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「LGBT」をどれくらい理解していますか?

投稿日:2016/08/26更新日:2019/04/09

本記事は、グロービス社内で行われた勉強会「LGBTの方の企業におけるインクルージョン」の内容を書き起こしたものです(全2回)

台湾の高校入試で出題されるのは…?

福永玄弥氏(以下、敬称略): 皆さんこんにちは。まず、自己紹介の前に簡単なチェックということで、お隣台湾の高校入試で出題された問題を2つご覧いただきたい。

1問目は、2007年に出題された問題だ。「2005年10月、同性愛者などによる民間団体が台北市内で大規模パレードを開催し、公民はすべからく平等であり、いかなる差別も受けるべきではないと訴えました。アジア各国の同性愛団体も来台し、交流を交わし、人権運動の経験を共有しました」、この内容にふさわしいものを次の1~4から選びなさいという問題だ。

(1) 同性愛者たちはパレードという形態をもって公民権の実践を主張している
(2) 同性愛は逸脱的な性的指向として同情や保護を与えられるべきである
(3) 国を越えた参加は人権保護がアジアの文化的特色であるということを示している
(4) 同性愛者の人権は憲法で保障されている

こういう問題が台湾の高校入試では出題され、そこで正解を選ぶことが、中学生に求められている。

正解は1番だ。消去法で考えないと少し難しいかなと思う。まず、2番は何が問題かというと、同性愛が「逸脱的な性的指向」という点だ。これは台湾だけでなく国際社会の文脈でも不正確。正しくない。逸脱的ではないので2番は消去される。で、3番はどうかというと、たしかにパレードにはアジア各国の団体も参加したけれども、アジアには同性愛者に対して差別的な制度や社会もある。従って、必ずしも人権保護がアジアの文化的特色ではないということで、3番も消える。4番も間違い。まだ台湾の憲法では保障されていない。ただ、いくつかの実定法では保障されている。労働法と教育法では同性愛やトランスジェンダーの人権が保障されていて、そういうお話ものちほどできたらと思う。

続いて2問目。こちらはもう少し難しい。2006年に出題された問題で、内容はインドの話だ。「2008年にインド国内のゲイ団体から申請をうけ、インド衛生省は成人の男性同性愛者を罰する刑法377条の廃止を裁判所へ訴えた。ところが、インド中央政府は衛生省による訴えを退け、同性愛を違法で犯罪行為であるとして改めて強調した。成人の男性同性愛者が、たとえプライベートな領域で同意にもとづく性行為を行ったとしても、それは法や社会秩序を乱すものであると宣言したのです」、この内容に最も適切な語句を1~4から選ぶ問題で、こちらは複数回答可になる。

(1) 性暴力
(2) ホモフォビア
(3) ジェンダー平等の権利
(4) 異性愛中心主義

こちらは(2)と(4)が正解だ。1番の「性暴力」というのは、基本的には個人間で性的にふるわれる暴力を指しているので、設問の内容には当たらない。また、(3)はどうかというと、もちろんジェンダー平等の話ではない。正解は同性愛への嫌悪を意味する「ホモフォビア」と異性愛中心主義になる。

今申しあげたいのは、台湾では中学生がこうした問題で正解を求められる点だ。お隣の国である台湾では、遅くとも2000年代中頃にはそうした状況だった。

そうした話も踏まえて次に移りたい。まずは簡単な自己紹介から。私は今、東京大学大学院で博士後期課程に所属し、「東アジアにおけるジェンダーやセクシャリティと政治」といったことをテーマに研究をしている。また、日本や台湾や中国や韓国に関心があり、東アジア各国の間を毎月行き来したり、いろいろな場所に住んだりしながら研究を進めている。

同時に、2010年頃からは映画祭やパレードなど、様々な活動にも関わってきた。今日はいろいろなお話を交えながら、今回のテーマを皆さんと共有していきたい。

LGBTの基礎知識

まずは「基礎編と問題提起」。LGBTという言葉自体は聞いたことのある方がほとんどだと思うけれども、それが具体的に何を指しているのか分からないという方もいらっしゃると思う。なので、LGBTがそもそも何を表していて、そして今どのような問題を抱えているのかをお話ししたい。

そこでもう1つ、皆さんに聞いてみたい。皆さんの親戚や友人、あるいは同僚や部下や上司の方にLGBT当事者の方はいらっしゃるだろうか。知り合いや友達の友達といった関係でなく、普段から会話をしたりして、ある程度の信頼関係を互いに築いている間柄の方の中に。挙手の必要はない。心のなかで「いたっけ?」と思い返してみて欲しい。もちろん当事者の方もいらっしゃるかもしれない。そうしたことを心の中に留めながら話を聞いて欲しい。

たとえば、「あなたの性をあなたの言葉で説明してください」と言われたらすごく困ると思う。人によっては、「一体、何を話せば自分の性について語ったことになるのか、よく分からない」という方もいらっしゃると思う。そのすべを持っていないという人もいれば、それを人に聞かれたくないと感じる人だっていらっしゃるかもしれない。かくのごとく、性について話すのは難しい。で、そういう状況下、特に1970年代頃から、学問の領域でも運動の領域でも、「性という言葉をもう少し細分化して考えてみましょう」という流れが生まれていった。

それを、いくつかご紹介したい。まず、よく言われるのは「生物学的性(sex)」。ただ、この表現もLGBTや性的少数者のコミュニティでは少し問題含みというか、ストレートに使えないような表現でもある。そこでよく言われるのが、「あなたが生まれたときに割り当てられた性」という言い方。赤ちゃんとして生まれたときの性器の形状によって、「あなたは男です」「あなたは女です」と、割り振られる。基本的にはそれを指して「生物学的性」や「生まれたときに割り当てられた性」という。

一方、それとは別に「性自認(gender identity)」という分け方もある。自分が自分のことを男性だと認識しているのか、女性だと認識しているのか、あるいはそのどちらでもないと認識しているのかという分け方も近年生まれた。それを指す言葉が「性自認」。英語で「gender identity」だけれども、日本でも「ジェンダー・アイデンティティ」という言い方で、ほぼ日本語化されてきた。

それともう1つ、性愛の対象として、自分がどんな性に性的欲望をいだく傾向があるかといったことを説明する概念として、「性的指向」という言葉がある。

このように、今は性をいろいろな要素に細分化して捉えるようになってきた。その背景には、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーといった、従来用いられてきた性の枠組みでは説明できなかい立場を持つ人たちが表れてきたことがある。そこで、「lesbian」「gay」「bisexual」「transgender」の頭文字をとった「LGBT」という略称になっている。

性的指向が同性に向かう人のことを同性愛者、または男性か女性かによってゲイまたはレズビアンと言うし、それが両性に向かう傾向にある人をバイセクシュアルと言ったりする。それから、トランスジェンダー。こちらは、特に生まれついたときに持っていた身体的な性、つまり「ペニスがあるのか」「乳房があるのか」といったことと、自分の性自認に、違和感や不一致があるという人たちだ。男(女)の身体をもって生まれたけれども、男(女)というジェンダーのカテゴリに自身をアイデンティファイできないといった人たちのことを、広くトランスジェンダーと呼んでいる。

ただ、トランスジェンダーの人たちにもグラデーションがある。なかには外科手術で、たとえば女性は乳房を切り落としたり、男性はペニスに切り落として内性器をつくりたいと考え、実際にそうする人もいる。また、戸籍上の性別を変更したいという人もいる。そのように、「完全に」自分が望む性とともに、この社会で生きていきたいと思う人もいれば、「手術はしなくていいけれども戸籍は変えたい」と思う人もいる。また、「手術も戸籍もどうでもいい。とにかく自分は生まれついた体の性とは違う性自認を持っている」という人たちもいて、とにかく、さまざまなグラデーションがある。

日本では、特に手術をして戸籍も変えたいと考える人たちのことを「性同一性障害(者)」と呼ぶ歴史があった。でも、この呼び名は、あくまで「性自認と生物学的性の不一致は病気です」と認定する、疾病や障害の名前と言える。「自分の性のあり方は障害じゃない。それを障害と呼ぶ社会がおかしいんだ。社会がそういう風に求めてくるから自分は生きづらいんだ」と考える人もいる。従って、日本では「トランスジェンダー」よりも「性同一性障害」という表現の方がより頻繁に聞くと思うけれど、「性同一性障害」という言葉を使わない人、使いたくない人たちもいる。ここでも、そのようにバリエーションがあることを踏まえたうえで、「トランスジェンダー」という言葉を用いて話を進めていきたい。

ポイントは、同性愛が1970年代より以前は精神病理として認識されていた点だ。それがアメリカでは70年代頃から脱病理化がみられて、「病気ではないですよ」と言われるようになっていった。で、日本や台湾でも90年代に「同性愛は病気ではありません」との宣言が政府によってなされる。中国でも2001年、韓国でも2000年代初頭に「病気ではありません」といったことが言われている。一方、トランスジェンダーも国際的には、特に近年、「病気ではなく、そういう生き方である」という考え方が採用されるようになりつつある。

このように、LGBTの話というのは主に性的指向と性自認をめぐるお話と言える。それで、最近はLGBT以外にも「Sexual Orientation(性的指向)」と「Gender Identity(性自認)」の頭文字をとって「SOGI」と呼ばれることもある。こちらもLGBTや性的少数者の問題を考えるうえで出てくる単語として、日本でも数ヶ月前ほどから、恐らく今年に入ってからだと思うけれども、よく聞かれるようになった。

LGBTの抱える問題とは何か?

では、LGBTの何が問題なのか。一般的な社会学領域では、「人口に占めるLGBTを含む性的少数者の割合は、文化の偏りなく3~5%前後」というのが長らく定説とされてきた。この辺に関しては日本でもここ数年、特に大手企業が調査を行っている。たとえば電通ダイバーシティ・ラボが2015年に行った調査では、日本では人口の7.6%がLGBTとされている。一方、博報堂の調査では性的少数者全体では8.0%、LGBTに限っては5.9%となっている。やや大きい数字かなという気もするが、そこは調査方法・手法の問題もある。ともにネット調査なので、その辺をどう捉えるかという話もあるけれど、いずれにせよ人口比ではそのくらいと言われている。

また、この社会で性的少数者またはLGBTとして生きていくことで、どんな困難に直面するかという調査も、2000年代後半頃から本格的に行われるようになった。たとえば、2015年にはLGBT法連合会という民間団体が「LGBTである私たちは家庭や学校、または就業や医療等々の計259項目にわたり、こういった問題に遭遇します」との発表を行っている。

もう1つ、研究調査として頻繁に取りあげられるデータがある。ゲイ男性とバイセクシュアル男性の自殺率は、異性愛者の5.9倍にものぼるというデータだ。これは、正確に言うと「自殺を考えたことのある人」。というのも、実際に自殺してしまった人が「自分はゲイでした」といったことを書き遺すわけでは必ずしもないので。その辺は調査もできないので、あくまでも生きている人を対象にしたデータではこういうことが言われている。

いずれにせよ、日本では1990年代以降、特にここ数年でLGBTの問題が人権問題であると認知されるようになってきた。今日はとりわけ就業をめぐってどんな問題がみられるかをお話ししたい。まず、トランスジェンダーの人たちの場合、大学の卒業証明書や成績証明書に性別欄があるため、面接時などに「見た目の性別と違う」と言われてしまう。それでトランスジェンダーであることが理由で不愉快な質問をされたり、それが元になって選考で落とされるといったケースに遭遇してしまう。

また、就職活動で男女分けを前提としたリクルートスーツの着用が要求されるため、就活をはじめること自体が困難という問題もある。さらに言えば、戸籍上の性とは異なる容姿で就職しようとしたところ、企業の「秩序維持」を理由として自宅待機や(現在の容姿とは)異なる容姿での就労を命じられたり、さらには懲戒解雇になったりするという問題も報告されている。このほか、職場の健康診断などで、人前で服を脱がなければならず不愉快な思いをするケースもある。更衣室や制服、あるいは社員寮や宿泊研修で厳格な男女分けがあるケースも同様だ。そのときにいう「男女」が戸籍上の性を指していて、トランスジェンダーへの配慮がないと大変しんどい思いをしてしまう。また、トランスジェンダーに営業をさせないといった業務内容の差別もあれば、職場では戸籍上の性別に合致したトイレを使うよう言われてしまい、自身が望むトイレを使えないという問題もある。

職場のトイレに関して言うと、現在、そのことで訴訟が起きている。今年はじめ、経済産業省で起きた事例だ。40代のトランスジェンダー女性…、戸籍は男性だけれども今は女性として生活をしている方が女性用トイレを使おうとしたところ、「戸籍上は男なんだから男性用トイレを使いなさい」という命令を受けた。それに対して国を相手に取った訴訟が起きている。

一方、同性愛のレズビアンやゲイの人たちは就労をめぐってどういった問題に遭遇しているのか。ここでは2つだけ紹介したい。1つ目は、自分の同性パートナー、またはその父母の介護で休暇を取得しようとして使用者に申請したものの、法的には配偶者でないという理由から拒否されてしまったケース。福利厚生が同性の家族を想定していないという話になる。で、2点目はカミングアウトや推測を元に、「あの人、ゲイらしいよ」といった噂を社内で広められてしまうケースだ。

この2点目は少し踏み込んで説明したい。今はだいぶ寛容な社会になりつつあるけれども、それでも当事者にとっては自分が同性愛者である事実を人に知られることは、かなりのリスクになる。たとえば企業勤務者が海外勤務を希望する時に、「海外赴任をする場合は結婚をしていないといけない」といった話で揉めることがある。また、同性愛という事実を、とりわけ自分に近しい人に知られると、いろいろなレベルでリスクを抱えることになる。たとえば「Aさんだけは分かってくれる」と思って、自分がゲイであるとAさんに伝えたとする。ところがAさんのほうは後日、皆に「ちょっと、聞いた?」みたいな(会場笑)。信頼して伝えたにも関わらず、なぜかその情報が他の人に知れ渡ってしまって不利益を被る状況に追いやられてしまう可能性だってある。これは「アウティング」、つまり自分が望まないセクシャリティの「アウト」で、まぎれもない暴力である。そのように、今はLGBTに対して寛容な社会になりつつあると言われるものの、多くの問題があることはご理解いただきたい。
 

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