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最適資本構成: 無借金経営が望ましくない理由は?

投稿日:2016/08/06更新日:2021/11/24

『グロービスMBAファイナンス』の第9章から「最適資本構成」を紹介します。

日本では「無借金経営」を理想とする経営者が少なくありません。事実、それに近い経営を行っている企業も存在します。しかし、株主の観点から見ると、無借金経営は望ましい状態ではなく、むしろ適度に借金をして(あるいは社債などを発行して)、企業価値を上げることが望ましいというのがファイナンスの考え方です。負債を増やすことによって企業価値が上がるのは、利子費用を損金処理して法人税の負担を減らせるというメリット(節税メリット)があるためです。しかし、無闇に借金を増やすことがいいわけではありません。ある段階を越えると倒産リスクなどのデメリットが節税メリットを上回るようになるからです。最も好ましい負債と株主資本のバランスが最適資本構成です。グローバルレベルでは、企業の財務責任者は、常にそれを模索しているのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

最適資本構成

最適資本構成とは、DとEの最適な組み合わせを指す。企業は最も有利な条件で資金を調達したい。そのため、企業が発行する証券(社債と株式)を最も高い値段で投資家が買ってくれるDとEの組み合わせを知りたい、というのがこの課題についてのそもそもの問題意識である。

1958年に至るまでこの課題に対する答えは謎のままであったが、モジリアーニとミラーによって理論的な解明がなされた。それは、企業の価値と資本構成は無関係である、という驚くべきものだった。この考え方は、2人の頭文字を取ってMM理論と呼ばれている。

MM理論は、税金が存在しないという仮定を置いて、そこから企業価値と資本構成の関係を導いている。簡単な数値例を使って最適資本構成について説明しよう。

必要投資額が1000百万円のプロジェクトがある。このプロジェクトは毎年200百万円の営業利益を生み出す(議論の単純化のために減価償却費-投資-Δ運転資本=0とする)。オプションUは無借金(=株主資本1000百万円)、オプションLは借入を活用する(=借入500百万円十株主資本500百万円)。借入金利が4%だとすると、両者は次のようになる。
  

投資家(資金提供者)が受け取るキャッシュフローを見てみよう。オプションUにおいて投資家は株式からのキャッシュフローを受け取るので、その金額は毎年200百万円となる。オプションLにおいて投資家は負債と株式からのキャッシュフローを受け取るので、その金額は毎年20+180=200百万円となる。投資家が受け取るキャッシュフローは、借金があろうとなかろうと一定になる。投資家が受け取るキャッシュフローが企業価値になるから、資本構成と企業価値は無関係ということになる。これがMM理論の結論である。

ここから議論を発展させて、税金の存在を仮定しよう。税率を40%とすると2つのオプションは次の表のようになる。
  

投資家が受け取るキャッシュフローは、オプションUが120百万円、オプションLは、20+108=128百万円となる。税金が存在すると、負債を活用したほうが企業価値は増大することになる。その理由は節税効果である。

このモデルに従うと、負債を増やせば増やすほど節税効果によって企業価値が増大することになる。しかし、現実はそのようにはならない。負債が増加すると、財務上の困難が発生し、それによって新たなコストが発生するからである。

第1に、倒産コストがある。負債はあらかじめ決められた一定の条件とスケジュールで金利と元本を返済しなければならない。一方、売上から得られる営業キャッシュフローは変動するものである。そのため負債が増えすぎると債務不履行のリスクが増加する。その結果、債権者が要求する金利は高くなってしまう。

第2に、エージェンシーコストがある。エージェンシーコストとは、債権者と株主の利害が衝突することによって発生するコストのことである。負債が増えすぎると債権者が債権の回収の安全性を優先して、企業価値を増やす投資機会に難色を示すことが起こる。どんなに良質な投資機会であっても、リスクが存在するからである。その結果、債権者が企業の事業活動に対して、何らかの制約条件を付けることが起こる。

第3に財務的柔軟性の喪失である。財務的柔軟性とは、手持ち資金と借入余力を持つことで、予測できない事態(ポジティブの場合とネガティブの場合の両方)に対応できることを指す。例えば、絶好の事業機会が突然訪れても、資金に余裕がなくて投資ができないというようなケースである。負債の増加によって財務的柔軟性が減少すると、企業の打ち手が制約を受けることになる。

負債の著しい増加はこれらのコストを引き起こし、それによって企業価値はネガティブな影響を受けるようになる。このため、負債比率と企業価値の閧には、概念的に以下の図のような関係があるとされる。
  

株主資本100%からスタートして、負債比率を上げていくと節税効果が発生して企業価値は上昇していく。しかし、ある段階から金利の上昇など負債の増加に伴うコストが上昇して、企業価値が減少するようになる。負債を増やすことのメリットがデメリットによって相殺される点が、最適資本構成ということになる。その理論値を知りたいところだが、今日のファイナンス理論もそれについては解明に成功していない。

ファイナンス理論の一般的な見解としては、キャッシュフローが安全にコントロールできる範囲で借入を最大化せよ、ということになる。このような考え方は、資本構成のトレードオフ理論とも呼ばれている。

(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)

次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「コーポレートガバナンス」を紹介します。

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