洞爺湖サミット連動特別編(2)―洞爺湖サミットの成果と現実 

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三菱総合研究所・環境フロンティア事業推進グループ/環境・エネルギー研究本部の面々が、専門家ならではの知識・知見によってビジネスパーソンの環境リテラシー醸成を援ける連載講座。今回は、9日に閉幕した洞爺湖サミットの成果を、一般メディアとは少々、異なる視点から概観する。

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洞爺湖サミットが閉幕した。世界経済の失速や、原油高騰、食料問題などの緊急課題が多くある中で、国内では地球温暖化問題に最も注目が集まった。これは一重に、温室効果ガス削減目標で一定の成果を出すことに拘った福田首相のリーダーシップによるものだと言えるが、その成果はどうだったのか。今回は、サミットWeekが終わり、少し落ち着いたところで、サミットでの地球温暖化問題に関する成果と今後の国際交渉に与える影響について考察してみたい。

洞爺湖サミットは通過点、米国政権交代後が本番

洞爺湖サミットでの温室効果ガス削減目標に関して、メディアの注目が高かったために、あたかも今回サミットで、長期目標として「2050年までに世界の温室効果ガス排出量を半減する」ことへのコミットを得るなどの“結論”が出されると理解していた人が多いのではないだろうか。

しかし、今回のサミットはあくまで通過点という位置付けであり、当初より具体的な目標の合意がなされるとは期待されていなかった。2013年以降のいわゆる次期枠組み交渉は、昨年インドネシアのバリで開催されたCOP13で合意された「バリロードマップ」によって、2009年12月にコペンハーゲンで開催予定のCOP15が期限とされている。交渉は期限ギリギリまで行われるのが世の常で、この次期枠組み交渉についても同様に2009年末の期限ギリギリまで継続すると見られる。

今回、成果が期待できなかった理由が実は、もう一つある。米国の国内情勢である。今回のサミットには米国からはブッシュ大統領が出席したが、ブッシュ大統領は自身が述べているように今回が最後のサミット参加となり、来年には新政権にとって代えられる。ご存じの通り、ブッシュ大統領は常に後ろ向きな温暖化政策を示しており、今回も同様であった。最後だけは国民に良い印象を与え、「良い大統領」として歴史に名を残すために、方針を大きく転換し温暖化政策に積極的になるのでは、と期待される向きもあったが、結局そうはならず、サミットに先立って4月に発表した「2025年に排出量の安定化」という低めの目標をベースとし、中国やインドなどの新興国の参加を絶対条件とする姿勢は変えなかった。

他の参加国にとっても、次期政権との交渉が本番で、現ブッシュ政権との交渉は「繋ぎ留めておく」ことを重視する方針であったと見られる。そのような背景から、サミット後のEU各国首脳は、EUが目指す成果からはほど遠い内容にも関わらず、ドイツのメルケル首相の「大変満足している」とのコメントに表れるように一様に高い評価を与えている。

苦肉の表現としての「ビジョンの共有」

サミットの成果として示された議長統括では、長期目標について次のようにまとめている。

We seek to share with all Parties to the UNFCCC the vision of, and together with them to consider and adopt in the UNFCCC negotiations, the goal of achieving at least 50% reduction of global emissions by 2050, recognizing that this global challenge can only be met by a global response, in particular, by the contributions from all major economies, consistent with the principle of common but differentiated responsibilities and respective capabilities.

「我々は、2050年までに世界全体の排出量の少なくとも50%の削減を達成する目標というビジョンを、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のすべての締約国と共有し、かつ、この目標をUNFCCCの下での交渉において、これら諸国と共に検討し、採択することを求める。その際、我々は、共通に有しているが差異のある責任及び各国の能力という原則に沿って、世界全体での対応、特にすべての主要経済国の貢献によってのみこの世界的な課題に対応できることを認識する」

「ビジョンを共有する」とはいかにも分かりにくい表現であるが、端的にいえば「G8の目標として合意した訳ではなく、国連交渉で長期目標の合意をG8が指導力を発揮して目指す」ということである。これは、「中国やインド等の新興国の参加が必須」とする米国に配慮しつつ、今回のサミット成果の最低条件であった「昨年のハイリゲンダムサミット宣言*1からの前進」をどうにか両立させる苦肉の表現だといえる。

中期目標については具体的な数値は明記されず

一方、中期目標については、「野心的な中期の国別総量目標を実施する」と目標設定の必要性は明記されたものの、具体的な数値には踏み込めなかった。これは、中期目標の設定が現在の政権の政策運営にも影響を与えうるシリアスなものであることを物語っている。

2020年という時間軸は長いようだが、温暖化政策においては必ずしもそうではない。例えば、温暖化対策はエネルギー政策や交通インフラ整備が決定的に重要となるが、この数年間のこれらの政策の内容によって、2020年の排出量のベースは決まってしまうといっても良い。従って、中期目標の設定には各国の利害が直接的に絡むため、交渉が難航するのである。

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洞爺湖サミットでは、G8首脳から長期目標の合意に向けた意志を示した点では一定の評価ができるだろう。しかし、中期目標に対する各国のスタンスの違いに表れているように、各国の利害が絡む部分では実質的な進展は見られなかった。

以下のグラフは現在の各国の一人当たり排出量を示したものであるが、赤い線が2050年50%減とした場合に達成すべき一人当たり排出量であり、現在の途上国平均より少し多い程度で、先進国平均の1/4、日本人は1/3以下にする必要があることが分かる。しかも、2050年に50%減を達成できれば、温暖化が食い止められる訳ではなく、影響が緩和されるだけである。この現実をしっかりと受け止め、いかに今までの社会システムの延長線上で対策を進めることは不十分であり、社会システムの転換が求められているかが分かるだろう。

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次回は、社会システムの転換の一つのアプローチとして昨今注目されている排出量取引制度について取り上げてみたい。

*1 「2050年までに地球規模での排出を少なくとも半減させることを含む、EU、カナダ及び日本による決定を真剣に検討する」(ハイリゲンダムサミット宣言)

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