立場による「良い会社」の違い: 複眼思考で関係者の満足を 

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『グロービスMBAアカウンティング』から「立場による『良い会社』の違い」を紹介します。

立場によって、「良い企業」の条件は異なってきます。たとえばいわゆる「ブラック企業」で給与も安く、従業員が疲弊していても、業績が順調に伸びているのであれば、それは経営者や株主(特に短期的保有を意識している株主)にとっては良い企業と言えるかもしれません。取引先から見たら資金回収に問題がなく、安全性が高かったとしても、株主から見ると、必要以上に現金を溜めこんでいたり、財務レバレッジが低くROEが低いようではあまり良い会社とは言えないこともあります。すべてのステークホルダーにとって超優良な会社となるのは容易ではありませんが、一般に、特定のステークホルダーにとってのみ良い会社が、長期的な繁栄を果たすことは難しいものです。成長ステージや業種によってそのバランスも変わりますが、バランス良く各ステークホルダーのニーズを満たすことが必要です。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

立場による「良い会社」の違い

良い会社の条件は、経営者、従業員、株主、取引先、顧客といったように、その会社とどのような形で関係を持つかによって違ってくる。ここでは、それぞれの利害関係者に対して良い会社となるためにどのようなポイントに注目したらよいのかを考えていく。

 

経営者が注目するポイント

経営者は会社の活動に対してすべての責任を負っている。したがって、会社に関するすべてのポイント、すなわち総合力、収益性、効率性、安全性、成長性が適度にバランスしている状態が良い会社の条件となる。

なかでもROAは、資産をどの程度効率的に使って利益を上げているかを示すことから、業種や規模を超えて経営者の手腕を測る指標と考えられる。またROEについても、株主が投資の意思決定に際してこれを重視するようになってきており、株主に対する責任を経営者が十分に果たしているかを見る1つの指標として注意していく必要がある。

これ以外の収益性、効率性、安全性、成長性についても、同業他社比較や時系列比較を行うことによって、業界の中での自社の位置や相対的な弱点等を把握し、今後の改善ポイントを明らかにできるので重要である。

なお、会社の規模によって経営者の関心事は変わる。たとえば、規模の小さい会社の場合、経営者の最大の関心事は「資金繰り」にある。つまり、会社が存続し、また成長していくために、資金的なショートを起こさないことが最優先となる。したがって、銀行や取引先からの信用を得るために最低限の利益を出す一方で、税金を払いすぎないようにし、実質的に手元にどの程度現金を残せるかが重視される(会社の規模が小さいと資金的に余裕がないことから、給与をはじめとする費用の支払いや成長のための設備投資もままならず、ひどい場合には黒字倒産、つまり利益は出ていても資金がないために倒産してしまうこともある)。

会社の規模が大きくなって株式の公開を目指したり、上場企業になって一般の投資家が株主として加わってきたりすると、資金的な余裕を持つことのほかに、利益を安定して生み出していくことが目標として加わってくる。これは、会社の規模が大きくなり(会社法上は資本金5億円以上あるいは負債が200億円以上のいずれかの条件を満たすと「大会社」となり、より詳しい決算書類を作成して株主に公開しなければならない)、株式を公開するようになると、会社の決算をガラス張りにし、売上高や利益の予想を発表し、それを予想どおり達成していくことが経営者の責任となるからである。

なお、将来大きな成長を目指しているベンチャー企業の中には、規模が小さい段階から計画的に利益を出し、初めから株式を公開することを目標としている会社もある。

従業員が注目するポイント

従業員を引きつける会社とは、給与が高い、明るい、成長している、ポストがどんどん増え昇進する可能性が高い、職場環境が良い、などの条件を備えている会社である。このうち、「明るい」「職場環境が良い」については会計的な分析は難しいが、給与の高さと成長性については定量的に分析することが可能である。まず給与の高さについては、会社の損益計算書の販売費および一般管理費の項目の内訳から給与手当と賞与の金額を把握し(メーカーの場合は製造原価に含まれている労務費を加える)、人件費の総額を算出し、これを従業員の数で割ることによって1人当たりの年間平均収入を算出できる。成長性については、売上高成長率や総資産成長率といった成長性の指標で分析することが可能である。それ以外にも、安定を求める場合には安全性の比率分析によって、また、将来の給与の上昇余力を見るためには収益性を分析してみるなど、従業員個々人の考え方によって少しずつ見方は変わってくる。

株主が注目するポイント

株主を引きつける会社とは、投資に対するリターンが高い、将来成長して株価が上昇する可能性が高い、などの条件を備えている会社と言える。これらの条件を満たしているかどうかを見抜くためには、配当や将来の成長のための原資となる当期純利益が株主資本に対してどの程度あるのかを示すROEに注目する。ROEが高いほど1株当たりの配当が多くなる可能性も高く、また配当が多くなくても成長のために再投資することのできる資金が多いことを意味するからである。当然ながら、ROEが高いほど株価の上昇可能性も高い。

また、配当の増加や株価の上昇の可能性の有無を分析するために、収益性と成長性の指標を重視する、あるいは将来のリスクが少ないかどうかを分析するために、安定性の指標を重視することも考えられる。さらに、利益のうちどれだけを配当に振り向けているかを示す配当性向や、株価と1株当たりの利益の比率であるPER(株価収益率)、株価と1株当たりの純資産の比率であるPBR (株価純資産倍率)を分析し、配当余力や株価が利益や純資産に比較して高いのか低いのかを分析することも重要である。

配当性向 = 1株当たり配当金 ÷ 1株当たり当期純利益
PER(株価収益率) = 株価 ÷ 1株当たり当期純利益
PBR(株価純資産倍率) = 株価 ÷ 1株当たり純資産額

取引先が注目するポイント

商品の仕入先や融資先にとっては、売上代金や貸付金が安全に回収できることが第一条件になる。したがって、比率分析の中でも安全性の指標がより重視される。また、これに加えて、資金的な余裕があるかとうかを分析する必要もある。つまり、支払いの原資としてすぐ使うことのできる現金や預金、あるいは市場性のある有価証券をどれだけ豊富に持っているか、また、土地をはじめとする有形固定資産を金融機関に担保として差し出すことで、追加の融資を引き出す余地があるのかを知らなくてはならない。さらに、効率性の指標を見ることで、売上債権や在庫をはじめとする資産の中に現金化できそうもない不良資産が含まれていないことを確認する必要もある。

顧客が注目するポイント

顧客を引きつける会社とは(顧客ニーズに応じた商品を提供するのはもちろんのこと)、安定して商品を供給してくれる会社である。したがって、ここでもやはり安全性の分析が必要になる。特に、建設工事など、注文してから完成、引き渡しまでに時間のかかる場合、あるいは旅行代理店などのように料金先払いが一般的な場合には、これは重要である。もちろん、商品の将来性、つまり会社の将来性も重要であり、総合力、収益性、効率性、成長性などについても分析する必要がある。

(本項担当執筆者: 西山茂)

次回は、『グロービスMBAアカウンティング』から「減価償却」を紹介します。
 

『グロービスMBAアカウンティング【改訂3版】』 
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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