『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』―なぜ、私たちは視野狭窄に陥るのか? 

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「人材育成は人類学の視点も踏まえたアプローチが必要だと思う」――そう言って、教育業界で働く知人から勧められたのが本書でした。

著者はフィナンシャル・タイムズ紙アメリカ版の編集長で、元文化人類学者という異色の経歴の持ち主です。本書では、文化人類学の視点から「人間の癖」=「サイロ化」が世界で起こるあらゆる課題の阻害要因となっていることを指摘しています。

「サイロ」という言葉は、多くの日本人には聞きなれない言葉かもしれません。雄大なトウモロコシ畑などに佇む穀物格納の塔を「サイロ」と呼びますが、そこから転じ、核兵器の格納庫や、他から隔絶して活動するシステム、プロセス、部署等を指す言葉として使われています。組織が細分化し、孤立し、全体状態に対応できなくなること。既存の方法に固執して、他の方法を検討しないこと。視野狭窄、排他主義、セクショナリズム…等などが「サイロ化」です。「タコつぼ化」と呼んだ方が私たちにはしっくりくるでしょうか。

例えばソニー。「サイロ化」に阻まれて凋落したと著者は分析しています。あるいは、シカゴ警察。「サイロ化」を壊すことで殺人犯罪率を一気に下げました。さらには、フェイスブック。「サイロ化」を排除するための人事施策が紹介されています。本書にはこうした「サイロ化」にまつわる様々なエピソードが記載されています。

専門性や効率性を突き詰めるための「サイロ化」は社会の進歩のためにも重要ですが、その「サイロ」に籠って外界との接点が薄くなると、知らぬうちに様々な問題が引き起こされます。「サイロ化」することが人間の癖だとしたら、逆に意識的に作られた「サイロ」から脱する努力をしなければならないと著者は言います。

私自身も、学生時代に海外留学した際に、日本人の当たり前が当たり前でないという衝撃を受けた経験があります。まさに自分の中の「サイロ」が容赦なく壊された結果、様々な事象に対する許容度が高くなったように思います。とはいえ、昨今のBrexitやトランプ大統領の誕生等を見ると、自分の歴史観や世界観、人間観の当たり前が当たり前ではなく、いかに1つの「サイロ」の中から物事を見ているのか、あらためて考えさせられました。

海外に行かずとも、自分とは異なる「サイロ」のヒトと交流したり、別の「サイロ」に飛び込むことも重要です。例えばいつもと違う情報サイトを覗いてみる、異なる業界の交流会に顔を出してみる、違う切り口でデータを分析してみる…日常的に「サイロ」を出る手段は様々あります。企業の観点では、ダイバーシティー推進は「脱サイロ」につながるでしょう。また部門間交流や異動、評価制度も有効な手段です。

物理的にも心理的にも、「サイロ」を作るのが人間の癖だからこそ、自分がどのような「サイロ」に属して世の中を見ているのか、まずはアウトサイダーの立場で俯瞰してみてはいかがでしょうか。あるいは意見の異なる相手の「サイロ」にインサイダーとして入ってみましょう。その時、これまで解けなかった問題がふと解けるかもしれません。ぜひ本書を通じて、自分の心の中や自分の所属している組織に分厚い「サイロの壁」ができていないかを振り返ってみて頂けたらと思います。
 

『サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠』
ジリアン・テット(著)、土方奈美(訳)
文芸春秋
1660円(税込1793円)

 

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