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ABCとは何か: 多様な製品や顧客にかかる真のコストを知る

投稿日:2016/10/15更新日:2021/11/24

『グロービスMBAアカウンティング』から「ABCとは何か」を紹介します。

かつて20世紀初頭、「T型フォード」をフォード社が売っていたときは、その原価計算は比較的楽だったことでしょう。フォード社には基本的にそれしか製品がなく(カラーバリエーションも黒のみ)、会社の中でかかっているコストはすべてT型フォードに関するものだったからです。しかし、いまやあらゆる企業は多様な製品・サービスを扱うようになっています。また、顧客やチャネルのバリエーションも増えました。こうした中、直接特定の製品や顧客に紐付けることが難しい間接費が相対的に増えてきました。特に間接部門と呼ばれる社内サービス部門の費用をどのように各製品や顧客に割り振るか次第で、計算結果は大きく変わることになってしまいました。これを恣意的あるいはどんぶり勘定で行っていては、正しい意思決定はできません。こうした課題を解決すべく生まれたのがABCです。ABCは、正しく用いれば、「真のコスト」に近い数字が得られるため、より理にかなった企業経営を実現する手助けとなるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

ABCとは何か

ABC (Activity-Based Costing:活動基準原価計算)とは、ハーバード大学ビジネススクールのロバート・キャプラン教授とロビン・クーパー助教授(当時)が提唱した新しい原価計算方法である。簡単に言えば、会社が正しい意思決定を行っていくためにどの製品やサービスのために発生したのかがなかなかわかりにくい間接費を、それぞれの製品やサービスのコストとしてできるだけ正確に割り当てることによって、製造や販売活動などのコストを正確に把握していこうという考え方である。 ABCはリエンジニアリングと結びつくことで、コスト削減のポイントを浮かび上がらせるための1つの手法として、1980年代後半からアメリカで脚光を浴びるようになった。今日では日本でも、多くの企業で採用されている。

まず、ABCの考え方について具体例で考えてみよう。たとえば、ある商品あるいは製品の価格を設定するとしよう。会社は利益を出さなければ存続できないので、コストを上回る価格を設定することが必須となる。製品については自社の工場で作るため、工場での製造原価がコストの重要な構成要素になり、商品では外部からの仕入原価がこれに対応するコストになる。そしてこれらに加えて、販売のためのコストがかかることになる。こうしたコストを正しく把握できなければ、表面的にはその製品・商品は儲かっているように見えても、実際には儲かっていない、といった事態も発生しうる。

原材料費や生産ラインの人件費のように直接的に特定の製品にどれだけ使われたのかが目に見えるものについてはあまり問題はない。しかし、工場の建物や機械の減価償却費、水道光熱費、あるいは管理部門の人件費のように、各製品にどれだけ使われたのかがわかりにくいものについては、何らかの推定計算を行ってそれを各製品に割り当てる必要が出てくる。このとき、この推定計算が誤っていると、実際のコストを大幅に下回った価格をつけてしまったり、逆に実際のコストを大幅に上回った価格をつけたりするおそれがある。企業戦略あるいはマーケティング戦略上、いろいろと検討したうえでコスト以外の要素を重視してそのような価格を設定しているのであればともかく、実際のコストが正しく把握されていないためにこのような結果となっていたとすると、それに基づいて行う意思決定は誤ったものになってしまう。

ABCはこうした問題を解決すべく、製品あるいは商品にかかるコストをできるだけ正確に把握する方法の1つとして、間接費の配賦計算をできるだけ実態に合わせて正しく行おうという考え方から出てきたものである。

それではこの「間接費の配賦」は、具体的にどのように行えばよいのだろうか。減価償却費や工場の管理部門の人件費などの製造間接費で考えてみよう。

一般に財務諸表作成を目的とした伝統的な原価計算の方法では、業績をはじめタイムリーな情報提供が重要になる。そのため、直接的対応関係が明確なコストについては非常に細かく把握する傾向がある。ところが、直接的な関係がわかりにくい製造間接費については推定計算にならざるをえないために、大雑把な方法を採用する場合が多い。具体的には、製造間接費については、製品との関係が直接的にわかる工場のラインの人件費である直接労務費や、それぞれの製品の製造に費やした彼らの労働時間である直接作業時間、またそれぞれの製品の製造に使われた機械の稼動時間である機械運転時間のうちのどれか1つないしは2つの比率を使って各製品に割り当てる場合が多い。このように、会社の決算データを作るためのコスト計算方法が、価格設定をはじめとした意思決定のデータとしても使われるのが、これまでの一般的なパターンだったのである。

このような、もともと決算データの作成から出発した伝統的な原価計算は、取り扱っている製品の種類が少ないうちは、コストをそれぞれの製品に関係づけて集計していくことが比較的簡単なため、正しい原価を計算する方法として適していた。しかし、今日の企業はますます多くの製品を取り扱うようになり、またFA化、社会全体のソフト化が進展した結果、直接的な材料費、あるいは労務費の比率が低下する一方で、間接費の比重が高まった。製品原価以外についても、製品の種類や販売チャネルの多様化に対応して、管理、ノウハウ、物流などに関連する間接費の比重が大きくなった結果、間接費の配賦を大雑把に行う伝統的な原価計算では、歪められた原価情報しか得られなくなったのである。

ABCはこうした状況に1つの解を与えるものである。つまり、製造間接費をいろいろな活動に結びつけて考え、個々の製品やサービスに配賦していく。たとえば工場の間接人件費であれば、「段取り」「移動」「品質管理」などの活動にいったんプールしたうえで、たとえば段取りのコストであれば「段取り回数」で配賦するなど、できるだけ実態に近いコストを把握するためにコストドライバー(配賦基準)に基づいて配賦を行うのである。

ABCの生みの親であるキャプラン教授は、ABCについてこう語っている。「会社のいろいろな活動は、ほとんどすべて、その生産や商品ならびにサービスの提供をサポートするためにあると考えられる。したがって、そのような活動はすべて製品原価、つまり製品のコストとしてとらえる必要がある。このように考えると、工場あるいは本社の間接費は、ほとんどすべてを分割し、個々の製品あるいは製品の種類別に配賦計算を行うことが(配賦することが)可能だ」(『ダイヤモンドーハーバード・ビジネス』1989年4-5月号)。そして、間接費の例として、調達、生産、営業販売、物流、サービス、技術、財務管理、購買資源管理、一般管理といった、企業の活動のほとんどを挙げている。

教授はさらに、「伝統的な経済学や管理会計では、生産量が短期間に変化する場合のみを取り上げて、原価を変動費としてとらえているが、原価は多くの場合、短期的な生産量の変動に応じて変化するのではなく、設計、製品構成、製品種類、顧客といった点が長期間にわたって変化していく中で変動していくことがわかった」と述べており、会社のいろいろな活動がコストと密接な関係を持っていることを明確にしている。

(本項担当執筆者: 西山茂)

次回は、『グロービスMBAアカウンティング』から「予算管理の意義」を紹介します。

 

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