経営で重要なのは理念を共有して浸透させる仕組みを作ること 

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クロネコヤマトの満足創造経営[2]

山内雅喜氏(以下、敬称略): さて、続いては「社会の満足」というアジェンダにも触れたい。私どもは宅急便が社会インフラだと認識している。生活やビジネスの下支えをさせていただくインフラであって、そこには社会的責任もあると考えている。やはりインフラが止まってはいけない。また、信頼できるものでないといけない。水やガスと同じだ。蛇口をひねったらきれいな水が出るという信頼が不可欠だし、出るときと出ないときがあるというのもいけない。インフラとしての「信頼」と「継続」を常に意識しながらサービスを提供させていただいている。

では、そうしたインフラとして何かほかに社会貢献できないかと考えたとき、冒頭で申しあげた通り、リアルな接点が重要になってくる。毎日1000万のお客さまと接しているし、日本全国で行かないところはないわけだ。「そこで生まれるフェイスtoフェイスのつながりによって、何かお役に立てることができるのでは?」ということで、今は地域活性化にも取り組んでいる。そうした取り組みを社内では「プロジェクトG」と呼んでいる。Gは‘Government’のG。市町村の自治体と協力して、さまざまな取り組みを進めていく。目的は社会的課題の解決だ。特に地域で発生している各種社会的課題を、地域の皆さまと一緒に解決していきたい。それもインフラとしての務めだと思う。

私どもは今まで社会貢献活動について、どちらかというとCSRの視点で考えていた。そのためもちろん企業CSRとしての社会貢献は行っていたが、これはどうしても業績次第で優先順位が変わってしまうこともあれば、いろいろと本業の影響を受ける。それに対してCSV(Creating Shared Value)は本業を通して社会共通の課題解決に貢献していくという考え方だ。従って、私どもでも今はCSVの考え方に基づいて、自分たちのインフラおよびビジネスを通した社会貢献を行っていくために「プロジェクトG」を推進している。

具体例をご紹介したい。1つは独居高齢者の方々の見守り。特に地方では一人住まいをしている高齢者の方が多く、75歳以上となる後期高齢者の方が人口の半分以上を占める地域もある。また、そうしたエリアでは民生委員の方々も高齢化で少なくなってきておりケアのための仕組みや組織を維持できなくなってきた。そこで、高齢者の方々のご自宅にも日々配送お邪魔している私どもが、お元気かどうか、または健康状態に問題はないかといったことを確認していく。そうした「見守り」を、宅急便のお届けという行為のなかで展開していく。私どものネットワークを活かした地域支援の一例になる。

客貨混載(きゃっかこんさい)という取り組みもある。地方では今、過疎地になればなるほど路線バスの維持が難しくなっている。住民の方の足であるものの、赤字路線ということで路線バス会社としては維持が困難になるためだ。そこで私どもがバスに荷物を混載させていただく。配達のため、たとえば山間部までは私どもも車を走らなければいけないわけだ。で、同じ路線では住民の足ということでバス会社もバスを走らせている。それならば両者を合体させ、バスにお客さまと貨物を混載していく。こうした取り組みを岩手県からはじめて、今は宮崎県等の各地域へ広げつつある。こんな風に地域の民と民をつなげ、新たな価値をつくりだしていきたい。

産業活性化も重要な課題だ。地域を元気にするために何が重要かというと、やはり産業。特に地域農林水産物の売上を拡大する必要がある。そこで私どもは、たとえば青森県とともに「A!Premium」という物流プラットフォームを構築した。その枠組みのなかでりんごやホタテといった青森の農林水産物を全国、そして今は海外、特にアジアASEANにも発送している。それで、今は青森で朝採れたホタテを翌日には香港の食卓に並べることができたりしている。これは先ほど申しあげた宅急便のグローバル展開で可能になった。「クール国際宅急便」でアジアへ運んでいる。日本のりんごは本当に美味しくて安全。価値が非常に高く、海外では日本における販売価格の5~10倍の価格でも取引が成り立つ。そうしたものを海外へ持っていくことで価値を高めることができる。

一方、都市部でもたとえば多摩ニュータウンでの取り組みがある。こちらも高齢者支援になるが、「ただお世話をするだけでなく、高齢者の方々がいきいきと暮らすことのできる仕組みが必要だろう」と。そこで、お買い物代行や家事サポートのサービス、さらには地域の方が集まることのできるコミュニティの場を提供したりしている。こちらは現在、行政に加えてUR都市機構様や京王電鉄様等、さまざまな方々と連携して進めている。

これらの取り組みは、今のところ全国展開できているわけではないが、今後も次々と、試行錯誤を重ねながら展開していくことになると思う。日本は世界で最も早く少子高齢化という社会的課題にぶち当たっている。従って、世界に先駆けてその社会的課題を解決する道筋や方法論を提示できたら、韓国や中国をはじめ、特に高齢化が大変なスピードで進んでいるアジア、ひいては世界でリーダーになれるのではないか。そんなことを意識しつつ、今はお手伝いできるところから取り組んでいる。従って、これらの領域で今大きな利益を生むということはない。大きな利益を追求するよりは、先ほど申しあげた信頼と継続を大事にしていく。ただ、継続するためには赤字でもいけない。利益が出なければ継続はできないし、国からの助成金等を意識しているうちも継続は難しいと思う。従って、しっかりと利益が出る仕組みにはしていきたい。

さて、ここからはサービスに関する私どもの考え方をお話ししたい。「世の中やお客さまの変化に対応していくことが大切だ」というのは皆さまも考えていらっしゃることだと思う。ただ、私どもはそれをやるにあたって生産性も向上させたい。サービスの質を高めてお客さまに喜んでいただくだけでなく、自分たちの効率も高めることを常に意識している。それで、eコマースであれば今は商品をお受け取りになる皆さまと私どもで、LINE等を活用しつつ「何時にいらっしゃいますか?」「どこでお受け取りになりすか?」といったコミュニケートできる形にしたりしえいる。また、取扱店さんやコンビニさんのほか、街なかや駅に設置した宅配ロッカーで受け取ることができるようにするといった取り組みも進めている。

これはお客さまからすると、都合が良い時間帯に都合の良い場所で受け取ることのできる仕組みになる。で、この仕組みによって私どもの効率も高まる。何も分からない状態で皆さまの元にお邪魔すると、ご不在で荷物を持ち返り、その数時間後に再度お邪魔をしてまた不在だったりするケースがある。そうした不在率は、今は20%前後。120回配達行為をしないと100個分の仕事ができないわけだ。そこで、お客さまに喜んでいただける形にしながら、同時に不在を減らして効率を高めていける仕掛けを設けていった。それで、お客さまへのメール連絡をこまめに行ってご希望の時間帯等を指示していただいている。今はそうしたコミュニケーションを、特にICTの新しいコミュニケーションテクノロジーも活用しながら進めている状態だ。もちろんこうした対応にはセキュリティが伴わなければいけない。従って、今は「クロネコメンバーズ」というサービスに会員登録していただいた方に展開していて、現在、その会員数は1400万人ほどとなった。

メルカリさんとの取り組みもある。会場にもフリーマケットのアプリを活用している方は多いかもしれない。ネット上で、「こちらは○○○円で。じゃあ、発送しますね」といったお取引が今は大変な勢いで広がっている。今後、国内ではそうしたフリマがeコマースと同様に広まっていくと思う。ただ、個人間売買で自分の住所や電話番号を知られるのを嫌がる方は多い。それが嫌だから使わないという女性もいらっしゃる。そこで私どもは、QRコードを用いて匿名の伝票を出力し、配達をする私どもだけが住所を見ることができ、個人間同士では個人情報を開示せず売買が行える形にした。そんな風に新しいテクノロジーを用いて今後もお客さまのニーズに答えていきたい。

経営で最も重要なのは理念や価値観、志を共有すること


続いては今日皆さんに最もお伝えしたかった経営の軸足に関するお話をしたい。ヤマトでは20万人の社員が全国で日々サービスを提供させていただいている。それで、「社員をどのように管理しているんですか?」といったご質問をいただくことが多いので、それに対するお答えというか、私の考え方をお伝えしたいと思う。私としては、経営で最も重要なのは理念や価値観、あるいは志といったものを会社で共有することだと考えている。サービスはいろいろあるが、大切なのはそのサービスを通して何を実現したいかという「思い」。それは経営理念に集約されると思うが、それを共有し、実行・体現できる形をつくることが非常に大事だ。その経営理念とは、言葉を変えると「ヤマトらしさ」であり、共通の価値観であり、「自分たちは何のために存在しているのか」といった存在意義でもある。それを明確に、全社員に浸透させていかなければいけないと考えている。

ただし、理念がどれほど立派でも、それだけで事業を形にできるわけではない。大切なのは理念とともに、それを支える仕組みを実際の経営システムに埋め込むことだと思っている。各種事業を展開するにあたっては、そこに戦略があって、それを基に商品やサービスの提供が組織で行われていく。ただ、それらも経営理念を実現するためのもの。特に私どものような労働集約産業において、サービス提供するのは一人ひとりの社員だ。従って、社員一人ひとりがヤマトの価値観を共有できるかどうかによって、実際に経営が成り立つかどうかも決まると思っている。

だから社長が最も考えなければいけないのは、経営理念を全社員に共有してもらうことと、それを脈々と伝えていけるような仕組みや仕掛けをつくることだと思う。そこで、私どもとしては、「変わるべきもの」と「変わるべからざるもの」という整理をしている。まず、「変わるべきもの」はサービスや戦略や組織。これはお客さまや時代の変化に合わせて変えていかないといけない。一方、経営理念や価値観は「変わるべからざるもの」。変わってはいけないものであって、その両方を意識して経営していかなければいけないと思う。

ちなみに、私どもの社訓には「ヤマトは我なり」という一文がある。「一人ひとりが常に会社の代表であり、自ら考え、自ら判断してお客さまに喜んでいただこう」という思いが「ヤマトは我なり」というフレーズに込められている。また「運送行為は委託者の意思の延長と知るべし」という社訓もある。「お客さまの思いやお客さまが求めているものを実現していくんだ」と。つまりサービス第一という考え方だ。そして、もう1つの社訓が「思想堅実に礼節を重んずべし」という倫理観。法順守はもちろん、「会社として社会に存在するために、きちんとした倫理観を持ってやっていこう」と。これが会社のDNAと言える。

それを実現するための仕組みということで、たとえば「全員経営」という考え方がある。「自分で考え、自分で行動できるようにしよう」と。ただ、そうした考え方は分かるにせよ、それがなかなか実現できないときはある。だからこそ、仕掛けや仕組みが必要になってくる。そこで、私どもはまず現場の管理を小集団の組織で行う形としている。皆さまの元へ荷物をお届けする宅急便センターは、10人前後のチームで運営されている。小さな組織で物事に当たることによって共同責任感が生まれ、互いの責任も明確になる。20~30人の大集団でチームをつくると、我々の場合、サービスで手を抜く人間が必ず出てきてしまう。そこで、小さな組織にして皆に責任感が生まれる形とした。現場への権限委譲もポイントだ。私どもでは宅急便のセールスドライバーがお客さまと交渉して運賃を決めることもできる。そうした仕掛けをあちこちに埋めていくことが経営者の仕事でもあると思う。

そのうえで、「自分たちはなんのために存在しているのか」という理念を常に意識させていく。そこで、たとえば互いに褒め合う「満足BANK」という仕組みを設けたり、社員教育のための各種ムービーを制作するなどしている。「満足BANK」とは、たとえば「今日、あの人はお客さんにいいサービスをした」「あの人は今日自分を手伝ってくれた」といった話を、社内イントラに記名式で書き込むというものだ。なにかこう、小学生みたいな話だが、やっぱり人にとって大事なのはそういう部分だと思う。そして、具体的には褒められるとポイントが付与され、そのポイントが貯まるとメダルが貰えるという仕組みだが、大切なのは褒めた側にもポイントが付く点。つまり、いかにして人の良い部分を見つけるかが大事になる。互いにそうした視点で見ていく環境のなか、企業文化をつくっていきたい。

また、社訓の唱和や各種講義、あるいは研修も当然ながら実施はしている。ただ、やはり理念を浸透させるうえで社員に最も“刺さる”のは、「仕事を通して感動したこと」「仕事をしていて“良かったな”と思った体験」といったストーリーではないかなと思う。私どもはそうした実体験を全国の社員から集めて社員向けに研修用の映像資料を制作している。募集をかけたら大変な数の実体験が集まったので、そこからいくつかの話をピックアップし、実在するドライバーの名前とともに「ヤマトで仕事をしていて良かったと思ったこと」ということを映像資料にまとめた。そういったものも通じて、「自分たちはなんのために存在し、何を目指すのか」といった理念を確認する機会もつくっている。

今はそうしたアプローチも通して共感をつくりあげ、会社としての理念や価値観を共有している。そのために今後もさまざまなことを仕掛けていくつもりだ。そういうことを愚直に、繰り返し繰り返し、行っていく。管理は無理だ。管理なんてできない。それよりも一人ひとり自主的に動いてもらうことを、経営者としては常に意識をしたいし、そのためにも会社の理念を伝えていくという作業を大事にしていきたい。以上になる。本日はありがとうございました(会場拍手)。
 

※この記事は、2016年7月29日にグロービス経営大学院 東京校で行われたセミナー「クロネコヤマトの満足創造経営」を元に編集しました

スピーカー

1961年生まれ。1984年ヤマト運輸入社。名古屋主管支店長、ヤマトホームコンビニエンス常務取締役事業戦略室長、ヤマト運輸執行役員東京支社長、執行役員人事総務部長、ヤマトロジスティクス代表取締役社長等を経て2011年4月から現職。同年6月ヤマトホールディングス取締役執行役員就任。

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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