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特別編 ベトナム徒然日記 その1

投稿日:2008/07/11更新日:2019/04/09

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田崎正巳・グロービス経営大学院客員教授が、近代化と素朴さの共存するベトナムを訪れ、ビジネスの現場を巡る。市場経済の導入と対外開放を柱としたドイモイ路線に転じてから20年余。公私に渡り、アジア諸国を訪ねてきた経営のプロフェッショナルの目に、ベトナムの今はどのように映るのだろうか――。

おびただしい数のバイクが行き交うハノイの街

以前からベトナムへ行ってみたいと思っていました。私はアジアへの関心は高いほうだと思いますが、ここ最近はビジネスがらみでアジアへ行く機会が減ってきたので、ベトナムなどの新興国といわれる国の“今”を実際に見てみたいと感じていたのです。

幸い、高校時代の友人Hが現在、ベトナムに駐在しているので、彼に相談してみました。特にクライアントに頼まれている仕事でもないし、これといった明確なテーマがあるわけでもない私の“ぼんやりしたニーズ”に、彼は即座に応えてくれ、1週間という日程で北のハノイ、中部のダナン、そして南のホーチミンのビジネスの最前線におられる方々とのミーティングをいくつも組んでくれました。「さすがは大企業のベトナム事務所長だ」と感服しました。

私の事前のベトナムについての知識は乏しいです。ベトナム人は「勤勉」「きれい好き」「手先が器用」という程度しか知らないし、滞在経験も、4年前にホーチミンを訪ねたきり。今回の旅では、多くの経営者が注目しているこの国のビジネスの現場も少しでも感じられればいいな、と思いました。

ベトナム人気を裏付けるように、航空券の予約段階から兆候がありました。出発1カ月以上も前で、しかも平日の出発にもかかわらず、予約が取りにくくなっていました。キャンセル待ちを織り交ぜながら、結局は羽田―関空―ハノイというコースになりました。機体が小型のボーイング737ということもあるのでしょうが、機内はやはり満席でした。このキャパシティでは、早晩ベトナム便は足りなくなるだろうと思いました。

夜遅くに到着し、Hの用意してくれた車でホテルへ向かいました。最初の感想は・・・?「皆がヘルメットをかぶっている」です。ベトナムはご存じの通り、バイクに乗っている人が非常に多い国です。以前に見たときは、ヘルメットなど付けている人はほとんど誰もいませんでした。が、今回は違います。例外なく、皆かぶっていました。

翌日Hに聞いたら、昨年12月にヘルメットをかぶることが法律で定められたのだそうです。反対意見も多かったようですが、政府の強力なキャンペーンが奏功し、定着しつつあるのだそうです。

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ホテルから見た街の様子。超近代的ビルと前近代的な小さな家が共存。20年前のタイのよう

ホテルで目覚めて、最初に感じたのは、「ああ、ここはアジアだな。朝からけたたましいクラクションの音が聞こえる」でした。車のクラクションは、民度を測る一つの視点だと思っています。日欧米の先進国では、クラクションを鳴らし続ける車はほとんどないし、クラクションの音も上品でソフトです。

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近代的な街にのんびりとした風景が混ざっているのもアジアの魅力

ですが、途上国の多くはひどいクラクションを鳴らし続けて走りますし、音そのものもなんだか安っぽい音が多いです。タイの20年前はうるさいほど、クラクションが鳴っていましたが、最近は少なくなりました。シンガポールは先進国並みです。15年前の中国でのクラクションには閉口しましたが、最近の上海あたりはかなり少ないです。そういう観点で行くと、ハノイは20年前のバンコクくらいかなという気がします。

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バイクの洪水

それにしてもこのバイクの洪水は一体何なのだろうと思いました。ベトナムへ行ったことある方はわかると思いますが、おびただしいなどというレベルではないような気がします。昔のバンコクとも違いますし、中国の自転車とも違います。密度で言ったら比ではないような気がします。

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バイク屋さんの店頭かと思うくらいの駐車数

都市部では、人口の2人に1人くらいの普及率だとも聞きました。公共交通機関が乏しいのもその一因とされています。もちろん、電車や地下鉄はありません。列車は都市間交通であって、都市圏交通としては機能していません。確かにアジアに多いバスもとても少ないです。

ハノイやホーチミンでは、東京の地下鉄で通勤する人がほとんど皆、バイクで通勤しているくらいのイメージがあります。実際、市内の定期バスはかなり少ないようにも思いました。

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バイクの定員は2.5人(大人2人子供1人)。
写真中央左側の子供を前に乗せている夫婦は合法

とにかくバイク、バイク・・・。バイクは20万円くらいはします。もちろん、中古や中国製はもっと安いですが、それでも台数の7割近くは日本メーカー製です。1人当たりGDP が800ドルの国で、なんでこんなにバイクが?

走っている車も新興国用に開発した車が多いですが、ベントレーは極端にしても(ハノイで数台ありました)、ベンツやレクサスは相当な台数走っています。

いろんな疑問を抱きながらの、ベトナムの旅となりそうです。

日本企業がベトナムとうまく付き合うためには?

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女性が腕を組んで歩く姿が多い。欧米人は誤解するかもしれない・・・

到着の翌日の午前は、ベトナムでIT系の会社を経営しているA氏とのミーティングです。A氏は、カンボジアの開発に携わった後、ハノイのIT会社の経営をしているというインドシナ半島のプロのような方です。温和そうな中にも自信に満ちた語り口が印象的でした。私はIT系に興味があったので、いろいろ伺いました。

まず私から、「日本のIT企業にとって、インドはなかなかコントロールしづらい面が多いので、ベトナムに期待しているようなところがある」と、申し上げました。ITといえばまずはインドですが、日本企業が協業しようとすると、なかなか難しい面が多いのです。

日本企業はソフトウエアの“切り分け”(システム全体の内、どの部分をどういう責任で分担し、下請けに出すかの切り分け)が苦手です。大企業の下請けソフト会社は、いわゆる人間関係で付き合っており、契約上はいろいろあるけど、最後は「上手くやってくれる」という便利な存在です。その代わりとしてインドの会社を使おうとすると、結構、面倒なのです。

インドをはじめ、他国のソフトウエアの会社とはきちんとした契約を英語で精緻に結ぶことが求められます。ですが、日本の大企業のプロマネはあまりそういうことに慣れてないので、インド企業に開発を外出しにする際にはその準備や使い勝手でかなり戸惑うことが多いようです。

インド企業にとっても、「何を頼んでいるのか」を明確に言語化できない日本企業は難しい存在で、そういうことに慣れている欧米系との仕事のほうが多いようです。

そもそも、今回改めて理解しましたが、インドは既に相当なIT先進国なので、日本企業が“下請け”を使うようなつもりで付き合うのはかなり難しいのだそうです。下手すりゃ、技術レベルも向こうの方が上なんですから。

A氏は、「インドに“力仕事”を出してもメリットはない。インド人には“なあなあ”の仕事の任せ方は無理。インドへ行くのは、コストではなくノウハウを得るためと考えた方がいい」と、言います。

IT系の人材は不足気味

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ベトナムのオフィス風景

そこでベトナムです。ベトナムではどうかと伺ったところ、やはりインターフェイスはどこでも日本企業は得意ではないようです。でも、ベトナム企業はインドに比べて出遅れ感もあるし、現実に技術ではインドにかなわないので、日本企業のニーズに応えようと努力はしているそうです。

つまり、“力仕事”と“なあなあ”に応えようという姿勢はある。問題は、IT人材の採用で、人口8500万人で豊富な労働力が魅力と言われますが、それはワーカーレベルを対象にした場合で、IT系は非常に少ないそうです。

「ハノイでは、ハノイ工科大学の卒業生1万人の中からせいぜい500人くらいがポテンシャルだ」とA氏は言っていました。しかも、トップ大学なので大変プライドが高く、上手く扱わないと転職してしまうと言います。

皆、大学時代に相当勉強しているので、優秀なことは優秀。ただ、「

覚えることは得意だが、考えるのは苦手」とA氏は言います。日本も他人事と笑っていられませんが、この辺はアジア全体の「記憶力テスト」の弊害なのかもしれません。

現地の他の方々からもよく聞いたのが、「ベトナム人の新人はミーティングができない」との悩みです。問題点を出し合って、解決策のオプションを出して議論し、最終的にどうするかを決める、という一連の過程が理解できない。なんでも結論を教えてほしいという。自分では考えない、なのだそうです。

日本企業にとってベトナムを、大量IT技術者による低コストソフト開発の下請け地域と考えると、短期的には大きな期待はできないかもしれません。いくつか上手くいっているところもありますが、それは教育からすべて引き受ける覚悟が必要になります。

例えば大手自動車会社N社の子会社。ここはタンロン技術学院という専門学校と提携し、1年半くらいトレーニングだけをし、仕事はさせない。教えるのは、日本語とCAD-IT技術。全部やり方を社内流に合わせてしまうので、インターフェイスの問題も起こりにくい。そこまでやらないと、効率的な活用は難しいようです。

IT教育や日本語教育を仕掛けていくくらいのプランが必要

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オフィスビルとともに外国人向けマンションが立ち並ぶ

ベトナムは非常に若い国です。若いというのは、新興国というイメージだけでなく、30歳以下の若者が50%以上いるという現実的な数字もあります。実際、40歳代以上はベトナム戦争という辛い歴史のため、あまりいないというのです。またその世代はドイモイ政策(刷新、開放政策)前の共産主義時代の感覚の人も多いため、ビジネスの現場では若い人たちが力を持ってやっているのです。

ベトナムは南北に長い国家です。北のハノイと南のホーチミンは、歴史的にも文化的にもかなり違います。A氏によれば、南の人々は独立心旺盛なので、IT企業の場合はあまり大きくならないそうです。「優秀なNO.2は辞めて、自分で会社を興すからだ」と言っていました。

ホーチミンにあるIT企業のトップと会うとすごく優秀で、「この会社と仕事してもいいなー」と思うそうですが、その企業のNO.2が出てくるとがっかりなんだそうです。逆に、ハノイは突出した人は少ないが、比較的組織でやっていこうとする人が多いそうです。これを聞く限りは、日本人には北のほうが合っていそうな気もします。

A氏は「次はカンボジアです」と言っていました。彼のITカンボジア説は有名らしく、日経ビジネス誌やテレビ東京が取材に訪れ、報道しているそうです。彼の論理はわかりやすかった。要するに大学生の数です。

ロイヤルプノンペン大学など3つの大学で、IT系の学部卒業生が年間2000人いるそうです。そのうち、実際に戦力として使えそうなのが1割の200人。日本の大企業としてはたいしたことない数字ですが、ベトナムへ来ている小さなソフト会社からすれば、年間200人は魅力的だそうです。また、日本語学科は100人いるそうです。

進出の可否を、マーケットや国民性ではなく、大学卒業生の数で論理的に話す方には初めて会ったので、なんだかとても面白い視点だなと思いました。

ベトナム国内のIT市場についても伺いました。業務でPCを使っている企業は全体のわずか5%しかいないという3年前のデータもあるそうです。私の感覚では、これは中国の沿岸部の企業よりはずっと少ないでしょう。

もちろん、多くの企業でもメールやインターネットは使っていますが、それ以外という意味です。あるとすれば、銀行でしょう。A氏が言うには、「庶民は中国以上に政府を信用してない。銀行に対してはもっと信用してない」。つまり、ほとんどがタンス預金。銀行はITシステム化を強化することによって、より多くのタンス預金を獲得していきたいと考えています。

日本企業にとっては、日本語ができるIT技術者が多くいれば、大いに魅力的な地域になると思います。そのためには、日本企業がみずからIT教育や日本語教育を仕掛けていくくらいのプランが必要でしょう。でないと、結局インドと同じように欧米基準で学んだ人たちが増え、面倒な日本企業を避けるようになると思います。もちろん日本企業自身が変わるというのもありですが、まあ無理でしょう・・・。

A氏のように10年もインドシナ地域で活躍している人は腹が座っていると言うか、かなり冷静な目でベトナムを見ているなと感じました。また同時に、この地域への愛情があるからこそ、いいことも悪いこともまとめて受け止めているのだろうとも思いました。

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