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減価償却: 経営方針で変わる現金流出のない費用

投稿日:2016/10/01更新日:2021/11/24

『グロービスMBAアカウンティング』から「減価償却」を紹介します。

減価償却は、アカウンティングを勉強したからこそ理解できる、特殊な性格を持つ費用です。利益に影響を与えるにもかかわらず、現金は流出しません。それゆえ、企業の資金繰りを考えたり、ファイナンス的な観点からキャッシュフローベースで物事を判断する際には、利益だけではなく、この減価償却費をしっかり見る必要があるのです。また、企業の方針によって減価償却の方法を選択できるという点も重要です。企業によっては利益を出したいタイミングというものがあるわけですが、往々にしてその調整にこの減価償却法の変更が用いられます。日産にゴーン氏が乗り込んだ時に、減価償却の方法を定率法から定額法に変えたのは有名な話です。減価償却を正しく理解することが、経営の実態や経営者の意図を知ろうとする上で大事なのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

減価償却

減価償却とは何だろうか。たとえば鉄道会社が新車両購入などの設備投資を行った場合、車両購入費を新車両で営業を始めたときに一括して費用にしてしまうと、その期の業績が大幅に悪くなり、その後は車両購入の費用がなくなるため、利益が多めに出てしまう。しかし、同じ車両を毎年使っているのであれば、会社の実態をより正確に表すという観点からは、その購入費を操業を始めた年にすべて費用とし、それ以降の年にはまったく費用がかからないとするのは好ましくない。したがって、この車両購入費を「車両を使う期間にわたって徐々に費用にしていく」必要性が出てくる。この方法を減価償却と言う。減価償却のルールに基づいた資産の減少分が減価償却費であり、取得原価から徐々に差し引かれていく。減価償却が終了した時点では、最終的な使用後の価値である残存価額(Salvage Value、減価償却が終了した時点でのその資産の処分価値の見積額)が残る。ただし、有形固定資産であってもその使用価値が減少しないと考えられる土地等は、減価償却の対象とはならない。

減価償却は有形固定資産と無形固定資産について適用され、設備投資(有形固定資産)の取得原価を配分する方法のことを減価償却、無形固定資産の原価を配分する方法のことを償却と言う。その方法としては、減価償却費が最初多くて徐々に少なくなっていく定率法と、その資産を使用している各期間が同じ金額となる定額法、および生産量や活動量に応じて減価償却費が増減する生産高比例法がある。

減価償却費を見る際に重要なのは、この費用は現金の支出を伴わない費用であるため、減価償却が非常に多く利益が少ない会社であっても、実際のキャッシュフローは潤沢であるかもしれないという点である。その費用分の現金が会社の内部に留保されたという意味で、投下資本の回収と考え、自己金融効果と言われている。

日本の上場企業あるいは店頭公開企業では、3分の2以上が原則としてほとんどの有形固定資産について定率法を採用している(なお、1998年4月の税制改正により1998年4月1日以降に取得した建物については、法人税の計算にあたっては定額法を採用することになったため、最近取得した建物については、定額法を採用している企業がほとんどである)。一部の固定資産についてのみ定額法を採用している企業は少なくないが、すべての有形固定資産の減価償却の方法として定額法を採用している会社は非常に少ない。これは、日本では有価証券報告書をはじめとする決算書の作成と税金に同じ減価償却の方法を採用しなければならないため、税金を少なくする目的で減価償却費が多くなる定率法を採用することが多いためと考えられる。逆に言えば、定額法を採用する会社は節税よりも利益を増やすことを重視しており、業績に余裕のない会社が比較的多いと推定される。

無形固定資産についてはすべて定額法で償却することになっており、その耐用年数についても法人税法で決められたルールに従って、営業権は5年、特許権は8年、実用新案権は5年、意匠権は7年、商標権は10年などとしている場合が多い。

なお、耐用年数が変われば減価償却費も変わることを念頭に置く必要がある。つまり耐用年数を長くすると、各期に割り当てられる減価償却費は減少し、逆に、耐用年数を短くすると、各期に割り当てられる減価償却費は増加する。

定額法

定額法(Straight Line Method):減価償却費を各期間にわたって均等に計上する方法で、以下のように計算する。

減価償却費 = 取得原価 ÷ 耐用年数

残存価額は、かつては税法基準により、取得金額の10%が使われる場合が多かったが(それに基づき、減価償却費=(取得原価-残存価額)÷耐用年数の公式が用いられていた)、2007年度税制改正により、2007年4月1日以降に取得する減価償却資産については、残存価額を廃止し、耐用年数経過時点に1円(備忘価額)まで償却できることとされた。耐用年数は、それぞれの資産の種類や使用状況などによって各会社で見積もることが原則であるが、実際には法人税法で決まっている耐用年数を使用する場合が多い。なお、無形固定資産の場合には、取得原価の全額を定額法で償却する。

定率法

定率法:償却の初期に多くの減価償却費を計上する方法で、以下のように計算する。

減価償却費 = (取得原価 - 減価償却の累計額) × 償却率

従来償却率は、耐用年数が経過したときに残存価額(10%が一般的)が残るように、耐用年数によってあらかじめ決められていた。 2007年度税制改正により、2007年4月1日以降に取得した資産の償却率は定額法の償却率を2.5倍した数値が採用されることとなった(250%定率法)。これにより減価償却費は旧定率法よりもさらに早期に多額に計上されることとなる。

(本項担当執筆者: 西山茂)

次回は、『グロービスMBAアカウンティング』から「損益分岐点分析の活用――利益計画に利用する」を紹介します。
 

『グロービスMBAアカウンティング【改訂3版】』 
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)

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