道路の歴史に見る便利なツールの副作用 

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どんな便利なツールや手段であっても、それが目的化したり、「既得権益」が発生したりして、全体としてみると非効率なツール・手段になってしまうことは少なくありません。利用方法を恣意的に制限した結果、好ましくない結果をもたらすこともあります。

また、時間が経つにつれて「負の部分」が顕在化し、強烈な副作用が生じてしまうというのもよくあるパターンです。企業経営に例えれば、もともと強みだった要素が、経営環境が変わった結果、弱みに転じてしまうという現象です。

今回は、人間の文明にとって不可欠である道路(道)の歴史を振り返りながら、それがその時々にもたらした副作用や予想外の結果について見てみましょう。

道の歴史は太古に遡ります。もともと動物の通り道だった獣道や、食料の採取のために強引に人が通るようになった踏みわけ道がその起源です。当初は非常に狭い範囲で特定の人々が利用するものでしたが、人口が多い場所などでは、森林を伐採したり、土の見える部分の面積を広げたりすることで、より通りやすい道路が作られるようになります。

道に関する最初のイノベーションは舗装でしょう。これは紀元前4世紀頃のこととされています。それまでの土の道は、雨が降ると使いにくく、雪が降ると利用不可能になるものが少なくありませんでした。そこで、人工的にその上に砂利や石畳を敷いたりしたのです。特に石畳の舗装道路は大きく交通の便を増しました。

舗装道路を領地内に大々的に張り巡らし、本国や属州の統治に役立てたのは、初回にもご紹介したローマ帝国です(参考: ローマ帝国を滅亡に導いたアウトソーシング)。中でも有名なのはアッピア街道でしょう。紀元前4世紀から敷設が始まり、現在に至るまでその姿を残しています。

ローマ帝国が造った道路網は、巨大な版図の統治上、非常に役に立ちましたが、時代を下ると副作用が出始めます。第一に、維持費がかかるため、しばしば高い税金を取り立てた結果、領民の不満をもたらしました。それが時には反乱を招きました。

それ以上に致命的だったのは、いざローマ帝国の力が衰え、蛮族に攻められる立場になった時に、相手を利する結果となったことでしょう。なにしろ、すべての道はローマに通じています。関所のようなものはあったのですが、あらゆる道路を自分たちだけに都合がいいように封鎖することはできません。結果として、(西)ローマ帝国は、自分たちが主導して造った道路を逆利用されて蛮族に屈し、崩壊していったのです。

日本に目を向けると、戦国時代のイノベーターであった織田信長や豊臣秀吉は関所の廃止を進めましたが、徳川幕府になると、一転して関所が復活し、人々の移動は大きく制約されます。せっかく拓いた道を、為政者が権力維持のために使用制限してしまったわけです。そのおかげもあって、江戸幕府は260年以上続くことになりましたが、日本という国の発展は遅れてしまいました。江戸時代からもっと自由な国内交易(さらには貿易)があったら、日本の歴史も大きく変わったかもしれません。

現代はどうでしょうか。特に高度成長期の後、日本は世界的に見ても道路が整備された「道路先進国」になりました。それに伴いトラック輸送などが発達したこともあって、人々の生活は格段に便利になりました。たとえば宅配便のサービスを使えば、離島を除けば、日本中どこであっても道路でつながっていますから、翌日配送という便益を享受することができます。これは世界的に見ても非常に稀有な事例です。

一方で、ご存じのように、道路の敷設やその維持は大きな利権となり、投資対効果に見合わない道路もたくさん作られるようになりました。予算が巨大ということもあって、政治の在り方そのものにも少なからず影響を与えています。

都市部ではヒートアイランド化や、ゲリラ豪雨の際の雨水の逃げ場不足も大きな問題となってきました。東京23区の面積に占める舗装道路の比率はすでに他の先進国と比べてもかなり高いことが指摘されています。より高次の視点からの道路行政を行わなければ、マイナス面の増分がプラス面の増分を上回る可能性は否定できません。

今回は道路について見てきましたが、道路に限らず、長年にわたって大きな便益を与えてきたものは、そのプラス面だけが強調され、マイナス面やリスクは過小評価される傾向があります。利権を持つ人の「授かり効果」(物事を得る時の嬉しさよりも失う時の痛みをはるかに大きく感じるバイアス)も無視できません。鉄道や電波などのインフラも同様のことが言えそうです。

しかし、だからといって、過去の惰性で何かを進めることは得策ではありません。高い視座に立ち、システム思考(独立した事象に目を奪われずに、各要素間の相互依存性、相互関連性に着目し、全体像とその動きをとらえる思考方法)を発揮することを強く意識したいものです。

今回の学びは以下のようになるでしょう。

・副作用のないツールはない。しかし、その副作用は往々にして見逃されたり過小評価される
・複雑な相互作用を高次の視点から見られる人間は稀。往々にしてマイオピア(近視眼)に陥る
・未来は過去の延長線上にはないと考え、さまざまなシミュレーションや思考実験を行う必要性が増している

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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