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見たことのない日常風景を切り取る―スナップに必要な“二つの目

投稿日:2008/06/27更新日:2019/04/09

旅先で非日常を撮る。また、食べたモノや面白かったモノをブログに載せるために撮る。これは多くの人がしていることだ。しかし、スナップのもう一つのジャンル「ストリート・スナップ」とは? マーケティング・コンサルタントの郷好文氏が、プロカメラマンに入門する(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年6月19日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

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写真がうまくなりたい―そう願うようになったきっかけは、ありふれたことだった。“ちょっとピンぼけ”ならぬ、かなりピンぼけの写真を撮りまくり、悔しさをかみ締めた。ピントだけでなく、アングルもタイミングも下手くそな、我が腕・我が目をなんとかしたかった。この連載の取材ではデジ屑を量産。原稿と一緒に写真を送ったのに、掲載時にボツ画像になったことも数度ある。

本誌の吉岡編集長は写真好きで、デジカメを複数台持ち、取材活動からその日のおやつまで、ズン!と、レンズが突き出したデジ一眼で撮る姿が印象的。おりしも同僚Cherryさんまで、ソニーのデジタル一眼レフ「α350」を買い「うまくなろうかな」と言う。近頃は、多くの女がすなる“カメラ日和”だ。カメラ上手への憧憬が沸点に達して、ついに「写真教室に行きたいんだけど」とCherryさんに話した。

実践スナップ写真コースに挑戦

申し込んだのは、ソニーが提供する『ITエンターテイメントセミナー 日常を切り取ろう(スナップ入門)』。

「日常目にしている風景を切り取る」をテーマに、内容は講義と銀ブラの撮影実習の二つ。講師はプロカメラマンの坂口恵さん。プロ写真家活動の傍ら、講座や大学で写真を教え、FOTO ARCHIVE LORE(フォトアルヒーブ・ロア)という地域文化を記録する活動にも参画している。

6月8日の日曜日、車も人通りも少ない銀座に出かけた。

「デジ一眼ブームの牽引役は女性だろうから、女性比率が高いのかな?」という予想に反して、参加者は男性7名、女性3名。大画面のVAIO(写真編集講座用)が1人1台置かれる講義室に座り、α350が貸し出されて講義開始。黒縁眼鏡の坂口さんが、何を、どう撮ったらいいか?とパワーポイントの画面を映した。スナップには次の三つの種類があるという。

(1)旅・・・非日常の体験を記録するために撮る

(2)日記・・・ブログに掲載するため対象物を撮る

(3)街・・・ストリートのその時、その時代を無垢に撮る

「旅」は訪れた地の風景や経験の、いわば自分アルバム。「日記」は食べたものや語りたいものの記録。この二つは撮ろうとして撮るものだから、ストリートを撮るのとはちょっと違う。ストリート・スナップとは、何のためにどう撮るのだろうか?

流れる景色、一瞬を、即座の判断で写真に撮る

彼女の撮影写真の中で印象深いのが『田舎のコンビニ店内』の一枚。1メートルも長さがありそうな品書きに、スラスラと達筆で商品名が書かれ、ずらりと天井からぶら下がる。そんな景色を切り取ることを坂口さんはこう示した。

「流れる景色(時間・時代)、一瞬を、即座の判断で写真に撮る」

この一文の意味を、その時は実感できなかった。しかし講義も銀ブラ実習も終え、坂口さんにお話を伺った後で「ハハン、そういうことなのか」とまさに目からウロコが剥がれた。ストリート・スナップの意味を体感した。それを疑似体験してもらいたいので、私たちの写真をいくつか挙げよう。

講座参加者はデジイチを首から下げてソニービルの裏手に出た。坂口さんと講座スタッフの先導で、三々五々にゆっくりと8丁目方向に歩き、感じた風景を好きなだけ撮る。最初は何を撮ればいいのか戸惑う。だが数枚撮るうちに、風景と自分の目がだんだん合ってくる。戸惑いが消え、切り取りが楽しくなってくるのが不思議だ。

同じストリートを歩いても、人は違うものを観て、違うものを違う構図で切り取る。左の写真はCherryさんで、資生堂の1階ショーウィンドウにきらめく装飾。右は私の作品で広告塔が造形のように空に浮かぶ。てっぺんで2羽の鳥が話していた。

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街は引くだけではなく寄って観ると面白い。回転するエレベーターのボタンがユーモラス(Cherryさん)。駐車する真っ赤な2シータースポーツカーの側面に“Ayuロゴ”を発見(郷)。もしかしたらご本人の車だろうか?

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ルイ・ヴィトンのロゴのビルは、表面の素材感がいい。モノの素材や質感、テクスチャを切り取るのが写真の魅力。「柔らかい」と「固い」、「明るい」と「暗い」、メリハリをつけて撮ると表情が出る。撮影はCherryさん、絞り優先モードでF14。

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「何かな?」と見上げると脚立とビルの格子がまっすぐに伸びていた。日常風景をどんな高さから観るか。切り取る高さと角度を意識すると、構図が斬新になる。

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「近寄る・遠ざかる」「絞り優先モードでF値を変える」「テクスチャ」「高さ」。坂口さんが講義で話されたことを撮りながら確認し、撮影途中で質問できるのも魅力だ。

「アマチュアはたくさん撮るといいです」と指導があった。私は内心かなり撮ったと確信した。だがWebサイトアルバムのpicasaにアップすると、私は67枚、Cherryさんは168枚。う~ん101枚の差・・・量であり、質であり?

見たことのない日常風景を切り取る

だが67枚の体験でも“目からウロコ”の変化はあった。坂口さんとお別れし、ソニービル地下からメトロの銀座駅構内に出ると不思議な感覚があった。自分の目が、視界に入るものや風景をそのまま受け容れようとする。普段の目ではなく“自然体で受け容れる目”といおうか。

ショーウィンドウに、顔をぶつけんばかりに近づけて何かを見る女性の姿を切り取る。メトロ案内所のカウンター上に、無造作に置かれたパンフレットの不揃いさを切り取る。ありふれた風景が、まるで“見たことのない日常風景”として入ってくる。

ありのままのことを見る目、それを切り取ろうと判断する目。二つの目を持つことが、ストリート・スナップには大切なのだ。

日常風景の変化の記録はもう一つ意義がある。そして、時間が経つとその意味が分かる。

坂口さんは都市再開発やTX開通によって“秋葉原”が“アキバ”へ変わる頃、秋葉原の老舗喫茶店・古炉奈で個展『アキハバラの肖像』(2005年)を開いた。工事中のTXのホームや駅前再開発ビルのコンクリート肌が記録され、電気街にメイドが現れ、PCパーツショップの軒先が閉店し・・・“秋葉原”がノスタルジーに変化する記録だ。

私たちの写真教室の同日同時間帯に、アキバの歩行者天国で無差別殺人が起きていた。偶然にもあの“非日常”を切り取った人々がいた。その写真がネットに溢れた。あれもストリート・スナップだろうか? そうだとしても、しかも惨劇の後ならなおさら、シャッターを切るより手を合わせたいと思った。

▼「Business Media 誠」とは

インターネット専業のメディア企業・アイティメディアが運営する、Webで読む、新しいスタイルのビジネス誌。仕事への高い意欲を持つビジネスパーソンを対象に、「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとして掲げ、Felica電子マネー、環境問題、自動車、携帯電話ビジネスなどの業界・企業動向や新サービス、フィナンシャルリテラシーの向上に役立つ情報を発信している。

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