第5回 トヨタと富士重の連携(2) 富士重の事情 

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富士重工業(スバル)は、トヨタ自動車との連携を機に、軽自動車事業からの撤退を決めた。スバルの軽自動車事業を巡るこれまでの変遷を紐解いていくと、「トヨタとの連携」を決めたスバルの事情が、より深く理解できる。グロービス経営大学院客員教授・田崎正巳が考察する。

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2008年4月11日の新聞報道によると、トヨタ自動車の出資を機に富士重工業(以下、社名も含めすべてスバルで表記します)が軽自動車からの撤退を表明したとあります。トヨタからの出資にかかわる内容は、前回のコラム「トヨタと富士重の連携(1) 相乗効果は?」をご覧いただくとして、今回はスバル側の事情、それも軽自動車の存在がこの提携にどう関わっているのかを考えてみたいと思います。

実は、今回のトヨタとの関係強化には、一見トヨタとはあまり関係なさそうな、スバルの軽自動車事業の課題が、直接、間接を含め、大きく影響を与えていると私は考えています。新聞などでは、買う側のトヨタの視点からの論評がほとんどですが、売る側のスバルの視点で考えましょう。

スバルの“先進性”と国内販売状況のギャップ

前回のコラムにも書いたように、スバル車の国内外での評価は高く、その価値の拠り所が、「水平対向エンジン」と「シンメトリカルAWD」の先進性及びそのイメージにあることは間違いないと思います。「スバリスト」と呼ばれるコアなファンをはじめ、多くのスバル愛好者には特に、その先進的なイメージが魅力だろうと思います。

ですが、このイメージと国内販売の実態との乖離がスバルの悩みでもあったのです。グローバルでの販売状況を見ますと、このイメージは妥当な気もしますが、国内市場に関してはかなりギャップがあるようです。

スバルは05年に国内新車累計販売台数が1000万台を突破しました。1958年に「スバル360」で4輪自動車に進出以来、実に47年かけて達成しました。(ちなみに、トヨタは現在、年間の世界販売台数をここ数年で1000万台にする予定でいます。年間販売台数と47年の累計台数がほぼ同じ、というところからも、トヨタと比べた時のとんでもない規模格差の一端が見えてしまいます)

この1000万台の内訳を見ると、「レガシィ」などの登録車(軽自動車より大きな普通車)はなんとわずか3分の1以下でしかないのです。逆に、軽自動車が約7割を占めます。しかもその過半は、「サンバー」や「レックス・バン」などの軽商用車なのです。「サンバー」は、軽の運送業者である「赤帽」や街によくある「焼き芋屋さんのトラック」などで馴染みがありますが、とても先進技術イメージを体現しているとは言えません。

1000万台のうち、軽商用車が45%、軽乗用車が25%で軽自動車が計70%。そして「レガシィ」「インプレッサ」などの登録車合計はわずか30%となっているのです。昔の数字も含まれているからというわけではなく、07年1年間でも見ても国内販売台数の62%が軽自動車と、依然として大きな割合を占めています。さらにその軽自動車の中でも過半が軽商用車という状況も、続いているのです。

「なんか、スバルの先進イメージとは随分違うな~」と感じる方も多いと思いますが、これが実態なのです。つまり、スバルの国内における販売状況は軽中心でしかも軽トラ・バンが一番多いという構造になっているのです。

この現実が、スバルの戦略を非常にわかりにくくさせ、また経営陣を悩ませています。

世界規模で見れば生産の80%近くが、レガシィなどの登録車です。これらの車は技術にも定評があり、自動車会社としての規模は小さいものの、「プレミアム・ブランド」になりうる可能性を秘めています。

普通に考えれば、この評価をベースに技術開発の中心を登録車に集中し、「プレミアム・メーカー」への脱皮を狙いたいというのが、大きな戦略の柱となるのです。私も個人的にはずっとそれを期待していました。

ですが国内では、販売台数的に軽自動車主体のメーカーなのです。メーカーとしての規模の関係から、開発費をふんだんに使えるわけではありませんから、あれもこれもと、同時に開発するのは無理です。そして、国内販売の中心である軽自動車の開発は、会社の収益向上という観点から、避けられないのです。開発を続けないと、商品が劣化するのはどこの世界でも同じです。

国内の系列ディーラーは、ほぼ軽自動車専業といえるスズキやダイハツの強力な商品と戦わなくてはなりません。さあどうするか?皆さんならどうしますか?

「軽自動車をやめてしまって、競争上の優位性のある登録車に限られた資源を集中投入する」という戦略は美しいですが、国内販売の6割以上を占める商品を止める決断ができる経営者は果たしているでしょうか?

軽自動車プレミアム化の失敗

スバルの出した結論は、「軽自動車も差異化してプレミアム性を持たせよう」、ということでした。

軽自動車の市場は年間200万台近くあり、国内新車自動車市場の4割近くまでを占めるようになりました。しかも市場は拡大しています。

ですが、「ワゴンR」「ムーヴ」に代表される「ハイトワゴン」といわれる背の高いワゴンタイプが人気で、サイズ的には軽自動車の制限枠一杯の中でほとんど同じになり、結果としてどれも似たような外観になってしまっています。エンジンも3気筒中心で横並びです。人気のカギは、「安さと室内スペースの広さ」というのが定説です。

そこでスバルは、外観やコンセプトで大胆な差異化を図って、この市場で限定的な規模であってもスズキやダイハツと直接競合しないマーケットを開拓し、国内市場を守った上で登録車に注力し、世界に出て行こうと考えたのでしょう。

その答えが、それまでの「プレオ」という古くなったタイプに変え、03年12月に出したデザイン重視の「R2」と、その翌年投入した「R1」という“軽自動車のスペシャリティーカー”ともいうべき一台でした。「R2」の方はスバルとしての量販を見込、「R1」はよりニッチを狙いました。

「R2」は、後席の居住性を犠牲にしても、デザインを重視しました。外観は、「ワゴンR」などのハイトワゴンとは異なり、フロントマスクに有名なイタリア人デザイナー(元アルファロメオのデザイナー)のアドバイスを入れるなど、かなり挑戦的でした。エンジンも他の軽自動車とは違う4気筒を採用、続く「R1」も含め、専門家や自動車評論家らからは高い評価を得て、RJCカーオブザイヤー特別賞ベスト軽自動車賞を受賞したほどです。

「R1」は、サイズそのものも小さくし、メルセデスのスマートのようなシティ・コミューターを狙ったようです。

ですが、市場での売れ行きは散々でした。「ユニークなデザインと高性能なエンジンです。ミッションも7速CVTにサスペンションも上級車並です」というスバルのアピールは、多くのユーザーから、「居住性が悪い上に、価格が高い軽自動車でしかない」と見られたようです。要するに「軽自動車にそんな付加価値は求めない」ということなのでしょう。

逆に、「ワゴンR」よりももっと真四角で背の高いダイハツの「タント」はメーカーの期待以上に売れました。「軽なのに広い!」が、わかりやすいコンセプトで受け入れられたのでしょう。

出だしからいきなり不評・不振な「R2」についてはディーラーからの突き上げもあり、急きょ交代させるはずだった「プレオ」を予定以上に継続販売し、さらに延命措置のためのモデルを追加し、最終的には他社と似たようなハイトワゴンである「ステラ」が出るまで継続販売されるということになってしまいました。

この「ステラ」は「R2」の車台を使って、なんとたったの11カ月で開発されたといわれています。普通の乗用車開発の4分の1の期間でやってしまったというのが、いかに混乱していたかを物語ります。

国内ディーラーを満足させるには他社と似たような売れ筋モデルにしなければならず、それでは規模の点でとても利益は出せない。かといって手を抜くとディーラーと共倒れになり、国内販売網を失ってしまうという、スバルの構造上の問題を浮き彫りにしたのです。

追い込まれたスバル、窮地の策がトヨタとの連携

意欲的に取り組んだ「R2」の開発費の回収もままならないうえに、追加で“やっつけ仕事”での新車開発をせざるを得ず、結果としてレガシィや需要の多いミニバン、その他新しい登録車への開発スケジュールに影響が出て、ジリジリとシェアが下がっていったのです。軽自動車市場は全体では伸びているにも関わらず、スバルのシェアは1998年には10%を確保していましたが、昨年上期では7.5%と4分の3近くまで落ち込んでいます。皮肉にも、大した開発投資をしてこなかった軽商用車市場では15.7%も確保し、98年比でもシェアを伸ばしているのです。

ジリジリ下がる軽自動車市場でのシェア。膨らむ開発費を回収できず、落ち込んでいく利益率。その影響で、登録車の開発が遅れて、こちらもシェアが落ちていく。更には、後ろ盾のGMを失った後の環境技術などへの対応はどうするのか。

これらが、次々とスバルの経営陣を悩ませたのは容易に想像できます。他社と提携するといっても、外資も含め他社は軽自動車事業のことなど助けてくれるはずありません。軽を抱えながらでは、攻めもできず、かといって撤退もできず、ここ数年のスバルの辛さは想像に難くありません。ここまで追い詰められたスバルが出した結論が「トヨタ」です。

もちろん、スバルにとってトヨタは怖いです。いっぺんに飲み込まれてしまうかもしれません。ですが、窮地に陥ったスバルにとっては最高のパートナーでしょう。なぜなら、トヨタにはダイハツがあるからです。撤退しても、ダイハツから軽自動車をOEMで受ければ当面は商品供給はできます。

トヨタは当然メリットを要求します。一つは、生産キャパです。これはアメリカでのカムリの下請け生産となります。もう一つは、コアの技術です。これが若者向けFRスポーツクーペで、車台、エンジン、そして開発に生産と全部スバルがやり、販売は当面はトヨタブランドのみだそうです。しかも、そのために新工場まで作るのだそうです。これは、スバルがトヨタの戦略下に組み込まれ、後戻りできない状況になったと考えていいでしょう。

スバルにとって良いシナリオは、トヨタ向けスポーツ車が売れ、トヨタに「さすがはスバルの技術だ。この技術は大切にしよう」と思わせることです。それにより、軽自動車を気にすることなくスバル独自の車の開発を続け、やがてはプレミアム・メーカーに脱皮できるというのが理想でしょう。

悪いシナリオはというと、このスポーツ車が売れず、次世代のレガシィもパッとしない場合で、こうなると「そんな小難しい技術なんて所詮ユーザーには理解されない。優秀な技術陣にはトヨタ車の開発をもっとやってもらい、生産もトヨタの下請け中心でいい」となり、スバル独自の技術の進化が停滞してしまうことです。

これら、スバル側の事情を考えると、「今回のトヨタとの提携拡大の陰の主役は軽自動車だった」ともいえると思います。

国内販売網の維持とグローバルマーケットでの競争激化の矛盾は、実は他にも事例はあります。松下は、ナショナルショップ維持のために、あらゆる家電製品を供給しなくてはなりませんでしたが、国際競争の中では当然、選択と集中が必要です。製薬会社は、新薬開発がグローバル競争で勝ち抜くカギとなる医療用医薬品と国内向け大衆薬の事業を分離する動きが多いです。

スバルと似た構造を持つ三菱自動車もいずれこの「軽自動車問題」が出てくるかもしれません。今のところは、日産へのOEM供給で稼働率は確保しているようですが。最終的には、軽自動車市場はスズキ、ダイハツの2強に加え、最近本気モードになってきたホンダの3社のみとなっていくだろうと思います。

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