都民ファーストの敵はどこにいるのか? 

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築地市場の豊洲移転問題が佳境を迎えている。こうした中、「都民ファーストの会」の勢いは止まらない。千代田区長選に勝利し、7月の都議会議員選挙でも躍進が予想されている。国政にも進出するつもりらしい。海の向こうのアメリカではトランプ氏が「アメリカファースト」を掲げて大統領に当選した。両者の共通点は「○○ファースト」宣言である。

この「○○ファースト」という言葉の裏には、それを脅かす敵が存在している。つまり、○○がファーストではなくセカンド以下に追いやられてしまっているから、○○ファーストを宣言する必要があるのだ。例えばトランプ大統領が掲げる「アメリカファースト」は、対米貿易黒字が大きい国、例えば中国やメキシコなどをアメリカの富を収奪する敵と見立て、製造業の国内回帰を推進している。では、都民ファーストの敵は誰なのか。

豊洲移転問題で「都民ファーストの会」が糾弾した敵は、石原慎太郎元知事と浜渦武生元副知事、そして当時の市場長などの官僚である。小池知事は豊洲市場の土壌汚染問題に関して百条委員会を設置し、彼らを証人喚問した。この委員会で彼らを土壌汚染問題の真犯人として確定できたら、小池知事による勧善懲悪劇は幕を下ろすはずだった。

しかし、敵からの思わぬ反撃にあう。石原氏は行政の長としての責任を認めたが、「ピラミッドの頂点にいる人間として、各局が是としたことの報告を受けて、確認した上で裁可することが私の責任であり、それが行政の手続きだと思う」と述べ、自身は知事としての役割を果たしたと主張。加えて「科学的に専門家から豊洲は安全という結論が下されている以上、小池氏は速やかに移転を決断すべき」と反論した。浜渦氏は「基本合意までが自分の仕事で、その後について豊洲開発については関与していない」と自らの責任を否定。委員会では都議会議員をやり込めるシーンもあり、身の潔白を世間に印象付けた。

では、悪いのはいったい「誰」なのか。

東芝の不正会計問題との類似

この問題は、東芝の不正会計問題に似ている。最終的な責任は当時の経営者にあるのだが、経営者は部下に対して具体的に不正会計を指示したわけではない。「チャレンジ」せよという経営者の命令に対して、事業部門だけでなく財務部門までが「忖度」して、利益を嵩上げしてしまった。東芝に不正会計を防ぐ仕組みが無かったわけではない。監査委員会がその役割を担っていたが、監査委員長は元財務責任者で内情を知っており、外部の監査委員3名(社外取締役)には都合の悪い情報は伏せられていた。

コーポレートガバナンスに詳しい冨山和彦氏(経営共創基盤CEO)によると、東芝の不正会計はエンロン(アメリカ)のような「トップ主導型(限られた数人が主導)」の犯罪ではなく、「日本企業ならではの共同体性が大きく影響したという(参考:「悪者」なき不正会計、東芝とカネボウの類似性)。戦後日本企業の共同体性は、大塚久雄氏や小室直樹氏、ロナルド・ドーア氏らによって指摘されてきた。小室氏によると、日本の会社共同体は以下のような特徴を持つ。

小室氏がこれを発表したのは1970年代であり、現代の日本企業は徐々に変わってきている。しかし今でも日本企業の共同体性は根強く存在する。

「忖度」した人は共同体内の倫理には従っている善人だが、外から見れば問題がある。そして、この論理は企業だけでなく官僚組織である東京都庁にも適用できる。東京都庁などの自治体は、基本的に新卒一括採用、年功序列、終身雇用のため「共同体」的な性質を色濃く持つ。

都政を支える「2つの共同体」とヨソ者知事

石原氏は次のような発言もしている。「(新市場は)利便性が確保されれば三多摩地区でも構わないじゃないか。そう言ったけれど、都庁の各担当部局の職員は『それではダメです』の一点張り。とにかく豊洲ありきだった。つまり、総合的な判断により豊洲移転への機運は私の就任前に既に整っていたと認識している」。都庁共同体は知事よりも強い。ヨソ者の知事は、都庁共同体に逆らっては仕事ができないのだ。

そして都庁共同体と一緒に都政を推進してきたのが、「都議会自民党」とそれを支える「自民党都連」である。都議会のドンと呼ばれて小池知事と敵対した内田茂議員(初当選1989~)は都議会議長などを歴任した後、05年から自民党都連幹事長を11年も務めた。しかも、幹事長在任中に一度落選している。それでも幹事長の座に居続けた。まさに年功序列的人事である。都庁だけでなく、自民党都連も共同体的だと言えるだろう。

都知事として政治的なビジョンを実現していくためには、都政を支える「2つの共同体」をコントロールすることが求められる。しかし、共同体は閉鎖的なため、外部から来たヨソ者がコントロールすることは極めて困難である。知事がどちらの共同体にとってもヨソ者である場合、四面楚歌に陥りやすい。ヨソ者の知事は、都庁共同体に逆らっては仕事ができない。下の図に近年の知事と2つの共同体との関係を示した。※関係の評価は厳密なものではなく、あくまで筆者の主観である。

近年では鈴木俊一氏と石原慎太郎氏が知事として長期在任している。この2人はどちらか1つの共同体に属していた。鈴木氏は元自治省(現総務省)の官僚として事務次官も歴任し、その間に地方自治法や東京都の制度を作ってきたという、都庁共同体内部の人間である。石原氏は95年の出馬時には自民党都連と距離を置いたが、当選後は自民党都連と友好的な関係を築いた。元々自民党の重鎮であり、自民党都連共同体の人間と言える。

浜渦氏がテレビで重宝される理由

こうした知事の置かれた立場が理解できると、石原都政時代の浜渦氏の役割も理解できる。彼は都庁共同体にとってヨソ者の都知事が、都庁共同体からナメられないようにするための「門番」だったのだ。東京ガスとの交渉を担ったのも、官僚に対して「交渉力の差」を見せつける機会だった。浜渦氏の前任(都庁官僚の副知事)が失敗した仕事をヨソ者の浜渦氏がまとめあげれば、官僚は彼に頭が上がりにくくなる。

このように、浜渦氏は都庁共同体にとって敵であった。だから彼は百条委員会で辞任させられている。都の官僚に睨みを利かせ、時に強引な手段で都知事のビジョンを実行していく浜渦氏は、その意味で「都民ファースト」であった。最近彼がテレビの情報番組などで重宝されている理由はここにある。都民ファーストの会にとっては敵なのだが、なぜか正義の味方っぽいのだ。

ただし、浜渦氏の都民ファーストには前提がある。それは、知事と都議会(都議会自民党)が決めたことを是としていることである。知事と議員は都民が選挙で選出しているのだから、知事と議会が決めたことを是とするのは「民主主義」として正しい。

しかし、そこに小池知事は切り込んだ。都議会は都議会自民党が握っており、都議会自民党は自民党都連幹事長の「ドン内田」の支配下にあると批判した。つまり、小池知事と石原氏・浜渦氏の最大の違いは、「自民党都連共同体」に切り込んでいるか否かにある。

都民ファーストの敵はどこにいる

では、ドンと呼ばれた内田茂議員がその座を降りれば、都民ファーストは実現できるのだろうか。それは難しいだろう。自民党都連が「共同体」である限り、今のドンが引退しても、次のドンが生まれてくると思われる。それは「都庁共同体」も同じだ。終身雇用・年功序列的な日本的官僚組織である限り、その体質は変わりにくい。

小池知事の敵は石原氏や浜渦氏といった個人では無い。敵は「都庁共同体」と「自民党都連共同体」という、掴みどころが無い存在なのだ。豊洲移転問題が停滞しているのはこれが最大の理由ではかなろうか。

小池知事と都民ファーストの会にはそろそろ気づいてほしい。豊洲移転問題の後は、オリンピック問題が控えている。そこで例えば元首相の森善朗氏を糾弾しても、敵はそこにはいないだろう。

小池知事が掲げる都民ファーストを実現するには、都政を支える2つの共同体に切り込む必要がある。しかし、彼女が都民ファーストの敵として糾弾した浜渦氏は、「都庁共同体」と対決した人物であった。これは明らかに回り道である。

そもそも、「都庁共同体」と「自民党都連共同体」には明らかな悪者はいない。事実、豊洲市場移転やオリンピックに絡んで、汚職などで逮捕された人がいるわけではない。つまり、誰かが意図的に都民を騙そうとしているわけではない。そこに所属している官僚や議員のひとりひとりは「東京都庁や都議会のために真面目に仕事をしている」と自任しているだろう。それは東芝の不正会計と同じである。小池知事は自覚していないかもしれないが、彼女が批判しているのは、その共同体性なのだ。ウチとソトの二重倫理によって、「都庁ファースト」や「自民党都連ファースト」になりがちなことを批判している。

都政を支える2つの共同体にとって「ヨソ者」である小池知事が改革を進めていくのは大変な困難が伴うだろう。だからこそ、都民ファーストを脅かす敵を見誤らないようにしてほしいと願う。
 

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