「あり得ない」はない 想定外を考えてみよう 

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※この記事は日経産業新聞で2016年9月16日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

2011年3月11日に起きた東日本大震災と津波、そして東京電力福島第1原子力発電所事故は世界に大きな衝撃を与えた。広範囲な強い地震、巨大な津波、そして原発事故の3つの災害を同時に受けた。5年半前のこの震災により、日本は、地震、津波、台風、火山などの自然災害に対しては、「想定外」をも考慮しなければならないと痛感させられた。

このように想定外に備えることの重要性は、政治や経済、国際関係の分野でも全く同じだ。

「英国が欧州連合(EU)離脱を選択し、米国でドナルド・トランプ氏が大統領に選ばれたら、新たな世界秩序はどうなると思いますか」。今年5月、米議会により設立された唯一の超党派シンクタンクであるウィルソンセンターがワシントンで開いた会議のディナーセッションの場で、僕は学者や経営者などの出席者に対してこの「あり得そうもない」質問を投げかけてみた。どういう反応が来るのかを試してみたかったのだ。

だが、質問に答えてくれた人は誰もいなかった。僕の質問は流され、話題はすぐ別のトピックに移ってしまった。夕食会後に出席者の1人が僕のところに近づいてきて、こう教えてくれた。「あり得そうもないこと、あってほしくないことは、誰も深く考えたがらないんだよ」

しかし、今は「あり得ない」出来事が日常的に起こる世の中だ。いかなる分野であってもリーダーの地位にある人は、そのような想定外に直ちに対応するための準備が必要ではないだろうか。実際、僕が問うた出来事は今、想定外では済ませられない段階に入っている。英国は国民投票でEU離脱を決めた。トランプ氏は7月に共和党の大統領候補に正式に指名され、米国大統領になる可能性もある。

BBCワールドニュースの司会を務めたニック・ガーウィング氏は2月、「Thinking the Unthinkable(想定外を考える):デジタル時代のリーダシップに必要不可欠な新たな要素」と題したリポートを共著した。そのリポートでは、ロシアのプーチン大統領がウクライナからクリミア半島を一方的に編入したことや原油価格下落、エボラ出血熱流行、独フォルクスワーゲン(VW)の排ガス不正問題の発覚などを取り上げている。かつては「異常」と見なされてきたが、今後は「新たな標準」となるかもしれない多くの事態を指摘している。

リポートでは、リーダー的立場にある人間が「あり得そうもない問題」に目を背ける9つの理由にも言及している。集団的思考や同調圧力、自分の立場の保護、認知的負荷の低減などがあげられていた。

10月に僕が主宰する第6回のG1グローバル会議が開かれる。全てのセッションは英語のみで進行し、通訳を入れない。英語での「ガチンコ議論」の場で、まさにダボス会議を日本で開催するようなものだ。リポートを著したガーウィング氏をチーフモデレーターとしてお迎えする。彼がG1グローバル会議に参加するのは、11年の初回から6回連続だ。今年は彼の著書にもある「想定外を考える」をメーンテーマとして取り上げると決定した。

日本も、想定外のことに備えることが求められている。もし巨大地震が東京を襲ったらどうなるだろう。東シナ海で自衛隊と中国軍の紛争が起きて両国の関係が最悪な状況に至ったらどうすべきか。人工知能(AI)やロボットが進化して、人間の仕事を奪ったらどうなるのか。

これらのシナリオは受け入れ難いが、無視することはできないものだ。G1グローバル会議は想定外について考える絶好の機会となるとともに、世界から集まってくるリーダーと英語で議論をする貴重な訓練の場にもなるだろう。日本が多くのグローバルリーダーを輩出する国になるため、大いに活用してほしい。

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