにさっとネタ来るか”なんて作句しても、濁点“だ”でしくじって“とんとんと”ノリの良い回文、“なかなかな”。

▼「Business Media 誠」とは
インターネット専業のメディア企業・アイティメディアが運営する、Webで読む、新しいスタイルのビジネス誌。仕事への高い意欲を持つビジネスパーソンを対象に、「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとして掲げ、Felica電子マネー、環境問題、自動車、携帯電話ビジネスなどの業界・企業動向や新サービス、フィナンシャルリテラシーの向上に役立つ情報を発信している。

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