バランスシートは本当にバランスしているのか? 

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今回は改めてバランスシート(貸借対照表、B/S)について考えてみましょう。多くの人は、バランスシートは左右の合計額が同じになると教わったはずです。さて、それは本当でしょうか?

答えから言えば、財務会計で用いているバランスシートは左側(借方)と右側(貸方)の合計は同じになります。これは期末だけではなく、四半期のバランスシートも同様です。

では、それはなぜでしょうか?「そうなるように作るから」では、間違ってはいないものの、答えとして今ひとつです。左右が同額になる根源的な理由は何でしょう?

答えは純資産の部にある利益剰余金がちょうどクッションになっているからです。あまり見られたことはない方が多いかもしれませんが、実は損益計算書(P/L)も貸借対照表と同じ形で表わすことができます。図1のような感じです。

ここで利益(あるいは損失)が出るわけですが、それをバランスシートの純資産の部の利益剰余金に加えることで、トータルとして、バランスシートと損益計算書を合体させた形の図2は常に左右の合計が一致するのです。利益額が接着剤となって損益計算書とバランスシートを結び付けているということもできます。

図2の考え方は実は非常に重要です。企業にとってキャッシュが入る源泉は、基本は売上げと負債と純資産(厳密に言えば、その大部分を占める株主資本)であることがわかりますし、資金の使途は費用と資産であることもわかります。減価償却費などは、結局、バランスシートの左側で、どのタイミングで資産を費用化するかという話である(バランスシートの左側で、前期まで資産として計上していた額の一部を費用にして、その分資産からは減らす)ということもよく分かるでしょう。

さて、これで終わっては面白くありません。今度はファイナンス的な観点で考えてみましょう。

近年、ROCE(使用資本利益率=ROIC(投下資本利益率))というKPIが注目を浴びています。これは、資金提供者から得た資金に対して、どのくらい彼らに帰属する利益を上げたかという指標です。分母には有利子負債+株主資本、分子にはEBIT×(1-実効税率)を用いるのが一般的です(EBITはEarnings Before Interest and Taxesの略で、概ね営業利益に近い数字です)。ROCEは資本コスト(WACC)を超えると企業価値は増し、WACCを下回ると企業価値は下がるとされます。なお、このバランスシートでは、WACCに関係ない運転資本(ワーキングキャピタル)は除きます。

さて、さりげなくWACCを上回ると書きましたが、勘のいい方はお気づきのように、通常、ファイナンスではWACCの計算は時価を用います(簡便的には財務会計上の数字で計算することもありますが、基本は時価です)。有利子負債については時価も簿価もたいして変わりませんが、株主資本については、最近3カ月の株価の平均を用いたりしてWACCを計算します。

となると疑問なのは、ファイナンス的なバランスシートの右側はかなり伸び縮みするのではないかということです。そして実際にそうなります。その時、バランスシートの左側は変化するのでしょうか?現実的に、財務会計的な項目がそんなに変わるわけはありません。

では何が変化しているのでしょう。それは結局、キャッシュを稼ぐ(と市場が考えている)力なわけですが、正直、財務会計のバランスシートには現れてこない項目です。具体的には、人材やノウハウ、ブランド等の価値と言えるでしょう。

つまり、財務会計では、基本的に経営資源のうちカネとモノの要素を見て、それをバランスさせることでバランスシートを作ります。一方、ファイナンスはそれ以上に時価主義ベース(特に株価に関して)ですから、株価によって変動する株主資本に対応して資産も変動します。それはバランスシート上の個々のモノの価値が、時価でみると変化したのだ、ということでは説明できない、すなわち、それ以外の要素の価値の変化とみなすしかないということです。

仕手戦で乱高下したような株価が正しくバランスシートの左側を反映しているかと言えば問題ですが、長い目で見れば、結局はファイナンス的なバランスシートでも左右はバランスしていきます。しかし結局、財務会計のバランスシートではすべてを可視化することはできないのです。

バランスシートや損益計算書はおカネの絡む科目の基本中の基本ですが、財務会計とファイナンスの考え方の違いなどは意外と混乱していることが多いので、改めて再確認してください。

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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