第3回 何が言いたいのかわからない~それじゃあ、相手に伝わらないよ~ 

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日常のビジネスシーンに潜む数々の“落とし穴”。なかでも、営業先でのプレゼンや得意先へのメールなどコミュニケーションにおける転ばぬ先の杖を中心に、グロービス経営大学院で教鞭を執る嶋田毅が紹介する新連載。第3回は、相手の関心を理解し、事実を踏まえた分析をしたにも関わらず、上司を説得しきれなかった、健康器具販売会社・営業管理担当のケースを見てみよう(この連載は、ダイヤモンド社「DIAMOND online 」に寄稿の内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

前回は、プレゼンテーションの時に起こりがちな、『聞き手の関心を外す』という落とし穴を取り上げた。「内容が正しい=相手の態度変容や行動につながる」ではないことをお分かりいただけたのではないだろうか。

第3回の今回は、せっかく相手の関心を理解し、しっかり事実も押さえて分析もしたにもかかわらず、その伝え方が悪くて意思決定にまでいたらなかった例を紹介する。

【失敗例】法人向け健康器具販売P社 本郷君のケース~時間をかけて分析したのに!~

本郷君は健康器具販売を主業務とするP社で営業管理の仕事をしている。P社は、商流は販売代理店を通す形をとっており、テリトリーごとに数社の販売代理店を使い分けていた。

半年前に市場導入した「ヘルシーWエックス」は多目的マッサージチェアにさまざまな測定器具を付加した製品で、利用者の健康状態や疲労箇所などがすぐに診断できるのが売りである。定価は50万円で、代理店への標準仕切り価格は40万円である。高額なこともあって、今のところ、1事業所あたりの購買台数は1台となっている。代理店からの要望に基づき、P社の営業担当者を説明に派遣したり、パンフレットなどを提供したりすることもあるが、それらのコストはP社の負担であった。また、代理店によっては、追加の販促費を必要とするところもある。

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本郷君は、まず、過去の各代理店の実績を分析してみた。販売台数はすぐにわかるので、問題はコストだ。適切な前提を置き、販売1件あたりどのくらいの変動費的コストがかかるかを分析した。その結果が右の図1である。

本郷君は考えた。「一番台数を売っているとはいえ、浅田産業は経費がかかりすぎていて、コストパフォーマンスは良くないな。取引条件も厳しいし、彼らでしか売れない顧客以外は取引を縮小してもいいかもしれない。
図1:代理店別「パフォーマンス」と「コスト」

逆に、遠藤商事と長田産業はコストパフォーマンスも良好だ。
この2社は伸ばせる可能性があるかも。あと、内田工業は切ってもいいかな。これを一文字課長に伝えよう」

本郷君は、さっそく図1を見せながら一文字課長に説明した。一文字課長は多忙で、かつ海外出張を控えていることもあり、数分程度の時間しかとれなかった。

「課長、この資料を見てください。『ヘルシーWエックス』の販売実績について分析したものです」
「うん、やはり浅田産業の販売台数が一番多いのか。ここだけ30台を越えているね。あそこは大手だからな。内田工業はやはり今ひとつだね」
「いやそうではなく、浅田産業はちょっとコストがかかりすぎだと思います。いっそのこと浅田産業との取引を縮小して、その代わりに遠藤商事と長田産業に注力してみるのはいかがでしょう」
「おいおい、一番売っている代理店との取引を減らすのか?それは無茶だろう。まず切るとするなら、内田工業じゃないのか?」
「そうはおっしゃいますが、浅田産業は・・・」
「やはり販売力は魅力的だからな。とにかく、内田工業をどうするか考えておいてくれ」
「・・・」

本郷君は席に戻って考えた。
「なぜ、これだけ明確な事実があるのに、一文字課長はわかってくれないのだろう?」

【解説】なぜ本郷君は失敗したのか?~「正しい事実を提示」=「相手が理解できる」ではない~

前回は、事実を示しているにもかかわらず、相手の関心を外してしまい、せっかくの事実が無価値になる例を示した。今回の事例は、関心を外しているわけではないものの、「見せ方」が拙く、相手に伝わらない例といえる。
本郷君が一文字課長に示した図1をもう一度見てみよう(なお、事実や分析の信頼性に問題はないものとする)。これを見て、6つの代理店のパフォーマンスを直ちに理解できた方は、おそらくかなり数字に強い方だ。多くの方は、かなりじっくりと読み込まないと、ここから何が言えるのかを引き出せないのではないだろうか。

今回のような定量分析に限らず、分析の目的は最終的に人を説得し、行動につなげることである。分析力がある人がよくやってしまうのは、「事実や分析結果がしっかり出ているのだから、それ自体が自動的に説得力を持つ」と錯覚してしまうことである。

残念ながら、多くの聞き手は、そこまでの判断能力を持ち合わせてはいない。仮に能力があったとしても、多忙すぎて適切な意思決定をするには十分な時間を確保できないかもしれない(実際、意思決定者たる多くの管理職は忙しい)。これでは、せっかくの情報収集や分析が無駄になってしまう。

こうした失敗を避けるためにも、その分析結果から何が言えるかを明確に示す(メッセージを示す)とともに、分析結果の見せ方そのものにも工夫を凝らすことが必要だ。

この観点から図1を評価すると、以下の点で不十分である。

・メッセージがない。結局、本郷君が何を主張しているのかがわからない。
・さらに、タイトルもないため、時間が空くと「何の分析だっけ」ということにもなりかねない
・グラフではなく表を用いているため、ビジュアル面での訴求力が弱い
・百歩譲って表で伝えるにしても、あまりに工夫がない
――意図のない、アイウエオ順の並び順
――ハイライトなどがないため、どこを注目していいか分からない
――平均が示されていないため、比較感がわかりにくい

こうしたポイントを意識した上で、「表」ではなく、「グラフスライド」に作り直したのが下の図2である。ボディ(スライドの主内容)に盛り込んだデータそのものは図1と同じであることに注目いただきたい。主メッセージに直ちに同意するかは別として、本郷君の伝えたいことはかなり明確に伝わるはずだ。

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図2:代理店別「パフォーマンス」と「コスト」 (※「グラフスライド」に修正したもの)

「せっかくの事実が伝わらない」という落とし穴を避けるには?

こうした落とし穴が起きてしまう典型的なパターンとしては、以下がある。

■そもそも、メッセージ=「そこから何が言えるか」を明確化する習慣がない。

■相手の理解力や置かれた背景に無頓着で、自分がわかるものは相手にもわかるはず、と思い込んでいる。

■相手に対する配慮やサービス精神に欠ける。

■グラフやチャートなどに関して、十分な「武器」を身につけていない。

上記のような「落とし穴」を意識した上で、以下に注意されるとよいだろう。

■必ず、「そこから何が言えるか(So What?)」のメッセージを考える
最初は「この情報だけでここまで言い切っていいのだろうか」など、言い切るのは難しいと感じるものだが、そこで思考停止していては先に進まない。事実や分析結果をそのまま右から左に流すのではなく、自分なりの解釈を加え、メッセージを捻り出すことで、始めて付加価値が付くと考えていただきたい。仮にそのメッセージが結果的に誤っていたとしても、よく吟味されたメッセージは、組織に健全な議論や新しい視点をもたらすものである。
■相手の立場や関心を意識する
ビジネスは1人では動かない。人を動かすためには、その人の立場にたって物事を考えるべきである。相手が持っているであろう情報や価値観、スキルレベルなどにも意識を払いたい。
■見せ方の「武器」を増やす
幸い、近年、さまざまなプレゼンテーション関係の書籍が出ている。これらを利用してまずはミニマムの武器を身につけるとよい。また、仕事や雑誌などで良くできたチャートに触れたら、積極的に「技を盗む」姿勢も持っておくとよい。
現実には時間は無尽蔵ではないから、資料作りに避ける時間は限られている。だからこそ、全体感を持ち、手間ひまをかけるべき資料については、上記を意識し、しっかり良いものを作りたいものである。

追記:なお、数値分析を用いていかに相手の行動や態度変容を促すか、というテーマに関しては、筆者のグロービス経営大学院の同僚である田久保善彦氏が主に執筆した『ビジネス数字力の鍛え方』(グロービス著、ダイヤモンド社刊、7月3日発売)に詳しい内容が載っている。筆者もプロデュース、編集に携わっているので、ご興味のある方はぜひご一読いただきたい。

次回は、『指示の落とし穴』について、ご紹介します。

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