エスワイフード 「立派な変人たれ」 

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【理念】
立派な変人たれ

【エスワイフードの使命】
我々は立派な人間になるために学び、日々の仕事、生活を通して人格を磨き、
立派な人間としての行動を実践します。自らを向上させ、店を変え、
地域社会を変え、日本を変え、立派な国造りをし、世界を変える事を目指します。

【仕事の目的、働く意味】
1.立派な人間になる
私達は、仕事を通じてお客様・上司・業者さんと接することで人格を磨き、
魅力ある立派な人間になることを目指します。
立派になろうという決意をし、日々工夫、改善、学びを積み重ね、
人間としての成長を目指します。

2.感謝と感動を与える
人に喜ばれることは、自分にとっての最高の喜びです。
その原点は、親孝行であり、親への感謝です。
私達は「そこまでするか」というくらい誠意ある対応で、
お客様や仲間に感謝し、感動を与えます。

3.従業員と家族を守る
私達は、自らの力で生活の安定と向上の心掛けをし、
自分の家族を守ります。
会社は従業員を守るために、強い会社となり利益を出し、
永遠の繁栄を目指します。

【明るく元気にちょっと変】
私たちの目指す「変」という言葉には、「ユニークで面白いこと」
「変化していくこと」の2つあります。
どうすればお客様に満足して頂けるのか、もっと楽しんでいただけるのか、
誠心誠意のサービスと活気あふれる笑顔で、明るく、元気にちょっと変を追求します。

【「変」宣言】
・我々は「変」であることを楽しみます
・我々は毎日「変」を磨きます
・我々はみんなに「変」を伝えます
・我々は「変」であることを誇りに思います
・我々は「変」な人たちを愛します
・我々は「変」でみんなを幸せにします
・我々は「変」で世界を変えていきます

(以下略、エスワイフード「会社メニュー」9ページより)

店頭でのリクルーティング効果を生む小冊子

「幻の手羽先」で有名な居酒屋「世界の山ちゃん」は、名古屋地域の方で知らない人はいないだろう。もともとは地元名古屋に根ざしていたが、ここ数年は関東への出店を加速させ、名古屋31店舗に対し、関東14店舗を展開している(2008年6月現在)。オリジナルで美味しいメニューに加え、価格が極めてリーズナブルということもあり、顧客満足度も高い。

その「世界の山ちゃん」(以下、山ちゃん)を運営するのが、創業者の山本重雄氏が率いるエスワイフードだ。同社の理念もさることながら、その伝え方も極めてユニークである。冒頭に示した理念以下の内容は、同社が制作している「会社メニュー」という冊子とったものだが、この冊子の内容の豊富さは、各店舗に置かれ、顧客が自由に持ち帰れるものとしては出色である。カラー60ページにわたり、従業員の紹介、会社のさまざまな活動、社内の人事制度(福利厚生、のれんわけ、独立、特典など)、「家族から見た山ちゃん」など、同社のさまざまな特徴を、さまざまな視点から紹介している。

さらにユニークなのは、従業員の物語を20ページ程度の漫画の形で冊子化していることだ。2008年5月現在で、すでに6冊目が作られている。各店舗に置かれ持ち帰れるようになっているだけではなく、WEBからPDF形式で読めるようにもしてある。例えばVol.4では、「15歳で社会に出て、3日で山ちゃんを辞めようとした男が課長になるまでの物語」が紹介されている。

こうした取り組みの狙いは、第一に、顧客に対してコミットメントを示し、同時に従業員に規律をもたらすことであろう。顧客に対して「我々はこういう会社です。こういう人間がいます」を強烈に示すことで、従業員の退路を断ち、意識を高めることが期待されるのだ。

第二に、こうした理念に共鳴する人材を呼び寄せる効果がある(狙いとしては、むしろこちらの方が強いだろう)。数十店舗を展開する飲食業であるから、延べ顧客数は数百万人に及ぶ。そうした中には、就職・転職を考えている人間や、もともと飲食業に興味を持つ人間も多いだろう。そうした潜在的入社希望者に対し、分かりやすく、かつ強烈に組織のメッセージを伝えることは、単純ではあるが有効だ。

価値を伝えるツールとしての「ストーリー」

飲食業の特性として、基本的に分散事業であり、規模化が難しいという点がある。また、ある程度の規模までは、秀才型のホワイトカラーよりも、現場タイプの人材に対するニーズが圧倒的に高い。また、接客業であるから、従業員の行動がダイレクトに顧客満足に跳ね返る。こうした事業特性を考えると、秀才でなくてもいいから、やる気があり、人当たりがよく、会社の方針に共鳴できる人材を効率的に採用・育成することが、成長の鍵となる。

先述した漫画により、ロールモデルやあるべき行動規範、価値観を伝えるという手法は、その意味で極めて興味深い。近年、顧客に価値を伝えたり、従業員に望ましい行動規範を伝えるツールとして「ストーリー」や「エピソード」が注目されている。小欄の第3回目で示したリッツ・カールトンの伝説などはその代表的事例といえよう。我々グロービスでも、最近、社史を編み、創業以来の象徴的・代表的エピソードを23編ストーリー化した。山ちゃんが採用した漫画という表現形式には多少の異論はあるかもしれないが、ストーリーをさらに分かりやすく動画イメージで伝える手法として、今後もっと多用されていくのではないだろうか。

理念の内容そのものについて個人的に興味を持ったのは、「変人」うんぬんの箇所以上に、「仕事の目的、働く意味」の部分だ。特に、「3.従業員と家族を守る」に注目したい。先述の漫画「15歳で社会に出て、3日で山ちゃんを辞めようとした男が課長になるまでの物語」には、「若いころは、特に深く考えず、働いて、遊んで毎日が楽しければそれで良かった」という主人公が、30歳代を迎え、「ボクの人生、このままでいいんだろうか?」と不安に襲われる様子が描かれている。多少、語弊があるかもしれないが、しばしば言われることとして、飲食業はこうした“弱さ”を持った人々が集まりやすい側面も持つ。だからこそ、彼らに対する動機付け——組織との一体感、安心感、成功の機会提供などが重要となる。山ちゃんが発しているメッセージは、深読みすれば、「あなたは弱いかもしれない。しかし、どんな弱い人間でも、やる気を持って頑張れば結果を残せるし、そのように頑張る人間はとことん支援する。ぜひ、自分の特徴を活かして頑張ってほしい」と解釈できよう。

この姿勢が言葉だけではなく仕組みとしても回っている限り、しばらく山ちゃんの快進撃は続くだろう。ただし、ある程度の規模を超えると、より科学的な経営が求められるようになり、求められる人材の質も変化していく。そのときに、山ちゃんがどのような新しい施策を打ち出すか、注目したい。

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