KPI達成に向けて、あなたの部下は正しく動いていますか? 

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今回は、近年何かと話題となっているKPI経営について考えてみましょう。

KPI(Key Performance Indicator:重要業績指標)とは、経営目標や戦略目標を達成する上で重要な指標(数字)のことです。会社や事業部の問題解決や評価に用いることもできますし、個人レベルの問題解決・評価に用いることも可能です。

例えば営業部門や営業担当者であれば、売上げや受注額、新規顧客獲得数、既存顧客のリピート率などが典型的なKPIとなります。開発部門であれば、取得特許数や新製品開発数などが代表的なKPIとなるでしょう。

これらを適切に設定することにより、PDCAをしっかり回し適宜問題解決をしながら、同時に組織や個人の能力開発やモチベーションの向上を図ろうとするのがKPI経営の主眼です。近年注目されている「見える化」と重複する部分も大きく、通常は同時並行的に浸透が図られます。

KPI経営は正しく運用されれば、まさに上記の目的を達成することができ、組織の生産性を大きく高めます。一方で、時には「意図せざる、望ましくない結果につながる行動」を促すこともあります。今回はここに焦点を当てます。

KPI達成に向けて好ましくないアクションをとった典型例に、たとえば「スーパードライ」発売以前の低迷期のアサヒビールの営業担当者の行動があります。当時は、アサヒビールの営業担当者の重要なKPIは売上高でした。それ自体はよくある話ですが、何がよくなかったのでしょうか。

いまでこそ「新鮮さ」が差別化要因ともなっているアサヒビールですが、当時は消費者にあまり美味しいビールとは認識されておらず、営業の現場では販売に大きな苦労を強いられていました。この状況下で売上達成が強調された結果、年度末には流通チャネルへの押し込み販売が横行したのです。これは反動として翌月の売上低下を招いただけでなく、在庫の長期化による味の劣化も招くことになったのです。

つまり、
「美味しくないビールを強引にチャネルに売る」
→「店頭で売れない」
→「味の劣化を招く」
→「消費者に美味しくないビールと認識される」
→「ますます売りにくくなる」
→「さらに強引な販売が必要になる」…
という悪循環が生じてしまったのです(このパートの記述はハーバード・ビジネス・スクールのケース「アサヒビール株式会社」を参考にしました)。

この例は極端な事例かもしれませんが、こうした状況は同社に限らず、少なからずどの会社でも見られる話でした。

このようなこともあって、近年では、売上高といった最終的な結果指標だけではなく、顧客訪問回数や提案書提出回数といったプロセス指標も同時に見る会社が増えてきています。

ただ、これにも落とし穴があります。たとえば最後まで売り切る力は弱い営業担当者が、顧客訪問回数や提案書提出回数も評価対象になったらどのような行動をとるでしょうか。たとえば「売れなくてもいいから、とにかく訪問数だけは増やそう」と考え、意味のない顧客訪問を繰り返す可能性が生じかねません。これは会社にとっては経営資源の浪費です。

つまり、プロセス指標の過度な重視は、ファネル分析(消費者が購買までのプロセスのどこで離脱するか見ること)に基づく施策を打つ際などには確かに一定程度役に立つものの、場合によっては売上げや利益といった最終成果達成への貪欲さを失わせたり、意図せざる不都合を招く可能性があるのです。

では、こうした落とし穴をどうすれば避けることができるのでしょうか? ここでは2つヒントを提示します。

1つはKPIのバランスや、そのKPI達成に関するインセンティブの設計を適切に行うことです。「人間はインセンティブの奴隷」という言い習わしもあります。自分が組織の中で高く評価されるような行動をとることはある意味自然です。先述したように、営業担当者が最終売上高を極端に高く評価され、ボーナスなどもそれに大きく連動していれば、当然、手段を問わず売上げを上げるように行動します。もっと極端な場合には売上数字を捏造しかねません。

難しいことではありますが、多すぎもせず少なすぎもしないKPIをバランスよく貼り付け、かつ意図せざる好ましい行動を防ぐようなインセンティブを付与することが、当たり前ではありますが大切なのです。必然的に、人間のモチベーションや、会社や事業部が勝ち残っていくための戦略に対する深い洞察が必要になります。それなくして、適切なKPI経営はできません。

第2は、KPIに過度に頼りすぎるのではなく、対話、コミュニケーションをしっかりとることです。よくある悪いケースは、KPIで見える化されていることに油断し、日常の部下とのコミュニケーションを怠ってしまうことです。

日常のコミュニケーションが欠如している中で、突然、四半期末のMBO面談などで厳しいフィードバックを与えたりすれば、人間は困惑しますし、上司や会社に対して大きな不信感を抱きます。

KPIという数字に頼りすぎるのではなく、数字があるからこそむしろ日常の対話のきっかけになるくらいの発想をもって、しっかりコミュニケーションを深め、部下を適切な方向にディレクションすることが、上司の大事な務めなのです。

皆さんの会社や職場でこうしたことが適切に実施されているか、一度しっかり見つめ直してください。
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』『「MBA 100の基本』(以上東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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