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英国のEU離脱が意味するもの

投稿日:2016/07/08更新日:2019/04/09

※この記事は日経産業新聞で2016年7月1日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

英国の欧州連合(EU)離脱決定は衝撃的なニュースだった。1989年のベルリンの壁崩壊に匹敵する歴史的な出来事であろう。

ベルリンの壁の崩壊当時、僕は米国ボストンのハーバード大学経営大学院で学んでいた。崩壊直後、大学院は通常プログラムを変更し「ベルリンの壁の崩壊が意味するもの」と題した1日がかりのセッションを開いた。地政学者らが学生と活発に意見交換し、とても有意義だった。

英国のEU離脱が決まった当日から週末にかけて、僕が代表理事を務める一般社団法人G1は40歳未満の様々な職種・業界リーダーが集う「G1新世代リーダー・サミット(U-40)」を開いていた。G1 U-40でも、かつてのハーバードのように「英国のEU離脱が意味するもの」という臨時セッションを実施した。

英国EU離脱は歴史的にみると、かつて世界の半分を植民地として支配下におき、言語や文化、政治の面で存在感を放った英国の国際舞台からの退却の始まりを意味する。欧州で2度の大戦が起きたことへの反省から生まれた欧州統合の流れを逆転させる出来事とも言える。

株式相場は1日でリーマン・ショック時を超える下げ幅をつけた。不確定要因を嫌気して投資が減り、自由貿易が後退して世界の国内総生産(GDP)を押し下げるだろう。

それよりも重要なのは、国際政治的な意味合いと、社会的な問題だ。まず国際政治的には国・地域の分裂が視野に入る。英国内ではスコットランドと北アイルランド、そして欧州的にはEUの分裂だ。社会的側面としては各セクターの断絶が露呈した。英国を二分した今回の国民投票では下院議員が襲われ命を失うところまで対立が激化した。地方と都市、若年層と高齢者層、労働者層と知識層、そしてグローバリズムとアンチグローバリズムがぶつかりあった。

心配なのは、この断絶が英国だけの問題に終わらないことだ。米国では共和党のドナルド・トランプ氏と民主党のバーニー・サンダース氏、すなわちナショナリスト的思考とコミュニスト的思考という極端なリーダーが支持を集めた。社会に不満を持つ層がエスタブリッシュメント(支配階級)に「No」を突きつけている。英国ではその不満を持った右派と左派の両方が、離脱という結果を導いた。

日本はこの断絶から何を学ぶべきだろう。日本と欧米を比較してみると違う点が2つある。1つは日本では極右的な政党が力を持っていないこと。もう1つは地方の労働者層と社会との断絶が顕著な形で表れていないことだ。

この違いには重要な示唆がある。日本で欧米のような断絶が起こっていないのは、欧米と違って日本は労働者を資本家と対立軸に置かずに、家族的経営を行い、仲間として大事にしてきたからではないだろうか。同じ食堂で食べ、同じユニホームを着て、一緒に品質改善活動に取り組む。教育にお金をかけ、福利厚生を充実させ、地域コミュニティーを大事にしてきた。賃金格差も欧米に比べると低い。そしていざ天変地異が起こると、皆が立場を超えて危機に対して取り組んできた。

今後日本が取り組まなければならないのは、欧米のような社会の断絶を生まないことだ。そのためには、英語でいう「Inclusive Society」、つまり包摂的な社会を作る必要がある。

そのためには皆が立場を超えて政治的な議論をし、投票を通して政治に参画するような社会にする必要がある。日本は「選挙が多すぎる」と言われるが、それはリーダーが国民と意思疎通を図る機会を多く持っているとも言える。

参議院選挙に向けて政治家は国民との対話の真っ最中だ。これを機会に国民は政治家に思いっきり疑問をぶつけてみたら良い。その真摯な対話を通してのみ、社会の断絶は解消されていくこととなるだろう。
 

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