「店舗ビジネスは好立地に」は正しい戦略か? 

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今回はマーケティングの観点から立地について検討します。なお、本記事では一般消費者を相手にする小売業やサービス業を取り上げます。

一昔前までは、そうしたビジネスでは、極力良い場所に出し、集客を容易にするというのが定番の立地戦略でした。現在でもそうした戦略をとっている業態は珍しくありません。たとえばコンビニは、好立地の店舗とあまりよくない立地の店舗では日商が十万円単位で変わってきますから、なるべく人通りが多く、アクセスも良い場所に店を出す(あるいはそうした場所にある店舗をフランチャイジー化する)のは鉄則です。百貨店も同様で、基本的には駅前などの人通りの多い一等地に店を構えます。

もちろん、一等地の方が賃借料や地代などは高くなりますが、それを補って余りある集客を得ることや、ビジネス(例:高級アパレル)によっては高級なブランドイメージを維持することなどが狙いです。

一方で、昔から、一般消費者を相手にする割には立地に拘らないビジネスもあります。たとえば鍼灸院などがその代表です。もちろん駅前の好立地にある鍼灸院もありますが、多くは普通の街中にあります。個人営業の学習塾や医院などもそうした傾向があります。

同じ業界で多少の差異がある場合もあります。たとえばファストフードは、マクドナルドが一等地戦略をとるのに対し、モスバーガーは長年「二等地戦略」をとってきました。最近では、カフェやラーメン店、パン屋などで、昔ほど好立地に拘らないプレーヤーが増えてきています。

この拘りの差は何なのか、まずは立地に拘らない業界やプレーヤーの共通項から考えてみましょう。

1つに、個人営業の地場密着型ビジネスが多いということがあります。鍼灸院や個人営業の学習塾もそうですし、理容店や豆腐店などもこのパターンと言えます。これは、立地云々以前に、自宅をオフィスとしていて選択肢があまりない事業とも言えます。

一方で、同じ規模でオフィスが選べる場合であっても、あえて一等地を選ばないケースも増えています。先の例でいえばカフェやラーメン店、パン屋などです。医院や弁護士事務所などもこの傾向があります。その理由として、他店との差別化が分かりやすく、また近年では口コミサイトなどを経由して「探してでもやって来る」顧客が増えていることが挙げられるでしょう。

これはコンビニなどとは対照的です。コンビニの場合、店によって多少の違いはありますが、近隣地域に開店している同じ系列のコンビニであれば、品ぞろえは極めて似てきます。特定の店舗をわざわざ探してやってくる顧客もいません。コンビニは製品分類でいうところの「最寄品」に近いということもあり、やはり立地は非常に重要なのです。

それに対して、コーヒーやケーキ、ラーメン、パンなどは「最寄品」的な要素もありますが、「行列が並ぶ」系の美味しい店になると、がぜん「買回品」的な意味合いが強くなります。医院(例:評判のいい女医さんのいる婦人科医)や弁護士事務所(例:相続問題に非常に強い)も同様です。

こうした顧客にとっては、多少の立地の不自由さは問題ではなく、モノやサービスの良さこそが重要なKBF(重要購買決定要因)となるのです。

この流れに拍車をかけているのが、SNSの進展によるによる口コミの増加や、評価情報そのものを重要な情報とする口コミサイト(例:食べログ)の発達です。GPSによる位置情報サービスがスマホの発達で容易に利用できるようになり、多少方向音痴の人間でも道に迷いにくくなったという事情も効いています。

これは、サービスの提供側からすると悪い話ではありません。それまでは、店主ではサービスのことばかりを考えるわけにいかず、集客のことも考える必要がありました。また、チラシなどのマーケティング費用や賃借料も頭の痛い問題でした。

しかし、いまや良いモノやサービスを提供することにフォーカスすれば、それが口コミで広がっていくのです。飲食店であれば、味にこだわりのあるシェフタイプの店長にとっては、非常にありがたい時代になったわけです。賃借料を抑えつつ、自分の得意領域に時間を使えるのですから。

一方で、いい話ばかりでもありません。立地を気にする度合いが減ったのはライバルも同様です。もし顧客のニーズに合うようなサービスが提供できなければ、今度は、顧客は一切来なくなります。立地という武器があれば、多少人気が落ちてもそれなりに一定の顧客数は見込めたものが、それがなくなったがゆえに、モノやサービスの競争がよりむき出しになるわけです。

幸い、2017年現在は、そこまでむき出しの競争にはなっていないようですが、日本の人口はおいおい減っていきます。当面は、まだ先に潰れていく、レベルの高くないライバル店がたくさんあります。しかし、どこかでそれも終わります。

そうなったときに競争はどう変わるのでしょうか。結局は集客上便利な立地が再度脚光を浴びるのか、あるいは消費が二極化するのか。それともITの進化と相まって別の様相を見せるのか。

ぜひ小売店やサービス業の方々は、自業界の競争における「立地」の意味がどう変わるか想像してみてください。
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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