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子供の貧困問題を生み出す社会的相続の欠如とは?

投稿日:2016/09/29更新日:2019/04/09

前回は、NPO法人AfriMedico創業者の町井恵理氏に、なぜ社会を変えるビジネスを展開しようと志し、今どのような活動をしているのかお話いただきました。今回は、社会的インパクト投資を行う一般財団法人KIBOWのディレクター兼グロービス経営大学院教員の山中礼二が、子供の貧困問題の解決方法について参加者と共に考えていきます。

ビジネスで社会を変える仕組みを学ぶ[2]

山中: 次は、解決策がまだ見いだせていない子どもの貧困について、皆さんと一緒にディスカッションしたいと思います。

まずは子どもの栄養の問題。これはNHK『クローズアップ現代』の「子どもの貧困に関する緊急調査」という記事です。NPO法人フードバンク山梨が調査をした結果なんですが、非常に苦しい中で生活している家庭がいっぱいあると。普段からこのNPOが支援している家庭に限った話ですが、1日当たりの食費が平均329円。100円ちょっとで1食分をとらなきゃいけない。バランスのとれた食事の回数は「0回」が圧倒的に多かったという。貧血で倒れたとか、子どもの健康にまで影響が及んでいる。もっと発達、発育しなきゃいけない時期だと親もわかっているけれど、どうしても食を与えることができない。そんな現状があります。

日本では可処分所得の中央値の半分、年間可処分所得が125万円未満の世帯が、相対的貧困家庭とカテゴライズされています。相対的貧困のラインは国によって違うんですが、日本の場合、そのライン未満にいる子どものパーセンテージがじわじわと上がっていて、現状で16%を超えていると。先進諸国の中で非常に高いパーセンテージになっています。(参照:平成22年国民生活基礎調査「概況の貧困率の状況」

どうしてこういう問題が起きているのか。今のところ、私がざっくりとこんな感じかなと理解していることをお伝えします。


左から右側に流れ、またぐるっと回ると。そして、子どもの貧困の問題が再生産されるという構造だと思います。一番左は、社会・経済的な環境変化です。素材的には2つあって、まずシングルマザーが増えている。ひとり親家庭が増えている状態。実は直近10年間ではそんなに変わっていないんですが、歴史的にはどんどん増えてきています。

2点目は、非正規社員の増加です。非正規社員であれば社会保険料を払わなくていいといった雇用主の思惑もあり、シングルマザーやひとり親家庭が生活していくことがますます困難になってきている。ひとり親家庭の場合、子どもの面倒もみなきゃいけないので正社員として働くには難しくて、どうしても非正規社員になる。そうすると、雇用が不安定で、景気が悪くなるとすぐに雇用を解除されて、契約を切られるということがしばしば起きています。というのが、社会経済的な環境変化です。

東京の数値を見てびっくりしたんですが、ひとり親家庭のうち60%が相対的貧困にカテゴライズされています。そして非正規社員については、6割が平均年収200万円以下という、そういう状況です。なので、子どもの貧困をもたらす親の貧困、私はこの2種類の背景が一番大きいかなと理解しています。

貧困家庭を生み出す社会的相続の欠如とは?


さて、子どもの貧困の何が悪いのか。昔だって貧しい子どもいたじゃないか、貧富の差がある程度あるのはしょうがないじゃないか、と思われる方もいるかもしれません。ですが、私は問題だと思っています。理由は2つあります。1つはさっき申し上げたような、栄養状態の悪化という問題。そして、もう1つの問題は「社会的相続の欠如」という問題です。

この社会的相続の欠如という概念を私に教えてくれたのは、日本財団の人です。親から子へお金が回ってくる相続は、財産的な相続です。それに対して社会的な相続というのは、自立する力であって、学習する力、学歴、礼儀作法、がんばる習慣とか、そういったものは親から相続されていく。または、親御さんがいない家庭の場合には、社会から相続される。たとえば、地域のおじちゃん、おばちゃんたちに怒られるということが、昔であれば頻繁に起きていた。その社会的相続のサイクルが、昨今はどうもうまくいかなくなっているんじゃないかと。

あるアカデミックの研究によると、経済的な相続以上に、社会的相続のインパクトが大きいと。こういう仮説があります。親から子へ相続されるものが、貧しい家庭だと相続されない。お父さんもお母さんもずっと働いているので、子どもの面倒みようと思っても時間がない、塾に行かせたいと思ってもお金がない、結局自立に必要な力が相続されない。これが社会的相続の欠如という考え方です。社会的相続がしっかり行われないので、どうしても貧困家庭の子どもたちは低学歴になりがちで、その後の生涯年収も下がってしまうという結果があります。その結果、子どもが親になったときに自立することができないので、その世帯の子どもがまた貧困家庭の子どもとして苦しい状況に陥る。ということで、貧困が再生産されるという状況になりかけているというのが、今の日本の状況です。

もちろん、細かくデータをみると、必ずしもそうじゃないところもあります。たとえば、貧困家庭で育った子どもであっても、大人になって稼げるようになるという、レイヤー間移動というのが結構起きているんです。ただ、よく統計データを見てみると、高校中退、つまり中卒の人たちに関しては、非常に生涯年収も低いし、その後の自分の子どもがまた貧困に陥るという率も高い。そこだけは社会の中でどうしても、上のレイヤーに上がってこれていないというファクターはあります。

ここで、私から皆さんに質問があります。この社会課題を解決できるポイントはどこにあるでしょうか?そのためにはどういう事業があればいいでしょうか?皆さんはいち民間人だという前提で考えてください。その解決のためのレバレッジ・ポイントを考えていただきたい。レバレッジ・ポイントとは、問題解決の「ツボ」のことです。ツボを押すと、血流がきれいに流れる、そのツボがどこにあるでしょうか?

参加者: 貧困家庭の親に対する社会人教育があれば有意義だと思います。貧困家庭はお金がないと言われていますが、実は収入に対して酒とかタバコとか博打とかに対する比率が結構高いそうです。そういうお金を教育や保険に回すといった生きていくための教育をすれば、少しは貧困の連鎖がましになるかなと思います。

山中: 親が正しいことにお金を使えば子どもにもお金が回ってくるということですね。

参加者: 私は、子どもがちゃんと中学を卒業して、高校に行けるということが大事だと考えました。ソリューションとしては、クラウドファンディングを使って、その子たちが中退しないように、高校卒業するまでとか、中学を卒業するまでの学費を賄えるような形を、インターネット上にコミットしてつくっていくと。その子たちは、クラウドファンディングのサイト上で自分にファンディングしてくれた方々向けにちゃんと、自分は今こういう成績でこういう部活動をがんばっていますとレポートして、クラウドファンディングしてくれた方々は応援やその子たちの将来の夢に対する相談に乗ってくれるとか、そういうコミュニティを仮想でつくって、成長を支える仕組みをつくってあげれば、事業としてもペイするかもしれないし、社会的相続ができる大人になってくれる下地がつくれるんじゃないかなと考えました。

山中: クラウドファンディング型、みんなで支える奨学金制度みたいなものですね。

参加者: ひとり親世帯が子どもの貧困の前提ということでしたら、ふたり親家庭にすればいいかなということで、バツ1、バツ2の方たちに結婚相手を紹介するような、そういう事業があればダブルインカムで子どもの貧困はなくなるのかなと。

山中: これは革新的なアイデアですね。そういう機会を求めている方はいるかもしれませんね。いろんなマッチングサイトが既にありますし、その技術を使えばいいかもしれないですね。

参加者: 私は小・中・高を対象として、その子たちが働ける場を提供しようと考えました。対価としてお金ではなく食事がもらえれば、まず栄養の問題が解決できると思います。働く場を提供することで、同世代と一緒に働いたり、上司がいたり、お客さんが大人であったりして、社会的な関係も築ける。しつけとか礼儀の部分も身に付くと考えました。

2つメリットがあると考えていまして、1つは働くことで、自分の自己肯定感が身に付くんじゃないかと思います。もう1つは、小・中・高の間に働いてみることで、自分が今勉強していることが社会でどう役立てるかということが考えられると思うんです。自分自身も正直、働いてみて何が役に立つかやっと今気づいた状態なので、そういったものに早めに気づけて、将来何がやりたいか考える機会の提供になるんじゃないかなと思いました。

山中: 子ども有償インターンですね。ちゃんと対価がもらえる。しかも、自分も、稼いだという自己肯定感を抱いて。さらに、働いているから、勉強することが必要だなということに気づく。二重、三重の効果ですね。

参加者: そもそも高校、大学にはもういかないという選択肢もあると思います。その代わり、職人を目指すコースを中学校につくって、15才になった時点で、専門的に職人という、たとえば伝統工芸とか、プログラミングとかですぐに稼げるようにしたらいいと思います。あと、結構、独居老人は多いので、ひとり親が問題なのであれば、お金持ちの老人と一緒に住むとか、あと、老人ホームに住み込んで、住むところと食べるのは確保してもらうとか、いろいろやりようはあるんじゃないかなと思います。

山中: 確かに、地域の中で老人ホームがあって、子どもがそこでちょっと働いたり、ご飯ももらえたり、そういう暖かい地域の受け皿があるといいですね。そうすれば、子どもが1人で孤独にご飯を食べるということも防げるんじゃないかという切り口ですね。すごくイノベーティブな意見が次から次へ出てきて、嬉しいです。

私の周りでこの問題に取り組んでいる友人たちがいまして、いくつか例をご紹介したいと思います。まず、ひとり親世帯が貧困の輪を抜け出すことができなくなるという問題を解決するために、シングルマザー向けシェアハウスを立ち上げようとしている人がいます。あとは、シングルマザーをしっかり雇用するタイプのビジネスを立ち上げようとしているという人もいます。

シェアハウスであれば、みんなで寄り添って住むことによって、子どもを遊ばしておいても誰かが面倒みてくれるとか、そういうような状況をつくるということも可能かもしれないですね。このシェアハウスは実際に、川崎市の高津区に2軒、世田谷に1軒展開している事業者がいます。あと、グロービスの卒業生で、流山で今、新しく立ち上げようとしている人もいます。というのが1つの切り口。

ほかの切り口としては、「インクルーシブ」(包摂的)な企業体を増やすこともあるかと思います。皆さんの会社では、派遣社員と正社員との間の壁って高くないですか。そこをもっともっと巻き込んでいくような企業体がほしい。他にも、たとえば精神障害のある方とか、または犯罪歴のある方とか、そういう雇用されにくい人達をどんどん巻き込んでいく、インクルーシブな企業体がもっと増えてくればと強く思っています。たとえば、イギリスには、犯罪歴のある人を積極的に雇っている某一流ホテルがあります。これ、名前は言うなって言われているので言えないんですけど。社会貢献のためなんだけれど、それを言うと批判を受けるかもしれないのであえて言わない。もっと日本にもそういう企業体がほしいと思います。

別の事例だと、低価格で栄養バランスのよいおやつや中食をつくる。これ、私の勝手なアイデアで、具体的にやっている人はいません。お母さんが遅くまで働いているから、夜はカップラーメンで済ます。あんまり栄養バランスはよくないですね。塩分強すぎるし、ビタミン少ないじゃないですか。だったら、カップラーメンみたいに簡単につくれて、栄養価が高くて、塩分が多すぎない、できればおいしい何らかの食品があれば、劇的に子どもの栄養状態は良くなるはずです、誰か開発してくれないですかね。ということを、強く私は願っています。

「こども食堂」って言葉、聞いたことある方どれくらいいます?かなり多いですね。この2、3年、日本で急激にムーブメントが起きています。子どもが1人のときにでもパッと行けるような食堂で、定期的に2週間に1回か、1週間に1回だけオープンすることが多いです。近所のおばちゃんたちが集まってご飯をつくってくれるという食堂です。栄養状態の完全改善まではいかないかもしれないけれど、豊かな食卓を囲んだ家族の団らんみたいなものを経験できるだけでも違うと思うんです。ある意味、それは社会的相続になります。自分が大人になって結婚したときに、同じような家族だんらんの場というものをつくろうと思ってくれるんじゃないかな、と。ただ、今のところ完全にボランティアだけに支えられているので、どうしても2週間に1回しか開けない。もっと持続的に開けるようにするためには、どういうビジネスモデルを組み込んでいくのがいいか、皆さんもぜひ考えていただきたいと思います。

社会的相続の欠如に対しては、これは、生活困窮児向けの学習教室というアプローチがあります。今、日本財団が旗振り役になって、日本中に一気にこのモデルを展開しようとしています。まずは、そのモデルがうまくいくかどうか実証した上で展開しようということで、ベネッセも協力しています。今のところ彼らが持っている仮説は、読書教室というものが子どもの人生に好影響を与えるということで、本をいっぱい並べるということを考えています。リードしている日本財団のリーダーはグロービスの卒業生です。本当に本気で子どもの貧困の悪循環を断ち切りたいと考えて、志を立てて、多くの事業者を巻き込みながらムーブメントを起こしているという状態です。

あとは、ドロップアウトの問題ですね。クラウドファンディングというのは、非常にイノベーティブなアイデアだと思います。ほかにも、クーポンを配るということをコツコツやっている事業者もいます。NPO法人チャンス・フォー・チルドレンという団体です。募金を集めたり、クレジット・カードからの定額募金を使って資金を集め、そのお金を子どもが塾に行くときのクーポン券として渡します。そうすると、学力の格差というものが生まれにくくなります。貧しい家庭の子どもでもちゃんと塾に行って、大学に行くことができるという、その流れをつくるためにがんばっている団体です。。あとは、高校を1回ドロップアウトした人が、また戻ってくるときのための、専門の受験塾をやっている事業者もいます。

また仙台には、STORIAという団体があります。グロービスの仙台校の女性2人が立ち上げた団体で、私は理事として参加しています。貧困家庭が集まりがちな公営住宅のど真ん中に場所を借りて、そこで学習支援、某eラーニングのツールを提供している会社と提携して、それを提供しています。(リクルートとの提携が、後日発表されました)いつでも安心して、そこにいていいよ、遊びにきていいよという居場所を提供するというだけでもだいぶ、子どもたちの肯定感を育む上で大事かなと思っています。あとは食育ですね。一緒にご飯をつくろうと、一緒にご飯をつくって、一緒に食べようということをやっています。こんな活動を展開して、効果があるというファクトをしっかりとって、それを見せることによって、将来的には学童保育がみんなこういうことをやってくれたら、かなり問題解決に近づくんじゃないかと考えています。

以上で、3つのケースについての話を終わります。

最後に、全体を通じて私が一番伝えたいメッセージを3つ、お届けします。

まず、新しい出会いを大切にしようということです。同志との出会いが人生を変える瞬間ということを、私はしばしば見てきました。最後にお見せしたSTORIAという、子どもの貧困と闘っている2人の話もまさにそうでした。2人が出会ったから、そこからイノベーションが始まったんです。ですので、皆さんも、ぜひいろんな方と出会っていただきたい。そのためにはいろんなセミナーやイベント、現地視察などに首を突っ込んでいただきたいと思います。

2点目、考える力は武器になる。たとえば、子どもの貧困という社会課題の解決法を考えるときに、どこが一番のレバレッジ・ポイントなんだということを見極めたうえで解決策を打ち出すのか、理解しないでやってみるかで、だいぶ効果が違ってくると思います。岩佐大輝もそうでした。彼も、山元町にインパクトを出すために、どこが一番ツボ、ポイントなのかということを論理的に考えたうえで手を打った。だから、あそこまで事業を拡大できた。ぜひ考える力を養っていただきたい。そうすれば、間違いなく皆さんにとって武器になると確信しています。

そして3点目は、リソースフルということです。リソースがない、何の資源もない、お金もない、1人で社会問題を解決しろといわれてもやりようがない。どうしても私たち、そう思っちゃいます。でも、リソースフルな人っていうのはそうじゃないんです。リソースフルな人は、スキルを持った協力者を集めることができる。支援も集めることができる。資金も集めることができる。ソーシャルインベスターもいる。GRAのようにリソースを調達する力を、実は、みんな持っていると思うんです。ただ、日々の生活のなかであきらめちゃっているだけなんです。そこで、もう1回、私たち一人ひとりが自分たちがいかに多くのリソースに囲まれていきているかということを再認識する、そこから社会課題の解決の鍵が始まるんじゃないかなと思っています。

以上が私のプレゼンでした。ありがとうございました。

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※この記事は、2016年7月26日にグロービス経営大学院 東京校で開催したセミナー「ビジネスで社会を変える仕組みを学ぶ 」を元に編集しました

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