器を広げて自己成長を遂げるために―『なぜ部下とうまくいかないのか』 

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組織はリーダーの器以上に大きくならないとよく言われるが、そもそも器とは何か――この疑問に対し、本書は明確な答えを与えてくれるだろう。

欧米では、ハーバード大学のロバート・キーガン教授の成人発達理論を人材育成に取り入れている企業が多いが、著者の加藤氏はそのキーガン教授から直接学んだ、日本における本領域の第一人者だ。キーガンの発達理論は、人は生まれてから死ぬまで生涯をかけて発達するという前提において、特に意識段階の変化に注目する。本書はそのエッセンスを、人間関係に悩む課長とコーチの2人の会話を通してわかりやすく解説してくれる。

発達段階は大きく5つに分けられ、この段階が高くなるほど、物事を広く、深くとらえることができる。つまり、器が大きくなる。発達理論の枠組みの中では、人間の性格は基本的には変わらないと言われているが、この枠組みと発達段階の理論を器に例えると、器の表面上の色や形は人間の性格のようなもので大きく変わらないが、意識が成長することによって器の容量が拡大し、多様な知識や経験を蓄え、さらにそれらの知識や経験を組み合わせて新たなものを生み出すことができるようになるのである。一方で、自身より上位の段階を理解することはできない。つまり自分の器より上の器をイメージすることができないと言われている。

例えば、発達段階2は「利己的段階」と言われ、常に自分が中心であり、他者の世界があることを理解できずに、「自分とそれ以外」という考えになってしまう。よって、この段階にいる部下に対して、上司として「もっと人のことを考えろ」や、「なぜ周りの人の気持ちを考えないのか」という指摘は、その部下の意識の範囲を超えているので、部下にとっては何をどうやって考えればよいのか自体がわからず、本質的な行動変容にはつながらない。それよりも、「例えば○○さんは、あの時にどういう思いで発言したと思う?」といった問いかけを通して部下の意識を広げていく、つまり器を広げていく関わりが重要になるのだ。

私が特に共感した部分は、発達段階3についての記述である。「他者依存段階」と呼ばれており、集団や組織に従属し、他者に依存する形で意思決定する」という特徴がある。実に、人口の70%近くがこの段階にあるとも言われている。本書では、日本の伝統的な大手企業に残る集団や組織を重視する風潮は、発達段階2を3に引き上げる仕組みとしてはプラスにワークしているものの、多くの人材を発達段階3にとどめる足かせでもある、と指摘する。同時に、発達段階3にとどまる人は、情報の受け取り方についても受動的であり、自身で情報を租借し、主体的に新しい情報を構築することができない。つまり、日本企業においてイノベーションが起こりにくい理由でもあると述べている。

コンサルタントとして企業の人材育成をご支援していた際に、多くのクライアントからイノベーションを起こす自律型人材が不足しているという悩みを聞いたが、この発達段階の考え方と日本型組織の特徴を用いた説明は非常に納得感のあるものだった。

著者は、発達段階3から次の段階に移行するためには、「組織や他者の声ではなく、本来持っている自分の内なる声の発見」が必要であると述べる。私自身、3年前からライフワークとしてコーチングに取り組んでいるが、コーチとしてクライアントの頭の中にある色々な感情や思いを、そのクライアント自身の「言葉」として発したことがきっかけとなり、大きな変容を遂げる場面に多く立ち会ってきた。これも本書の言葉を借りれば「言語化」によって、発達段階3から4の「自己主導段階」に移行できたからではないかと考えられた。

最後に、本書では人の成長について「水平」と「垂直」という概念で整理しており、非常にわかりやすいと感じたので紹介しておきたい。自己成長には垂直的な成長と水平的な成長がある。垂直的な成長は意識の器の拡大であるのに対し、水平的成長は、知識やスキルの獲得というものである。例えるならば、垂直的成長はパソコンのOSをアップデートしていくイメージであり、水平的成長はアプリケーションソフトを搭載していくイメージだ。

自己成長を遂げたいと考えている読者にとって、本書は成長の方向性について新たな視点を得られる1冊になることであろう。ぜひ一度手に取っていただきたい。
 

『組織も人も変わることができる! なぜ部下とうまくいかないのか 「自他変革」の発達心理学』
加藤 洋平 (著)
日本能率協会マネジメントセンター
1500円(税込1620円)

 

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