リスクの定義: 超高層ビルから飛び降りた時のリスクはゼロ? 

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『グロービスMBAファイナンス』の第4章から「リスクの定義」を紹介します。

リスクという言葉は、一般には危険に遭う可能性や損をする可能性、あるいは「悪い知らせ」を指して用いられることがほとんどでしょう。ただし、ことファイナンス、あるいはファイナンスの基盤となる統計学の世界では、リスクは「不確実性」「バラつきの度合い」を指す言葉となります。たとえば、超高層ビルから飛び降りた時のリスクは、日常表現では「この上なく危険」「死ぬ可能性が極めて高い」などとなるのですが、ファイナンス的な定義では、「確実な死」という結果が待ち受けており、結果に不確実性やバラつきがないため、リスクはゼロと考えるのです。リターンの期待値がプラスかマイナスかとは次元の異なる問題なのです。リスクは割引率などにも影響する非常に重要な概念ですから、しっかりその意味を理解しておきましょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

リスクの定義

リスクという言葉は職場でもよく使われるが、ここで改めてその定義をしよう。実はファイナンス理論が言うリスクという意味は、日常用語として使われているリスクとは異なっている。簡単な事例を使って説明しよう。

次の3つのケースについて、リスクが高いのはどれだろうか。なお、ここに記されている情報はすべて本当だとする。

〔ケース1〕
A社が花粉症の特効薬の開発に成功し、明日発表するという情報を合法的に入手した。この情報は確実で、かつ、私だけが知っている(その理由は詮索しないこと)。A社の現在の株価は1000円である。

〔ケース2〕
B社の主力製品であるサプリメントに対して、明日政府が規制を加えることを発表するという情報を合法的に入手した。この情報は確実で、かつ、私だけが知っている。B社の現在の株価は1000円である。

〔ケース3〕
C社は業績好調で、その先進的な事業展開は専門家からも高く評価されている。証券アナリストは、C社の株価が国際優良株の代表銘柄とされている割には、他の国際優良株に比べて割安であると見ている。C社の現在の株価は1000円である。

「リスクは、ケース2が高くて、ケース1は低い。ケース3もリスクは低いが、ケース1ほどではない」――このような印象を持つ人が多いのではないだろうか。ところが、ファイナンス理論はそのようには考えない。ファイナンスは、ケース1と2のリスクが極めて低く(ほとんどリスクはない)、ケース3はリスキーだと考える。ケース1とケース2のリスクが低い理由は、次のアクションを取ることで、どちらの場合もほぼ確実に儲けることができるからだ。


このようにファイナンスの世界では、値段が下がること自体はリスクではない。値下がりが確実に予見できるのであれば、それに対する打ち手があるからだ。ここからファイナンス理論におけるリスクの意味合いが見えてくる。ファイナンスでは、リスクとは予見できない「不確実性」のことを指す。そのため、不確実性の低いケース1と2のリスクは低いとされるのに対して、会社の評価はピカイチであっても、ケース3はリスキーと見なされる。なぜなら、ロングであれショートであれ、C社の株に投資をしても、儲けることができるかどうかはわからないからだ。

以上の議論を踏まえて整理すると、ファイナンスでは期待リターンが100%確実に実現することをリスクがないと言う。そして、期待リターンが実現するかどうかわからないことをリスクがあると言う。期待リターン実現の不確実性がリスクであり、不確性が高いほどリスクが高いということになる。そこから、リスクとは「期待リターンを中心とした、実際のリターンの分布」という定義を導くことができる。

リスクを負担する株主が直面するリスクについて、国債への投資との比較で見てみよう。国債の期待利回りは1%で、株式に対する期待リターンは5%とする。期間を1年として、1年後に投資家が手に入れるリターンの結果をチャートで表すと、図の左のようになるだろう。

国債の場合は、1年後に実現するリターンは1%で間違いないだろう。したがって、期待リターンと実際のリターンは一致する。つまり、リスクはない。それに対して、株式の場合は、5%のリターンを期待しても、1年後に実現するリターンが実際にどうなるかはわからない。10%になるかもしれないし、▲20%になるかもしれない。

実際のリターンをチャートで表すと、図の右のように5%を中心としてばらついている。これが、リスクがあるということである。株式のリターンのばらつきについては、内外に膨大なデータの蓄積がある。それに基づいて分析をすると、株式のリターンのばらつきは正規分布に近い分布を示すことが確認されている。したがって、分散や標準偏差といった統計学の概念を使うことで定量的にリスクを表現することが可能になる。その計算方法については、本章末の補論と第5章で説明しよう。

リスクを不確実性と定義すると、今度は逆にわれわれが職場で使っているリスクという言葉が何を意味するかが気になるだろう。それは、「悪い知らせ(Bad News)」を指していることが一般的である。ファイナンス的に言うと、悪い知らせについては、B社株の空売りのようにリスクをコントロールできる場合もあるし、世界不況のようにコントロールしにくい場合もある、ということになる。ちなみに、会計学でリスクというと、この悪い知らせを指していることが多い。

(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)

次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「リスクを表す係数:β(ベータ)」を紹介します。

グロービス出版
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東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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