イグジット: ゴールではなく新たなスタートの幕開け 

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『グロービスMBAビジネスプラン』から「イグジット」を紹介します。

イグジットはベンチャー経営者にとっては夢の一部と言えます。日本の経済を活性化する上でも、イグジットの道が多様化し、ロールモデルが増えることは望ましいと言えます。2000年代に入ってから、特に株式公開のハードルはかなり下がりました。ただ、やや安易に株式公開が行われるようになった結果、公開後の業績がさえない企業も多数生まれてしまいました。株式公開を最終目標とするのではなく、さらにその先を見据えた経営が望まれます。一方で、株式売却によるイグジットは、シリコンバレーなどに比べるとまだまだ多くはありません。こちらは今後とも大きな課題であり続けるでしょう。いずれにせよ、リスクをとって成功を収めた人間が適切に報われる仕組みが構築されると同時に、起業家精神を持った人材が、イグジット後もさらなる高みを目指すような仕掛けが必要なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

イグジット

創業者や初期の出資者が株式を売却し、利益を手にすることをイグジット(Exit)またはハーベスティング(Harvesting: 収穫)という。イグジットの主な方法としては、先述したように、株式公開(上場)、株式売却、MBO(創業者などによる買い取り)などがある。意外に知られていないことだが、投資家相手にビジネスプランを提示する場合には通常、イグジットプランを書き表しておくのが一般的だ。

イグジットをビジネスプランに含めておかなければならない理由は、主に2つある。1つは、出資者に対して出資へのリターンがどのくらい期待でき、それはどんな形をとるのかを示すためである。出資者は当然、自分が出資したお金がどのくらいの価値になって戻ってくるのかに大きな関心を持っている。期待されるほどの価値がもたらされないのであれば、出資を見合わせることも考えられる。

もう1つの理由は、創業者や創業メンバーの目標設定のためである。第2章のビジョンのパートでも示すが、具体的な目標を設定することは事業を進めていくうえでの大きな推進力となる。実際に、株式公開をビジョンの1つに掲げている企業は多い。

ここでは、イグジットの主な方法である株式売却と株式公開の2つの方法のメリットとデメリットについて検証していく。イグジットプランを練るときの参考にしてもらいたい。

 

株式売却

株式売却にもいくつか種類があるが、ここではイグジットの際によく見られる、過半数もしくは3分の2以上の株式を売却し、経営権までを譲渡する買収について説明する。

日本では、株式売却にはいまだにネガティブなイメージがつきまといがちだ。しかしアメリカにおいては、イグジットの方法として一般的に受け入れられている。最初からアーリー・ステージのみを手掛けて売却を想定する起業冢も少なくないし、ユーチューブ(YouTube)のように1ドルも収入がないうちに大手企業に事業を売却するケースすらある。

売却により、創業者や投資家は多額のキャピタルゲインを手にすることができる。また何らかの事情により(まったく別の事業を始めたい、もう引退したいなど)、事業から手を引かなければならない場合にも有効である。

株式売却において大事な点は、いま自分が持っている事業がどれくらいの価値かあるのかを、定量的にも定性的にも判断したうえで検討することである。

企業の価値を算定する方法はいくつかある。主なものとして以下のものがある。

(1)    その会社の資産をベースに計算する方法
(2)    類似会社の株価をもとに算定する方法
(3)    キャッシュフローをベースにした事業価値の算定方法を応用する方法

事業やライフステージによっても変わるが、最近では(2)(3)が用いられることが多くなっている。詳細な算定方法は『[新版]グロービスMBAファイナンス』などの専門書に譲るが、ある程度理論に裏付けられた企業価値を計算したうえで交渉にあたるようにしたい。

売却する際には、自分の所有する株式のうちどれくらいの割合を売却するのかを選択できる。また、株式ではなく、いくつかある事業のうちの一部を売却することも可能である。いずれにしろ、事前に何をいくらで売りたいのか、理論的に説明できるようにしておかなければならない。

さらに、自分の人生において現在の事業経営がどんな意味を持っているのかも考えておく必要がある。売却して経営権を譲渡してしまってから後悔しても遅いのである。

そしてもう1つの大事な点は、売却するタイミングである。タイミングによって買収に関する多くの要因が変化する。たとえば、業界の情勢が変化し、将来の業績見通しが変わることもあるだろうし、株式市況の変化によって売却価格を決めるときに参考になる類似会社の株価が変化することもある。その結果、売却価格ばかりでなく、売収の成否自体にも影響が出る。

株式公開

株式公開とは、未公開企業の株式が、不特定多数の投資家が購入できるよう市場に売りに出されることである。株式公開によって、その企業は、創業者など特定少数の人たちが所有する会社から、不特定多数の株主によって所有される企業となる。

株式売却がネガティブなイメージを伴うのに対して、株式公開はポジティブなイメージを持たれているのではないだろうか。株式公開を大きな夢とする起業家も多い。

日本経済全体がこれまでにないような苦境にある中で、新事業は日本経済の活性化の一翼を担うものとして、期待の目が向けられている。さまざまな店頭市場に登録する企業の数も、かつてより増加している。公開の条件も緩やかになった。会社設立から5年内に株式公開を果たす会社も珍しくなくなっている。

1人でも多くの人が、素晴らしいビジネスプランをつくり上げて事業を成功させ、満足のいくイグジットを実現することを期待する。

(本項担当執筆者: グロービス出版局長 嶋田毅)

次回は、『グロービスMBAビジネスプラン』から「良いビジョンを生み出す方法」を紹介します。

 

『[新版]グロービスMBAビジネスプラン 』 
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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