“ぐっとくる”感覚を科学しよう 

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スターバックスのタンブラーに秋刀魚の携帯箸入れ、iPhone 3G・・・。その魅力的なスタイルに“ぐっときて”我々はモノを買い求めてしまう。なぜ我々は“ぐっとくる”のだろうか? その理由を分析してみると・・・(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年7月24日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

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始まりはスターバックスのメールマガジン『Siren's Mail』からだった。いつものように筆者はざっくり読んでうっちゃって、いつものように相棒Cherryさんはしっかり読んで何かに気付く。

「郷さん、Siren読みました?」
「読んだよ」
「3つ目のタンブラー、ぐっときませんか?」

3つ目? 何だっけ・・・と思ってSiren's Mailを読み直すと、デジャブ(既視感)なデザインのコールドタンブラーが発売されている。これはおもしろい! う~んと唸らされた。ひと晩、唸らされて翌朝、真っすぐ店舗に行き、手に取ると真っ直ぐカウンターでチェックアウト。

スタバのアイコンのデザイン「ロゴコールドカップタンブラー」

見た目は使い捨てのコールドカップもどきだが、二層の樹脂構造の保冷タンブラーなのだ

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トールサイズの使い捨てのカップとまったく同じデザインで、サイズもほぼ一緒。フタはねじ込み式だが、これも使い捨てカップのデザインを模している。そこに押すストローもスタバ色の緑で、素材感はしっかり。デザイン上、唯一残念だなと思ったのはストローを押す口が閉まらないので、カバンに入れて持ち運びはできないこと。ゴムキャップを自作してみようかと思っている。

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ウキウキ気分で自宅に持ち帰ったものの、実はある理由で未使用。ワケはあとで述べよう。

このタンブラーの何にぐっとくるのだろうか? それは、スタバのアイコンであるロゴの付いたコールドカップ、そのブランド記憶をもじった“アイコンメモリー”のデザインにである。

アイコンメモリーの製品化例を挙げよう。ボールペンのBICは、その代名詞とも言える黄色と黒のデザインの記憶とつながるノートパッドやリングノート、ブックバンドや付せんを製品化した。

また「HACKED!」という2GBのUSBメモリは、ケーブルにワイアードされていたIT黎明期のパソコンというアイコンを強烈に思いださせる。アイコンメモリーを利用した製品化のウィットに、我々はぐっときてしまう。

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これらはアイコンにまつわる“ぐっとくる”である。我々は日々“ぐっとくる”ことを待ち受けているし、売り手もあの手この手でそこを狙っている。“ぐっと”をぐっと考えてみた。

“ぐっとくる”を分類する

商品から発生するぐっとの分類と、最近の例を挙げた。

“アイコンぐっと”:「ロゴタンブラー」「BICボールペン」「HACKED!」
“高機能ぐっと”:「XEL-1(ソニー有機ELテレビ)」
“美人ぐっと”:「資生堂マキアージュの新CM」
“新鮮ぐっと”:「JERO(演歌歌手)」
“舌鼓ぐっと”:「ひろ作」手挽きの蕎麦(ミシュランガイド東京★獲得店)
“ウィットぐっと”:「秋刀魚の携帯箸入れ」(ひとつぼ手づくり雑貨店)
“問答無用ぐっと”:「iPhone 3G」

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魚臭くありません。うっかり食べないように注意(1600円~)

高機能ぐっとは、圧倒される“ドきれいな画面”のような機能で心を奪われること。美人ぐっとは美しい方々にひたすら目を奪われること。新鮮ぐっとは今までなかったような組み合わせの価値や表現、舌鼓ぐっとはその名の通りおいしさ、ウィットぐっとは“これおもしろい!”、そして問答無用ぐっとは、発売後3日で100万台を売ったiPhone 3Gのような圧倒的商品からくる。

タイトルや目次、序章で判断する書籍は説明力ぐっとで買う。バレーボール大会のようにマスメディア総力の商品は資本力ぐっとであるし、名前はあえて挙げないが悪役力ぐっとで再吟味されている女性タレントもいる。我々は“ぐっとくる”を無意識に受け止めているようでもあるが、必ずしも直感だけではなく、ぐっとくる意味を瞬時に処理もしている。

ぐっと五感を科学する時代へ

消費者は“ぐっとくる”をどのように処理するのか。それは“ぐっとくる感覚器官”を動員して処理する。ぐっとを感じる体の器官とその感覚を挙げよう。

「ニューロン」:脳内メモリーを呼び起こし、商品と体験をつなぐ“共感”
「額」:ハタとその意味に気付かされて額をぴしゃりと打つ“三つ目の直感”(注:手塚治虫の漫画『三つ目がとおる』の主人公にちなんで)
「頬」:おもしろさやユーモアで頬をゆるませる“頬弛感”
「首」:商品コンセプトやテイストを反芻してうなづく“納得感”
『肌』:肌で感じて自分のモノ! と愛でる“一体感”

いわゆる五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)とは、消費時点の商品との接点を表している。それに対して“ぐっと五感”は、商品コンセプトへの内面的な賛同や否定、葛藤を産み出す感覚器官である。

ぐっとくるという心理の分析、科学未満の代物というなかれ。オランダのユニリーバ社では「アイスクリームがいかにスマイルを呼ぶか」をテーマに、MRIスキャナーで脳内分析もしている。別の研究者は、ビデオに撮影した消費者の表情で深層心理分析をしている。ぐっとが科学的に解明される日も近いかもしれない。

従来の消費者モデルマーケティングは、消費者を“行動モデル”でくくる、現場ではありえないモデル作りにいそしんで迷路に入った。むしろ行動ではなく“ぐっとくる心理モデル”の探求が大切かもしれない。

一般企業ではスキャナーの研究はムリだから、せめてアンケートでぐっとな感覚を測定する項目を入れてみたい。「ウチの商品の何にぐっとくるのか?」「それはどの感覚器官なのか」仮説をもって聞いてみよう。たいていそこにコアコンピタンスがある。

さて筆者は、スタバのロゴタンブラーに脳内ニューロンを刺激され、ストローできゅっとされるように吸い込まれた。放心状態の中で、カウンターで「贈り物ですか? 自宅用ですか?」と聞かれて「自宅用に」と言った。そしてタンブラー購入時の「飲み物1杯無料の特典」をすっぽり忘れてしまった。ぐっとで損する消費者もいる。スタバさん、まだ未使用なのですが、今からでもザクロピーチのフラペチーノいただけませんか?

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