ヤマトの強さの源泉は理念経営と現場主義 

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クロネコヤマトの満足創造経営[3] 

堀: 山内さんのお話を伺って、ヤマトさんの強さの源泉について改めて深く知りたいと感じた。年々競争が激化している宅配便業界で、これほど新しい商品・サービスを次々と生み出していける力の源泉はどういったものになるのだろう。

山内: まずポイントの1つに、社員が「世のため人のため」と、心から考えているかどうかということがある。綺麗事に聞こえるかもしれないが、そういう風に考えない人は、たぶん私どもの会社に居続けることができないと思う。実際、今日みたいに暑い日でも配達しなければいけないわけで、仕事はかなり大変だ。だからこそ、そこに「思い」があるかどうか、理念に共感しているかどうかといったことが大切になる。もう1つ重要なポイントになるのは、現場の「セールスドライバー」という考え方。単なるドライバーじゃない。セールスを行って、サービスを提供していく。だから自分のエリアがあって、「エリア内のお客さまに対する全責任はあなたが持つんだよ。あなたのお客さまなんだよ」と。そのなかでいろいろと情報やニーズも吸い上げていく。

ただ、情報やニーズを聞いてきただけではダメ。「こんなことがありました」となれば、「じゃあ、こんな風にしてみたら?」と、現場レベルでトライできる形にしている。そのうえで「これが良さそうだね」となれば、それが現場から支社等を通して最後は本社に上がっていく。そんな風にして現場から情報が上がってくるような形にしている。また、私どもは社長以下、全国に10箇所ある支社に年2回訪れ、現場の社員から直接話を聞く機会を設けている。そこで、「こういうアイディアがあります」「こんなことをサービスとしてやっています。結果はこうでした」といった情報をもらう「エリア戦略ミーティング」も実施するなどしている。

堀: 小倉さんの著書で印象的なお話があった。「お客さまに宅急便の荷物をお届けして不在だったとき、2つの考え方がある」と。1つは「届けたときにいないほうが悪い」という考え方で、もう1つは「いないときに届けるほうが悪い」という考え方。これはどちらも正しいけれど、お客さまの立場で考えるなら「いないときに届けるのが悪い」となる。この点に関し、山内さんからは先ほど、「時間指定をしていただいたほうが、ご自宅にいる時間が明確化されるから助かる」といったお話もあった。そんな風にしてお客さまにとっての利便性を愚直なまでに突き詰めている点が印象的だ。セールスドライバーの方々もすごいですよね。サービスを提供するうえでいろいろな情報をすべて覚えるのは大変だと思うが。

山内: そこはポータブル・ポスという端末に各種情報が入っているので。サポート・システムとしてITの力は大いに活用している。たとえばベテランの社員と違って新人さんはなかなか効率の良いルートが分からない。そこで今後はAIとビッグデータを活用し、配達内容によって日々変わる配送ルートのなかから最も効率の良いルートを弾き出したりすることもできるだろう。

堀: 「どこに何時」という情報がすべてインプットされていれば、最も効率的なルートが分かる、と。

山内: さらに過去の不在データ等もある。それで、「こちらのお宅はこの時間帯ならいらっしゃることが多いから効率が良い」といったことまで弾き出していこう、と。今後は情報をデータベース化したうえで、そういうことまで実現していくことを考えている。

堀: テクノロジーに関するお話もぜひ伺いたい。ヤマトさんは最新テクノロジーを活用した情報システムを組織の末端まで、大変使い勝手の良い形で浸透させている。テクノロジーをそこまでうまく業務システムへ落とし込むことができるのはなぜだろう。

山内: 高度なテクノロジーというだけでは意味がない。新しいテクノロジーだって使われてなんぼ。それこそ無骨で指の太いセールスドライバーの方もいるわけで、そういう方々まできちんと扱える仕様になっていて、「これ、助かるよなぁ」というものでないとダメだと思う。とにかく実際の運用にマッチする技術を見つけることがポイントだと思う。

堀: ヤマトさんはデータも大量にお持ちだと思う。それらをビッグデータとしてAIにぶち込んでいけば、配送ルートの計画等、さまざまな予測をすることも可能だ。

山内: それで効率を高めることも可能だし、情報が貯まっていくことでさらに新しい情報サービスも開発できるようになるのかなと思う。

堀: 今は自動運転やドローンといった技術も出てきて、自動運転ではヤマトさんもDeNAさんと組んだりしている。こうした技術に関してはどんなビジョンをお持ちだろう。

山内: これは日本社会の課題でもあるけれど、私たちは今後、労働力不足という問題に直面する。その解決のためにもさまざまなテクノロジーを駆使していかないといけない。ロボット配達はその1つだ。無人で配達できるような仕組みを今すぐ実現できるわけではないし、試行錯誤を重ねていくことになると思う。それでも、そうした新しい技術を活用することで、社会的課題もいくつか解決していけるようになると思う。そうして私どもが自らの課題を解決していった結果、物流業界、あるいは労働力を必要とするすべての業界に新しい技術が広がっていけばいいなと思う。

堀: DeNAさんと組んだロボット開発ベンチャーのZMPという会社は、実はグロービスの投資先企業でもある。10年以上前に投資をしていて、最近になって芽が出はじめた。もっと長くかかると思っていたから良かったなと思うが(笑)。さて、物流業界における今後の流れを考えてみると、配達時間のさらなる短縮というトレンドもあると思う。そこでたとえばAmazonは即日配達を打ち出したりしているが、そのあたり、ヤマトさんはどう見ていらっしゃるだろう。特に最近のeコマースの会社が物流領域にまで入ってきて、物流会社にもなっていくような動きがある。

山内: eコマース事業者ではAmazonさんのほか、Uberさんのような企業も出てきた。今後はいろいろなやり方が出てくると思う。ただ、私どもは全国のお客さまに対して均質にサービス展開することを考えている。効率の良い地域以外もカバーしていこう、と。世の中のサービスすべてが効率の良い地域へ提供されるだけになることはあり得ないと思うし、効率の良いところだけやっていてすべてのお客さまに満足を提供できるかというと、そうはならないなと思うので。

ただ、1つ変えなければいけないなという課題認識はある。それは日本のサービスに対する価値の捉え方だ。海外ではそれぞれサービスの質に差があるなか、選択したサービスの質に応じた支払い、つまり価値に対するペイにも差が生まれる。ところが日本の場合はどのサービスでも、たとえばご不在であれば何回でも配送したりする。eコマースの無料配送に関しても同様のことが言える。そこは、まずサービスがあって、サービスの対価という概念を皆さまにしっかり持っていただくようにするべきだと思う。グローバル化のなかで日本が世界と伍していくためには、そうした考え方も不可欠になると考えている。

堀: ユニバーサルサービスとして全地域に同じ価値を提供する必要があるのかなと考えると、僕としては分からない面もあった。特に東京や大阪のような都心部と地方とはまったく環境が異なるので。そこで、たとえば都心は即日配送にして田舎はドローン配送にするといったように、地域ごとに異なる方法論で提供する考え方もあるように思う。それで、たとえば港区や千代田区や新宿区のように密度が濃いエリアに集中して配達できたら、それで日本の配送ニーズの5%を挙げてしまうことだって可能かもしれない。その辺はどうお考えだろう。やはり均一のサービスを全国くまなく提供すべきとお考えだろうか。

山内: 今後はお客さまにそれぞれサービスを、それぞれ異なる対価とのセットで選んでいただく形にすべきだと思う。すべて均一に提供するのは今後難しくなると思うので。

堀: 今後、物流は各地域の特性に合わせ、その地域にとって最大の価値を提供していくといった考え方になると感じる。で、その対局にあるのが行政の考え方なのかな、と。そこで国とのやりとりについても伺ってみたい。数カ月前だったか、「メール便」廃止のニュースに触れて、僕はがっくりしてしまった。「こんなに便利なものはないじゃないか」と。そもそも信書を運べないのもおかしいし、これ、結局は日本郵便の権益を守るための法律なのだと思う。小さなパッケージで安く発送できたら間違いなく便利なので、その辺はユーザーとしても憤りを感じる。このあたり…、お話しできる範囲で結構なので(会場笑)。たしか法律的にグレーだったというか、遵法であることが証明できないということでお止めになるというご判断だったように思うが、ユーザーとしては続けて欲しかった気持ちもある。

山内: この件では個人のお客さまに大変なご迷惑をおかけしてしまった面があったのは事実だ。仮に私どものサービスでお客さまが信書をお送りになった場合、警察はお客さまに事情聴取をしたり、お客さまを検挙または書類送検してしまうようなことになる。「ヤマトがルールを守らずに運んだから」といことで、我々が運送業者として罰せられるのはまったく構わない。しかし、この件では私どもに加えてお客さままで罰則対象になってしまう。なので、そうならないために内容物について記入いただいたり署名をしていただいたりしていたが、それでもお客さまが書類送検されてしまう事例が何件か出てきてしまった。従って、サービスを安心してご利用いただくことが私どものポリシーでもあるし、「ここは一旦止めよう」という判断になった。そのうえで、今後改めてそうした問題がクリアできるサービスを、可能であれば展開したい。なぜ信書を運んではいけないかというと、「通信の秘密が守れないから」「全国一律のサービスを提供できないから」といった理由になる。従って、そこについては今後、国民の皆さまのご判断を仰ぎたい。

堀: そのあたり、国の考え方は相当おかしいと感じるし、やはりフェアに機会が与えられるべきだと思う。なので僕もこの問題については今後何かしら運動していこうかなと思う。国側に明確な論理として「いや、おかしくない」という理由があるなら、それをオープンな場で議論して皆で決めていくのが民主主義だと思うので、声を挙げていきたい。さて、もう1つ質問させていただきたい。今、山内さんは僕と同い年の54歳。大企業のトップとしては大変お若い。そこで、「社会に貢献するリーダーになりたい」という目標を持つ会場の方々に、なぜご自身が社長に選ばれたとお考えかなのかも伺ってみたい。…答えにくいと思うが(会場笑)。あるいは、山内さんが今までやってこられたことのなかで、「これが良かったのかな」と思うことがあれば、そちらも1~2点伺いたいと思う。
山内: 私自身に関して言うと、すごい商品・サービスを開発できるとか、すごいデザイン・企画力があるとか、そういうことはまったくない。ただ、ヤマトの理念に関しては非常に強い思いを持っていた。この会社が好きで、この会社の「世のため人のため、私たちは新しい価値を生み出していくんだ。そのために会社は存在するんだ」というヤマトの理念に強く賛同している。それを頑なに守って判断の軸としながらやってきた点が、1つ、会社に見ていただいたところなのかなという気はする。

堀: グローバル展開に関してはどうだろう。日本の流通インフラは本当にすごいと思う。海外では流通インフラがががたがたという地域は多く、アメリカはそこそこ整っているが、アジアではいまだ未整備の状況だ。そこで、ヤマトさんのようにしっかりと、短時間で安く届けることのできるサービスは他の国でもプラスになると思っていた。今後の海外展開についてはどのようにお考えだろうか。セールスドライバーの採用・育成からインフラ全体の仕組みづくりや設計もあるので、簡単な投資ではないと思うが。

山内: 私どもとしては、今後は特にアジアASEAN地域で物流・流通が重要になると考えている。経済が成長している同地域で人々の生活を支えるインフラを展開し、日本の高品質なサービスを展開していくのは私どもの使命だと思う。ただ、なんでもかんでも自分たちだけでネットワークを広げるのは投資や経営の面から見ても無理がある。従って今後はエリアごとに最適なパートナーを見つけたい。そのうえで思想・理念を支えるITの仕組みや、今まで培ってきた各種ノウハウをパートナーと共有し、日本で展開してきたようなネットワークを広げたい。それが結果的に同地域の経済発展に寄与するとともに、日本のプレゼンスをもう一度高めることにもつながると考えているので。

堀: 具体的には日本でやっていらっしゃることを、海外でも同じ形で展開していこうと考えていらっしゃるのだろうか。 

山内: 一律で同じ形にしようとは考えていない。地域によって求められるものが違うし、生活・文化も違うので、それに合わせてローカライズしていく。

堀: ヤマトさんの展開でアジア地域の人々も私たちと同様に大きな恩恵を受けると思うので、大きな関心を持って見ていたい。では、会場の皆さんにも質問を受けたいと思う。


会場(東京):
さまざまな取り組みのなかで、今最も力を入れていきたいとお考えになっている領域はどちらになるのだろうか。

会場(東京): 物流サービスの品質に関して、その定義も含めて御社としては現状どのような状況にあると認識していて、将来どこまで高めていきたいとお考えだろうか。

会場(東京): 今後、自社のコアビジネスで解決できると考えていらっしゃる課題として、本日お伺いしたテーマ以外にどういった社会的課題があるとお考えだろうか。

山内: 今最も力を入れていきたいのは前段でお話しした「バリュー・ネットワーキング」構想だ。モノを動かすところから、もっとトータルで付加価値を高める方向に進みたい。それによって日本企業、特に製造業に関わっていらっしゃる企業の方々を、いろいろな面でサポートさせていただきたい。今はそのために各種ネットワークを構築している。輸送・運送だけでなく、さまざまな機能を付加していく方向で進化していきたい。

次に、品質について言うと、私どもにとっての品質はスピードのことだけではない。お客さまとのお約束や、「お客さまが求めるものをどれほど守ることができたか」といったことを品質として考えている。従って、たとえば遵守率であるとか、応対における細かい設定であるとか、いろいろな要素がある。いずれにせよ、私どもとしてはお客さまとのリアルな接点が一番の経営資源だと考えているので、そこを大事にするし、そのための品質指標という話になる。結局、お客さまに喜んでいただけたかどうかが大事ということだと思う。

それと社会的課題について申しあげると、私どもは物流ネットワークを通して地域の皆さまと直に接する場を数多く持っているため、業種としては地域に入っていきやすい。だからこそ役割があると考えているし、その意味で今は少子高齢化への対応を進めている。で、そこに続く領域となると環境分野かなと思う。そこでAIを活用した配達ルートの効率化を行っていくなどして、いろいろな仕組みの効率を高め、その結果として環境にプラスとなる形にしていきたい。少し大きな話になるが、そういったことを意識している。

会場(東京): 次々と出していらっしゃる新しいイノベーティブなサービスは、どういったシステムやプロセスを経て形になっているのだろうか。

会場(東京): 褒める文化になる前は「叱る文化」だったのかなと思っているが(会場笑)、そうした文化を変えたきっかけや契機が何かあれば教えていただきたい。

会場(東京): 以前のヤマトさんには、どちらかというと自前主義のイメージがあったが、最近はDeNAさんやLINEさんやネオポストさんといった外部との提携が増えている。そうした方向へ転換するポイントが何かあったのであれば、その辺を伺いたい。

会場(東京): 宅配便スタート時、大口顧客を切っていく際は社員の方々に相当なストレスがかかったと思う。どのように社員の方々に納得していただいていたのだろう。

山内: まず、「イノベーティブなサービスをどのように生み出すか」について。今まで本社の企画部隊が考えに考えてつくった新サービスというのは、だいたい失敗している。結局、ベースとなるのは現場から上がってきた声だ。現場からの不満や、「こんなことを要求されました」といった話のなかに新しいサービスのヒントがあるのだと思う。大切なのは、その声を吸い上げる姿勢を経営側が見せるかどうか。最後の判断は本社だが、「新サービスのベースは現場のセールスドライバーである皆さんにあるんだよ」と、常に発信し続ける必要がある。そのうえで実際に何か上がってきたとき、きちんと吸い上げる。そうした仕組みとともに新しいサービスを生み出してきた歴史がある。従って、現場の声を吸い上げるような仕組みを意識的につくることが大事なるのかなと考えている。

あと、褒める文化への転換に関して言うと、たしかにそれ以前はあまり褒めていなかった(笑)。小集団でやっていれば互いの仕事がよく見えるので、結果として「お前、それはダメだよ」と否定されることが多くなっていた。もちろん言われるほうだってその人のレベルで一生懸命やっているわけだけれど。しかし、「褒める文化」に転換した結果、何が起きたか。褒める側にもポイントを付与する形にしたことで、皆、相手をよく見るようになった。「お客さまの立場になって」といったことはよく言われるが、そのためにはお客さまをよく見ないといけない。同様に、褒めるためには仲間のことをきちんと見ないといけない。そういう方向へ変わったのが大きな成果だったというか、良かった点だと思う。

あと、自前主義からオープン主義への変化についてお話をすると、とにかく世の中の変化に呼応できなければ企業は絶対に生き残っていけないし、そのスピードも上げなければいけない。で、そうなると、「自分たちですべてつくっていくんだ」といった以前の自前主義では、もはや変化のスピーについていけないことが明らかになってきた。従って、「求められる価値を提供する」という目標達成の手段ということで、スピードを上げるためにオープン化を指向していった次第だ。そうでないと今後の経営は成り立たないように思う。

それと最後のご質問だが、たしかにそれまでやってきたことを次々変えていくと社員には大変なストレスがかかる。宅急便をスタートさせた頃に社員アンケートを行っていたら、きっと「会社は何考えているんだ。私たちのことを考えてくれていない」といった話ばかりになっていたと思う。そういう状況で必要なのは、その先の姿を見せること。「これを変えると、こうなって、ここへ行くよね」と。また、そこでは会社や世の中が良くなるという話だけでもダメ。それによって、「あなたがこんな風に変わる」「あなたにとってこれが変わる」ということを、いろいろな表現を使って、各種説明の場を設けて伝えていく。常に、変化の先の先で自分自身に何が還ってくるかを徹底して伝える努力が重要だと思う。

堀: 小倉さんの『経営学』には、大口契約を切る局面のお話も赤裸々に書かれていたが、小倉さんはどのような方だったのだろう。私は2回ほどお会いしたことがあって、すごく穏やかな方だったという印象があるが。

山内: 小倉は、現場ではセールスドライバーと女子社員にすごく優しい(会場笑)。が本社では、それこそエレベーターに乗ろうとして小倉が先に乗っているのを見つけたりしたら、皆、「あ!」なんて言って避けていくような(笑)。とにかく理論的で、1つの物事を1方向だけから見るということをしなかった。上から横から下から斜めから、あらゆる方向から見てくる。私はクール宅急便の開発時、常に小倉とやりとりしていたが、もう毎週、「こっちから見たらこれはどうなるんだ?」「こういうときはどうなるんだ?」と、全方向から順番に検証されていた。それで、最終的に「じゃあ、これなら行けるよな」というものをつくりあげていった。閃きのようなものからスタートする一方で、大変地道な検証を常に求めていた人だった。だから「経営は理論だ」という言い方をしていたのではないかなと思う。

会場(大阪): 共感をつくる取り組みの頻度や回数、あるいは共感が浸透しているかどうかを確認する何らかの方法等はあるのだろうか。あと、山内さんが大切にされている座右の銘のようなものあればそちらも教えていただきたい。

山内: 共感を広げていくための取り組みとして何か頻度を決めて行っているということはない。ただ、先ほどお話しした「仕事を通して感動したこと」といったストーリーの映像等は、一定期間経験を積んだ社員に観てもらったりしているし、他にもいろいろと教育の場は用意している。ただ、座学の集合研修のようなものだけではなかなか成果が出ない。それも必要だが、やっぱり日々の小集団における仕事で、「昨日、伊藤さんが“助かった”って言って喜んでたよ」「田中のおばあちゃんに届けたとき、中まで運んでくれたんだって? あれ良かったよ」という風に、互いに確認していくことが大切だ。小集団のリーダーやベテラン社員が常にそれを発信する必要があると思う。繰り返し、繰り返し、そうした思いを伝え合うような場をつくっていくべきだ。そのなかで、結果的にはヤマトの文化が合わないということで辞めていく方も多い。ただ、それは仕方がないし、敢えてそれを止める必要もないと思う。大切なのは、共感できる人が集まって、「がんばろう」と互いに言えるような集団になることだ。労働力は不足しているが、そういう部分は譲らないほうがいいと思う。

また、理念が浸透しているかどうか確認するということもしていない。ただ、東日本大震災のとき、自分たちも被災して家が流されたりしている状況下ですら、翌日店舗に集まって救援物資を、本社の指示も何もないなかで運びはじめた社員達がいる。そういうところに表れるのかなと思う。あと、私の座右の銘は「至誠通天」。思いをもって相手に尽くせば、必ず天を含めて相手に伝わるんだという考え方を信念にしている。

堀: 最後に、山内さんから会場のリーダー予備軍、あるいは経営者となるべく努力している方々に、何かアドバイスをいただけたらと思う。

山内: アドバイスというとおこがましいが、私自身はとにかく理念を大事にして、その実現のためにどうすれば良いかを常に考えてきたつもりだ。皆さんも今後いろいろと、たとえば答えが分からない局面で右に行くか左に行くかを決めなければいけないような場面に出くわしたりすると思う。そんなとき、理念のような軸足をしっかり持つことが大事になるのではないか。そのためにもブレない考えを持つことを意識なさると良いと思う。

あと、これは新入社員にもミドルにも経営層にも通じる話だが、やっぱり何に対しても真摯に向き合い、真摯に突き進む懸命さを持ち続けて欲しい。それを支えるのは志だと思うが、そうして懸命に仕事と向き合っていれば周囲にも伝わるし、それが人を動かしていくことにもつながると思う。ブレない軸足を持ち、必死に、懸命に、繰り返し繰り返しやっていく。そうした姿勢が、結果的により大きな成果につながるという気がする。

堀: たとえば、「こういう局面で、こういったことが自分の能力向上に役立った」といったことは何かあっただろうか。

山内: 私自身に関して言うと、人との巡り会いを大事にしてきたことが大きかったかなと思う。親が転勤族だったので小学校から高校まで何度も転校していて、そのたび新しい環境に飛び込んでいた。だから比較的多くの人と出会ってきたし、人見知りもしなくなった。そんな土壌があるから、人とお会いしたときは自分からお話をしていくことが多い。そのなかで、自分が考えていないようなことを考えている人や、自分とまったく異なる見方をする人たちと出会ってきた。そのたびに自分の窓が、なにかこう…、少しずつ「きゅっきゅっ」と広がってきた感覚がある。だから、そうした枠を広げていけるような出会いの場に自ら入っていくということを、私としては大切にしている。

堀: ありがとうございます。2時間に渡った本セミナーを通し、「強い会社ってこういうことなんだな」ということがよく分かった。理念を掲げ、それを社内の末端にまで浸透させ、そして「思想堅実に礼節を重んずべし」と。そのうえで愚直なまでにお客さま第一主義を貫き、テクノロジーの進化にも適応しながら連続的にイノベーションを起こしていく。ヤマトさんにはそのための文化と仕組みがあるし、それを実行できるリーダーがいらっしゃるということだと思う。そんなヤマトさんの今後に向けたさらなる成長を願いながら本セミナーを終えたい。皆さん、盛大な拍手をお願い致します。山内さん、今日は本当にありがとうございました(会場拍手)。
 

※この記事は、2016年7月29日にグロービス経営大学院 東京校で行われたセミナー「クロネコヤマトの満足創造経営」を元に編集しました

スピーカー

1961年生まれ。1984年ヤマト運輸入社。名古屋主管支店長、ヤマトホームコンビニエンス常務取締役事業戦略室長、ヤマト運輸執行役員東京支社長、執行役員人事総務部長、ヤマトロジスティクス代表取締役社長等を経て2011年4月から現職。同年6月ヤマトホールディングス取締役執行役員就任。

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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