同族経営は是か非か 

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同族経営については、昔から時々話題になってきました。今回その話を改めて取り上げたのは、前回取り上げた「もの言う株主」に対する企業の姿勢とも関連するようになってきたからです。なお、今回取り上げる同族経営は、家業的色彩の強い中小企業ではなく、「社会の公器」としての性格が強い株式公開企業を前提にします。

さて、同族経営のメリット、デメリットとしてよく言われたのは、概ね次のようなことでしょう。

■メリット
・経営者がオーナー意識を強く持っているので、いざという時の粘りや頑張りが非常に強い
・特に創業者が存命であるうちは、彼/彼女が一線を退いたとしても求心力が働きやすい
・同族経営者は通常は大株主でもあるので、難しい意思決定に関しても「鶴の一声」で前に進められる。その結果、スピードが増す
・創業家以外の経営者ではできないような大変革を主導しやすい(松井証券やスルガ銀行など)
・次期経営者に対して帝王教育を施しやすい。たとえば若いうちからさまざまな経験を積ませることが可能。また、家庭でも経営理念を深く伝授することができる。経営理念が競争優位の源泉にもなってきた昨今、そのインパクトは大きい

■デメリット
・ガバナンス機能が働きにくい結果、経営者の暴走や放漫経営に歯止めがかからない
・他の従業員が「“上がり”はせいぜい番頭役まで」と考える結果、デモチベートされる
・創業家以外の優秀な人材を経営者に据える機会を逃すことになる
・創業家の関係者間で「お家騒動」が起こると、会社までその騒動に巻き込まれ、迷走する可能性がある。たとえば兄弟姉妹間の確執が企業にまで持ち込まれてしまうなど

では、実際にメリットとデメリットのどちらの方が強く働くのでしょうか?かつてアメリカで実際にオーナー系と非オーナー系の企業の収益性を比較したところ、数ポイントだけオーナー系企業の方の収益性が高かったとの報告があります。

オーナー系の企業と非オーナー系の企業では会社の若さや規模が違うため、全く同じ条件ということにはなりません。しかし、スピード重視、経営理念重視の時代に、それに勝りやすいオーナー系企業の方が、少しアドバンテージがあるというのは、ある程度の納得感のある話と言えそうです(ただし、歴史が一般に短いオーナー系企業の方は生存者バイアスが入りやすい結果、サンプルが偏っている可能性があることは指摘しておきます)。

さて、こうした背景があるところに、近年、日本でも新しい動きが起きてきました。それがもの言う株主からのガバナンス体制への「ゆさぶり」です。もの言う株主の一部が、オーナー系経営者に対し、「オーナー系というだけで実績に乏しい子息などを抜擢するのはいかがなものか」と、同族経営であることを攻撃材料、取引材料にし始めてきたのです。

これが前回紹介したような対話型のファンドであればまだしも、昔風の攻撃性の高いファンドである場合は、企業はなかなか適切な説明をすることができません。その具体例とされているのが家電販売大手のヤマダ電機です。同社は強力な創業オーナー社長が長年率いてきた会社ですが、将来後継者と見なされていた長男の取締役を「将来、経営者にするつもりはない」とし、解任しました。

その原因となったと噂されているのが、旧村上ファンドの流れをくむ投資ファンドです。同ファンドは対話型ではなく、攻撃的な投資ファンドとして知られていますが、ヤマダ電機のかなりの株式を買い占め、その同族経営のあり方を攻撃材料とする様子がうかがえました。長男氏の取締役解任は、その動きに対して先手を打ったと噂されているのです(もちろん、他にも様々な理由はあったと思いますが)。こうした動きは今後も増していくかもしれません。

オーナー経営者としては、後継者候補がその任に相応しいと説明できれば話は簡単ですが、当該の同族幹部が仮に30代くらいの若手である場合、彼/彼女がその役職に相応しいか否かを証明するのは非常に難しいことが想像されます。

経歴に傷がつかないようなポジションにつけ、業績が出しているように見せることも可能は可能ですが、これでは今度は真の実力が付きにくくなってしまいます。人を成長させるのは修羅場体験ですから、それを「見た目」を良くするために避けるというのでは本末転倒です。

他の株主にとっても悩ましい問題です。本来、経営に不適格な人間が去っていくのは好ましいことです。しかし、実際に優秀なポテンシャルを持つ人間まで、同族であるという理由だけで排除されてしまうのでは、冒頭に紹介したようなオーナー系企業のメリットが失われてしまうことになるからです。

最も好ましい姿は、オーナー系の経営者が、真に優秀な人材のみを経営者候補として育成し、そうでない人材は、子息といえども自ら排除することです。そうした慣行が根付けば、不要なトラブルは避けられます。

しかし、「子故の闇に迷う」と言いますし、「できの悪い子ほど可愛い」という諺もあります。歴史を紐解いても、この罠を逃れることはかなり難しいものと思われます。

すべての投資ファンドが対話型になりえない以上、ガバナンスのあり方を攻撃してくるファンドは必ず存在するでしょう。こうした過渡期に、多くの同族企業がどのように対応し、後継者を育成していくのか、大きな注目ポイントと言えるでしょう。
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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