「感受性」が変革の駆動力~GE、SAP、ローランド・ベルガーの公約数 

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前回は、日本GE株式会社の新野昭夫氏、SAPジャパン株式会社の馬場渉氏、ローランド・ベルガーの長島聡氏の3氏が、「インダストリー4.0」の日本の製造業へのインパクトをさまざまな角度から確認しました。最終回となる今回は、日本の製造業がよりよい未来を迎えるために必要なことを、徹底した議論から浮き彫りにしていきます(第3回/全3回)

第4次産業革命がもたらす製造業の新たな進化形[3]

秋山咲恵氏(以下、敬称略):日本企業がイノベーションをどう量産できるか。「日本企業にそれができるのか」「どうすればできるのか」といったお話になると思うが、そのあたりを、少しぶっちゃけて突っ込んでいきたい(笑)。日本企業の事業転換に関して、御三方はオプティミスティックだろうか。それともペシミスティックだろうか。理由も併せて伺いたい。

馬場渉氏(以下、敬称略): ネガティブなトーンからはじめましょうか(会場笑)。冗談はさておき、明るい未来を期待しつつも、現状がどうか言えば、良くないんだと思う。それは感受性がいまひとつだから。同じ状況に置かれたとき、それを危機と思うか思わないかの違いがあるとすれば、両者を分けるのは感受性だと思う。シリコンバレーは少しクレイジーなところがあるから世界の標準とは別に考えるとしても、エクソンモービルやP&Gといった世界の標準企業がデジタル化ということで何をしているのか。

そもそも、デジタルビジネスがディスラプティブ(破壊的)だということは皆が知っている。「危機は十分認知されました」と。ディスラプティブとは、いま目の前に存在しないような競合に食ってやられること。しかも5~10年でなく1~2年でそれをやられる。そうした見えない脅威こそ最大の脅威なんだという認知はされている。でも、その危機にどう備えるかという計画や備えをしている会社は半分以下だ。

ほぼ100%近い企業が危機は理解している。どう負けるかも分かる。「茹でガエル」で負ける。直接的には一切競合しない会社の、「あんなもの。うちの製品と比べたらここもそこも出来が悪いじゃないか」というものに負ける。そういう、負けるメカニズムは理解されている。でも、そこで打って出て戦うための計画がある企業は半分ぐらい。さらにそれを実行している企業となると10%だ。

じゃあ、どうすればいいかと言えば、計画づくりと実行。世界の標準はそうなる。でも日本は違う。たしか去年のダボス会議でアクセンチュアさんが出した数字によれば、世界の標準は今お話ししたような感受性で、80%が「現状はディスラプティブだ」と答えている。でも、日本企業の経営者は「そういうことは、少なくとも今後1~2年では起こりません」と。そういう時間軸の感受性になる。また、「この業界はこれこれこういう難しい面があるから、そんなにやんちゃなゲームチェンジャーは出てこないよ」といった受け止め方をしている。

だから、日本に必要な処方箋は危機を危機だと思うこと。「デジタル化は危機なんだ」と。もしくは…、まあ日本の場合は危機のほうが反応は大きいと思うけれども、もしくは「とてつもないオポチュニティ(機会)なんだ」と考える。とにかくそのどちら側かが覚醒しないと動きようがない。

インダストリー4.0的な事業転換に必要となる、「危機意識」への感受性

そこで大切なのは感受性教育だと思う。その点、デザインシンキングは同じものでも見え方や捉え方が変わっていく仕組みだ。クリエイティビティのない人でも、危機に怯えるような感受性を持っていない人でも、必ず危機ないしはオポチュニティが見えるようになったりする思考トレーニングとして、非常に良い技術だと思う。その思考トレーニングごと移植しないと。とにかくデータだけあったってどうにもならない。

新野昭夫氏(以下、敬称略):  馬場さんお話についてはまったく賛成なんだけれども、やっぱり日本の強みとして現場の力が非常に強いということはある。だから、そこをうまく覚醒させたらいいとも思う。先ほどタコツボという表現があったけれども、そこをIoTでソフト化して、アレンジして、自社に浸透させるだけでなくグローバルなビジネスにしていくことはできると考えている。

今はある意味、デジタル化しないというのはビジネスを止めることに近い。ただ、GEも危機感からデジタル化をはじめたわけだけれども、今はもう、新しく大きなオポチュニティが見えてきている段階だ。だから、リスクを感じる以上に「おいしいマーケットがあるんだから、これはやらなきゃ」という風に経営者を含めて発想転換できれば、ぎりぎりのところでキャッチアップできるのではないかなという希望を持っている。

秋山: それでも、ぎりぎりのところなんですね。

新野:かなりぎりぎりだと思う。

秋山: 「日本には現場の力がある」とのお話だった。ただ、一方では現場における職人的な仕事の仕方が、リスペクトされているぶんアンタッチャブルになってしまった部分があるというお話を、先ほど、セッション前に少し伺っている。そこで、たとえば「現場レベルだとGEでも抵抗があった」といったようなお話がもしあれば、それを乗り越えることができたポイントも併せて教えていただければと思う。

新野: GEはすでにIoTをお客さまに提供しはじめているけれども、提供するものは、基本的にはまずGE製品で試すほか、それと並行してグローバルに400以上ある工場でも試す。そこで使えるものを皆さまに提供するというアプローチだ。なので、現場の抵抗は最初に学んだ。また、そのなかでいろいろと試行錯誤しながら、GEなりに「IoTはこういう風にしないとお客さまに提供できないし受け入れられない」ということで考えてきたのが、デザインシンキングというアプローチになる。

それで具体的にはどんなことをするかというと、まずお客さまのペインポイントが見えてきたところで我々はチームを組む。そしてUXデザイナーやデータサイエンティストまで含めたチームでお客さまのところへ赴いて、集中検討会的なワークショップを3日ないし4日行う。でも、やっぱりその初日は現場の方々の反応も「何ができるんだ? GEは」という感じだ。「俺たちは今まで何十年もものづくりをしてきた。GEに話す必要もない」という大変な拒絶からはじまる。

けれども、そこでデザインシンキング的アプローチとファシリテーションを組み合わせると、3日目ぐらいにクリッピングポイントが出てくる。現場の方が、「あ、これを使えば俺たちの仕事がラクになるな。品質が上がるな」というポイントが見えてくるわけだ。そうなるとしめたもので、あとは現場の方々自らがホワイトボードに向かって「俺はこうなったほうがいいと思ってるんだ」といった話をしていただけるようになる。我々はそれを単に集約してプロトタイプにするだけ。そこまで持っていくことができるなら、グローバルで見ると今は少し足踏みしている日本企業も、デジタル化に進むのではないかなと期待している。

モノづくりが得意な日本型企業は、タコツボ化を乗り越えることができるか

長島聡氏(以下、敬称略): 先ほどタコツボという話をしたけれども、なんというか、恐らく一人ひとりの価値観が狭いのだと思う。一生懸命に働いて一生懸命に極めてきただけに。そこが一番の問題だ。じゃあ、タコツボになっている理由はというと、上司との関係がレポーティングラインを含めて画一的になっているから。それなら、かつての「グーグル20%ルール」のように、「従業員の活動の10%は他部門、あるいは外の企業と対話をしなければいけない」といったことをするだけでもすごくいいんだろうなと思う。

あと、最近はダイバーシティという言葉がよく出てくる。で、これは「組織のなかに多様な人がいるというのが大事なんだ」と捉えることができるけれども、たぶん、それは最終的な目的じゃない。変な言い方だけれども、「一人ひとりの頭のなかにいろいろな人がいる」と言えるほど、妄想できるようになることが大事なんだと思う。そのためにも違う価値観を持った他部署や他企業との交わりを増やすことが、まずは1つ、すぐにできる、またはやるべきことだと思っている。

秋山: インダストリー4.0の実現に関して、会場の皆さんにもご質問やコメントをいただきたい。

日本型の強みをデータやアルゴリズムがアシストする可能性

会場(御立尚資氏:ボストンコンサルティンググループ シニア・パートナー&マネージング・ディレクター):「周囲に見えないけれども実は品質を高めている職人の知恵や工夫」を、データを使って、そして人間のコグニティブリミット(認知的限界)を超えて、どんどん活用するということが本来は可能なんだと思う。ただ、インダストリー4.0の文脈ではそれがあまり語られてこなかった気がする。そうした日本型の強みをデータやアルゴリズムがアシストするような形の可能性について、どのように見ておられるだろうか。

長島: 匠の技を、AIを使って再現もしくは凌駕するというお話だと思うけれども、技術的にはできると思う。すべてデータとして取っていけば間違いなくやれるのではないか。本当に職人レベルとなるような、背景まで含めたデータを捉えられるかどうかというのはチャレンジだと思うけれども。それともう1つ難しいのが、職人が捉えている背景の世界も含めて、個別の事象がすべてバラバラという点だ。したがって、端的に申し上げると最終的な費用対効果が合うかどうかという問題がある。

馬場: 私としてはインダストリー4.0では「強みを生かす」という考えを止めたほうがいいと思っている。「強みをアルゴリズムにしてアセットにして、量産またはスケールさせる」といった話になると、クオリティという点で、どうしても前世代の3.9999の世界と比べてしまう。比べても仕方がないのに比べてしまって、それで抵抗勢力が出てくる。だから、弱みをブーストするという考え方をしたほうがいいんじゃないかな、と。今はデジタルを使えば、業態転換も可能だ。だから、やっぱり強みを生かすよりは、「これ、自分たちは持っていないぞ? さあ困った。でも、うまくやったら誰でもできるじゃない?」といった発想転換をする。そういうことを思考技術のトレーニングによって量産できるようになれば、まだまだやれるんじゃないかなという気がする。

新野: ‘available data(使用可能なデータ)’と‘required data(求められるデータ)’は大きく異なると思っていて、‘available data’だけではなかなか進めない領域もある。じゃあ、そこでどんなデータを採ればいいのかといったことをもっと突き詰めていければ、一般化・汎用化して外に展開していく可能性も見えてくるように思う。

秋山:ありがとうございました。今回は事業転換やデザインシンキングといったいろいろなキーワードが出てきたし、変わることは大切だけれども、「変えてはならない自分たちの大切な軸足もあるんだ」と。そういうことも今日のセッションで改めて確認できたと感じる。本セッションのなかに、会場の皆さまに何か持ち帰っていただけるような気付きや学びがあれば幸いだ。どうぞ、パネリストの皆さまに拍手をお願い致します(会場拍手)。

 

※この記事は、2016年11月3日にグロービス経営大学院 東京校で行われた、G1経営者会議2016 第4部分化会「第4次産業革命がもたらす製造業の新たな進化形」を元に編集しました

 

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