ビジネスで社会を変える―AfriMedico町井氏の場合 

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社会的インパクト投資を行う一般財団法人KIBOWのディレクター兼グロービス経営大学院教員の山中礼二、アフリカの医療問題の解決に立ち向かうNPO法人AfriMedico創業者でありグロービス経営大学院の修了生でもある町井恵理氏が、「ビジネスで社会を変える仕組み」について語ったセミナーの模様をお届します。(全2回)

ビジネスで社会を変える仕組み[1]

山中礼二氏(以下、敬称略): アフリカの医療に関して痛切な思いを持ち、貢献したいと思っている、1人の起業家の話を聞いてみたいと思います。彼女は一体何を考え、どのようにビジネスを展開しようとしているのでしょうか。町井さんです、よろしくお願いします。

町井恵理氏(以下、敬称略): こんばんは。NPO法人「AfriMedico」の町井と申します。2011年にグロービス経営大学院の大阪校に入学し、転勤に伴って東京校に転校した後、NPOを立ち上げるという最後の研究プロジェクトが一番の根幹になって今に至ります。

まず、私たちがやっていることをお話させていただきます。私たちは、医療を通じてアフリカと日本をつなぎ、健康と笑顔を届けることをミッションにしています。もともと私が青年海外協力隊員としてアフリカで2年間ボランティアをしていたこともあり、アフリカに貢献したいと思っていたのですが、一方で日本でずっと過ごしてきたので日本とアフリカをつなぎたい、さらに薬剤師なので薬を通じたい、そして、大阪人なので笑顔、笑いも届けたいという視点もちょっと入って、こういったミッションになっています。

やっているのはアフリカで日本発祥の置き薬を普及させることです。日本市場はだいぶ縮小していますが、実は今でも300億円くらいの市場があるといわれています。どういった仕組みかといいますと、「先用後利」といいまして、置き薬を無料で置かせていただいて必要なときに使っていただき、後でお金を回収するという仕組みです。ですので、お金がなくてもまずは必要な時にお薬が使えます。富山で約300年前に発祥し、今でも続いています。昔はお金が定期的に25日に入るわけではなかったので、後で支払えるのがすごく有用だったそうです。営業マンが各家に回り、懸場帳でどれくらいの薬をいつ使ったかちゃんと記載するようになっているんですね。それが、ビッグデータみたいになっていて、今でいうお薬手帳みたいな形ですね。

私たちは、現地で薬を仕入れ、企業や学校や村に配置をしています。日本からも輸入したいのですが、規制が厳しいので今は現地の方で回しているというのが実情です。

アフリカで2年間必死に活動、しかし能力の限界を感じてグロービスへ

なぜグロービスに入学したのか、私の大学時代から話をさせていただきます。薬学部に入学し、インドのマザーテレサのボランティアをやったのが、最初のボランティアのきっかけになります。そこからなぜか、ボランティアに目覚めまして、学生時代、ひたすらボランティアに励んでいました。そのあと、薬剤師免許を取って製薬会社に勤務し、その間も休みごとにボランティアをやっていたんです。しかし、休みごとに短期のボランティアをやっていても、自分がやっていたことが本当に役に立っているのかわからなくなってきました。単発、単発なので振り返られなかったのです。

これじゃ駄目だと、青年海外協力隊で2年間は長期的にボランティアをやってみようと思ったんです。活動した国は西アフリカのニジェール共和国という国で、すごい砂漠の国でした。国の位置はサハラ砂漠のちょうどど真ん中です。砂嵐がすごく数m先まで見られない時もあるのですが、そんな国で保健省に配属され、マラリアとかエイズなどの感染症の啓発活動をやっていました。

ただ、ボランティアをやってあげたいという心って独りよがりになりがちで、ありがた迷惑になりかねないなとも常々思っていました。なので、この活動の1年目にアンケートをとりました。私が担当していたのが6つの村なんですけど、各20人をデータに偏りがおきないように、村長さんに人を集めてもらって、男女で列つくってもらって、3人に1人ピックアップをしてアンケートをとるというような調査をしたんです。トータルで120人、あと、他の日本人ボランティアとも連携して500人くらいのアンケートをとりました。「マラリアになる原因は何ですか?」と言う問いに「蚊です」と答えた人は、わずか20%。残りは、「山に登ったらマラリアになる」「マラリアは神がもたらすんだ」とか、正答率は低かったです。だから、まずは知識をつけていくことだなということで、識字率が20%くらいしかないので紙芝居とか、ラジオとかを使って目や口で伝えていくことをしていました。

結局、2年間終わってデータを見たら、その数値は20%が80%まで確かに伸びていたんです。「良かった、良かった」とそのときは思ったんですけど、そのあとに、「蚊帳の中で寝ましたか」「蚊帳を買いましたか」と聞いたときに、全然数値が伸びてなかったのです。私は何のためにやっていたんだろうと、自分の中で疑問を覚えました。でも、これが私の能力の限界だなと思ったんです。私がこのまま継続してここにいても意味がないなと、自分の能力をまずは高めてからじゃないと、次のステップアップにはならないなと。帰ってきて考えて、考えて、考えて、医療の専門知識だけ突き詰めても意味がない、マネジメントを学ばないといけいと考え、グロービスに入学しました。

入学後も、悶々と何ができるんだろうと考え続けていました。その頃、住友化学がつくった、徐々に蚊帳から薬が出る「オリセットネット」という商品があるんですけれども、その研究を少し手伝わせていただきました。その蚊帳の工場がタンザニアにあって縁ができたことが、タンザニアで活動しようと思った1つの理由です。そのあと、研究プロジェクトでアフリカの医療の改善をテーマにして、その後NPOを設立したという流れになります。

自分たちでケアし予防していくという、置き薬の役割に気付く

私がアフリカで活動していたとき、あるお母さんが子どもを抱えて来ました。「子どもが高熱で死ぬかもしれない。病院に行くので、1000 CFA(フランセーファー)約200円くらいちょうだい。日本人、お金持ちでしょう」と。これ、現地だと毎日のようにみんなに言われるんです。「こんにちは、お金ちょうだい」「こんばんは、お金ちょうだい」とか、「お金ちょうだい」の歌まであるくらい。それくらいに「お金ちょうだい」って言われることが日常茶飯事なんです。

私は結局お金をあげませんでした。その後、どうなったか。子どもが亡くなってしまいました。このことがずっと私の中で引っ掛かっているんです。お金をあげておけば亡くならなかったか、あげたからといって本当に解決するか、と。国際開発に関わられた方だと、「一過性のものだしキリもないからあげない」と答える方がほとんどですが、目の前にあることをやっておけば良かったかという後悔はずっと残ります。ただ、こういった経験は山積する課題の一部が見えただけ過ぎず、こういった課題からも解決できる仕組みをつくっていかないといけないと思っています。

では、なぜこういったことが起きるのか。アフリカの医療の課題は多数ありますが、アクセスが悪いのが1つのネックになっています。私の活動していた村では、ロバトロッコ(ロバの後ろにトロッコつけている)で1時間から2時間かけて病院まで行くんです。たとえたどり着いたとしても、病院の待ち時間が長くて、4時間も5時間も待ち、その間に亡くなってしまう方も少なくありません。病院にたどり着いて診察受けても、薬がないという状況も多く、在庫は安定的ではありません。最近のナイジェリアのデータででは、マラリア治療薬の64%は偽薬だったというデータもあり、偽薬の問題は重要視されています。

そんな中、私たちに何ができるかと考えたときに出てきたのが、日本発祥の置き薬です。目の前にあるので待ち時間もないですし、薬の在庫がないということもないです。交通費も節約できますし、診察費も不要ということで、自分たちで自分たちのケアをしていくというセルフメディケーションを推奨するという意味でも、置き薬はいいのではないかと考えています。よく、「置き薬で命救えるんですか?」って言われるのですが、病院には病院の役割、置き薬には置き薬の役割があるかと思っています。自分たちでケアし予防していくというところが、置き薬の役割かなと思っています。

こうして生まれたビジネスプランですが、実は全6回の研究プロジェクトの授業の2回目くらいに、山中さんに「1回ゼロにしてください」と言われて、いったんその案を崩しました。「やりたい」と思ったことじゃないことを考えるので、結構、崩すのって勇気が必要です。ただ、後々、やっぱりこのモデルでよかったと思える糧にもなるので、一度ゼロまで戻すということをやってよかったなと思います。何か事業を立ち上げたいと思っている方は、ぜひ一度ゼロにすることを検討してみたらいいと思います。私の場合、いったん置き薬をゼロにして、他のモデルを検討しました。100個くらい出しましたが、実現可能性や本当に現地に一番必要なのはどれなんだろうとか、将来的なインパクトも考えて、いろいろ考えた結果、置き薬に戻りました。

案としては、医療セミナーの企画とか、重症患者からケアできるように患者をトリアージをしていこうとか、薬がほとんどないので薬を導入することをもっと円滑に進めるとか、そういうのも検討しました。でも、住民たちが住民達で自立し活動していくことが一番重要で、それができるのはやはり置き薬じゃないかということで、結局置き薬に戻りました。この点は、私たちが今やっていることの中でも自信となっています。

初期メンバーはグロービスで出会った人が大半だったのですが、最近はアフリカに興味がある方も集まっていただき、2014年に任意団体、2015年の3月にNPO法人として立ち上がりました。ですので、まだまだ立ち上げ期で、私たちもこれから発展をしていくところにはなるとは思いますので、もし何か、そういった立ち上げでお困りのこととかあったら、目線もまだ近いと思うので、いろいろ質問いただければと思います。


最近の進捗としましては、私が住んでいたニジェールはちょっと情勢が悪くてボランティアも撤退しているので、タンザニアからスタートし少しずつ広げている状況です。また、ケニアでTICAD VIというアフリカ開発会議があるのですが、そこに私たち出展できることになりました。さらに、こういった一歩が可能性を広げていけると考えています。このTICAD VIには100社くらいの武田とかシオノギとか日本の大手企業が出展予定で、そのような企業の中にNPOが1つ入っているのですが、自信を持って進めていきたいなというところが最近の進捗です。

事業を立ち上げたいとおっしゃった方、1つのお勧めとしては、ビジネスコンテストに出していただくと、課題などが見えてくると思います。私たちもビジネスコンテストにいろいろ出しまして、東京都のSTARTUP GATEWAYで最優秀賞を受賞したり、そこから信頼性も高まり助成金なども繋がってきます。他にも内閣府がやっている人間力大賞に、ファイナリストとして残させていただきました。こういう受賞関係は1つメンバーの励みや自信にもつながって、いろいろ協力をいただくことも多くなっているかと思います。

今は、20数名ほどのメンバーで活動していますが、メンバーも募集していますので、ご興味ある方は参加していただければと思います。また、来年には認定NPOを取得しようと考え、100人寄付者の募集しています。もし共感頂ければ、100人の1人になって下さい。私たちだけじゃなくて、寄付者にもきちっと形、メリットがあるようなものをつくっていきたいなと思っていますので、ご意見などもお待ちしております。今日はありがとうございました。

山中: ありがとうございました。では、町井さんに対する質問タイムをつくりたいと思います。

参加者: お金はどうやって稼いでいるのですか。

町井: 一番最初のお金は、まだまだ知名度もなかったですし、お金が出るビジネスコンテストに出て得ました。東京都のSTARTUP GATEWAYは、最優秀賞で100万くらいもらえました。ほかも50万、100万単位のビジネスコンテストを選んで出場したというのが、立ち上げ期です。そういったコンテストで認められてくると、助成金がもらえるようになります。そうすると個人の方からも寄付という形でつながっていきます。あとは、団体寄付ですね。企業さんからの寄付もいただいていまして、そういったところで成り立っています。

参加者: どうやって決済をしているのですか?

町井: 携帯で決済管理をしています。

参加者: 寄付、投資をしてくれた方に対するリターンはどう考えていますか?

町井: 今は、寄付をしていただいたり、協力していただいているところには、製薬会社がやはり多いんですけれども、アフリカの今の現状ですとか、私たちがニーズ調査とかをした結果をお伝えするというところが、今やっていることです。あとはホームページですとか、年次報告書に会社様のお名前を載せさせていただくことで、会社の知名度も上がるというところです。

参加者: 事業として儲けを出すというところまでは考えていらっしゃらないということですか?

町井: もちろんそれは考えています。ただ、現状は末端まで薬が届いていなくて、なぜかというと現地の人たちにそれが難しいからなんですよね。奥地に入れば入るほど、輸送費がコストとして乗っかってくるので、どうしても薬代が高くなります。私たちは、手に入りやすいような価格でちゃんとやりたいというところがありまして、現地で価格調査をして同じような価格で今はやっています。それで賄えない分は、寄付で賄うという形です。ただ、将来的に、GDPも6%、7%でアフリカは伸びているので、市場が拡大し黒字化する可能性もあるかと思います。あとは現地にはない薬もあるので、日本の薬を導入し、ニーズある薬剤なども展開できれば付加価値が付き、事業としては可能性はあると考えています。

いくらで買うかというニーズ調査をやった場合、日本と同じくらい価格を出してもいいというような声も実際にありました。日本だと3割負担なので、クリニックに行っても2000〜3000円くらいが多いかと思います。一方、アフリカは皆保険制度がないので医療費が結構高い。我々が調査した結果でも年収に対しての医療費が非常に高いので、医療費に対する考えが、我々と現地の方と違うのではないかというのがわかってきました。そういったことも踏まえて、バランス良く価格設定していければなと。

山中: ありがとうございます。採算が取れるのか疑問を持たれた方が多かったようですね。私も最初は懐疑的だったんですが、実際に始めてみたら製薬会社がかなり協力してくれる。現地のマーケティングリサーチの一環として、特に山間部のようなヘルスケアがアクセスできていないところで何が起きているのか知りたいというニーズがあったんです。ステークホルダーを巻き込んでしっかりと価値を提供することで、採算が取れないと思っていたことでもビジネスとして成立しうるんだというのが、町井さんのケースから学んだことです。

※この記事は、2016年7月26日にグロービス経営大学院 東京校で開催したセミナー「ビジネスで社会を変える仕組みを学ぶ 」を元に編集しました

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