ペルソナマーケティングとターゲットマーケティングは同じ?  

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今回は、今世紀に入ってよく聞くようになってきたペルソナマーケティングについて、オーソドックスなターゲットマーケティングと比較しながら説明します。

ターゲットマーケティングは、今でもMBAで教えられている基本的なマーケティング・プロセスである「STP-4P」の前提となるマーケティンの考え方です。市場全体を狙うのではなく、自社のマーケティングを効率的に展開しやすいターゲットを選び費用対効果を高めるという点がポイントです。

それに対してペルソナマーケティングとは、そのターゲットの中でも特に買ってほしい顧客イメージを極力具体的に記述し、彼/彼女に訴求するようにマーケティングを考えるものです。

有名な例ではカルビーの「ジャガビー」開発の際のペルソナ設定があります。このケースでは、カルビーはそれまでありがちだった「20~30代の独身女性」といったぼんやりしたターゲティングではなく、「27歳、独身で、東京の文京区に住んでいる女性。いまヨガと水泳に凝っている」というペルソナを設定し、

・彼女ならどんな商品を欲しがるだろうか?
・どんな雑誌を読んでいるだろうか?
・どんなタレントが好きだろうか?
・いつもどういう買い物の仕方をしているだろうか?

などと肉付けをし、彼女が望む商品開発、売り方を考案し、ヒットにつなげました。

(東京の地理に不案内な人のために補足をすると、文京区はほぼ山手線内にある、落ち着いた住宅街中心の区です。非常に交通の便が良い一方で、大きな繁華街はありません。東京大学やお茶の水大学などのある文教地区でもあり、治安も非常に良好です)

ペルソナをどこまで詳細に作りこむかは目的にもよりますが、年齢、性別、家族構成はもちろん、職業、年収、学歴・職歴、趣味、口癖、将来設計、価値観など、かなり詳細に設定することも少なくありません。

このようなペルソナの設定が流行ってきた背景にあるのはニーズの多様化です。従来型のターゲットマーケティングでも心理的変数などの切り口はありましたが、実際には人口動態変数や地理的変数によるセグメンテーションにとどまっていることも多く、「ぼんやりした商品設計」「ぼんやりした売り方」にとどまることが少なくありませんでした。これではマーケティングの効率は上がりませんし、競争にもなかなか勝てません。そこで、より想定顧客層に響き、かつエッジのたった商品開発や売り方につなげるべく、ペルソナを設定するようになったのです。

多くの企業ではペルソナにはコードネームとして架空の名前が与えられます。たとえば「黒日須華子さん」といった感じです。また、感情移入を促すためにビジュアルを設定することも少なくありません(イメージの合う写真やイラストを用いることもあれば、CGを使うこともあります)。関係者がイメージを共有できているため、コミュニケーションしやすくなります。

そのうえで、「華子さんはお笑いタレントは好きではないはずだ」「華子さんはコーヒーよりも紅茶の方が好きなタイプじゃないかな」などとペルソナになりきってその視点から議論するのです。結果として、マーケティングで最も重要な顧客視点が担保され、適切な商品開発や売り方が実現できるだけではなく、顧客との関係構築やCEM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)に関する洞察も得ることができるのです。

ペルソナという架空の顧客像に深く絞り込むことは、他の顧客をおろそかにすることにならないかという指摘もありそうですが、過去の事例では、適切にペルソナが設定できれば、エッジのたったマーケティングが実現する結果、トータルとしてはより良い効果がもたらされることが示唆されています。また、実務的には、ペルソナは、ターゲットをいくつかに分割したサブターゲットごとに設定することが一般的です。それらを総合的に勘案し、マーケティングに活かすため、全体として大外しすることも少ないのです。

このように見てくると、ペルソナマーケティングは、ターゲットマーケティングと全く異なるものではなく、ターゲットマーケティングをより効率的なものにする追加的、補完的な手法と言えそうです。

さて、これだけ聞くと良いことだらけのようですが、もちろん、難しさもあります。

第1に、ペルソナの設定の難しさです。ペルソナ設定失敗の典型は、当てずっぽうによるものです。「買ってほしい顧客イメージ」だけが先走りしてファクトの裏付けがないと、空論に陥ってしまいますし、最悪の場合、誰にも訴求しない商品を生み出しかねません。

天才的な閃きや抜群の洞察力があればともかく、そういう能力を持つ人材は稀ですし、再現性もありません。そこで実際には市場調査が行われるのですが、その費用はばかになりませんし、特に心理的な側面について適切に調査をするのは非常に難しいのです。また、出てきた調査結果の分析も簡単ではありません。

ペルソナがターゲット顧客の単純な「平均的顧客像」ではないという点も難しさを増します。ケースにもよりますが、先述したとおり、ペルソナはサブターゲットごとに設定するのが一般的です。そのサブターゲットへの分割が容易ではなく、それが非効果的なペルソナ設定につながることも多いのです。

こうした難しさはあるものの、うまくペルソナを設定できたときの効果は抜群です。ニーズが多様化した昨今、その意味と、典型的な効果と難しさは理解しておきたいものです。

蛇足ながら最後に質問です。少なくともこの文章はあるペルソナを私なりに設定して書いているのですが、皆さん、そのイメージは想像がつくでしょうか?
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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