変えてみろよ、おしぼりの価値観ってやつを 

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おしぼり漫画をウェブ展開、7つの香りの新商品――日本独自のおもてなし文化・おしぼりを、「OSHIBORI JAPAN」と称してブランド化を進める、おしぼり屋の2代目がいる――。マーケティング・コンサルタントの郷好文氏が、「たかがおしぼり」から「されどおしぼり」への転換を図る2代目の戦略に迫る(このコラムは、アイティメディア「Business Media 誠」に2008年4月3日に掲載された内容をGLOBIS.JPの読者向けに再掲載したものです)。

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寒いときは温かくて、暑いときは冷たくて、私たちをホッとさせてくれるモノ、それは“おしぼり”。冬なら顔いっぱいにおしぼりを広げてホンワリしたい、夏なら汗でベトベトの額をゴシゴシしたい、しかし不作法なので手を拭くだけで我慢している人もいるだろう。行儀が良くても悪くても、おしぼりには日本人のホスピタリティ(おもてなし)を感じるのだ。

そのおしぼり屋、“飲食店へ出入りする業者”というイメージがある。その「たかが・・・」を「されど・・・」に、さらに「OSHIBORI JAPAN(おしぼりジャパン)」という統一事業ブランドへ押し上げようとしている、おしぼり屋2代目が東京都国立市にいる。「ニッポンに“おしぼり”あり」というブランディング(ブランドを構築するための活動)、そして傑作・おしぼり漫画に引かれた。

「おしぼり屋なんかに」という悔しさが原点に

「悔しかったんです」――藤波タオルサービスの2代目、藤波克之さんは開口一番こう語った。「なぜおしぼり屋なんかに・・・と言って笑う人もいました」と、ツライ思いもした。

幼いころから父の創業したおしぼり屋に出入りして、夏休みや冬休みにアルバイトもしていたとはいえ、家業を継ぐ意識は薄く、七光りで経営者ぶるのも嫌だった。だからサラリーマンとして大企業(NTT系列のIT企業)に就職した。システム営業職として仕事にやりがいを感じていたが、やがて学閥も強い会社でどこまで自分がやれるか限界も見えてきた。そして専門学校に通いながら、コンサルタントを目指した。

だが二つの契機があり、おしぼり屋になることを決心する。一つは自身の結婚式で、祝い客に来る父の友人の多さにびっくりしたこと。もう一つは4年前の父の入院だった。それで家業を継ぐ決断した克之さんは、おしぼり屋にPower Pointやウェブサイト、ブランディング、漫画を持ち込んだ。こう書くと“若殿ご乱心”のように聞こえるが(実際に“バカ殿”とからかう社員もいた)、彼には2代目として家業を“事業”にする決心があった。

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漫画『おしぼり人間ドビィーくん』第1話より

克之さんのおしぼりへの想いは、まさに奔流のように熱くとどまることがない。彼のおしぼり事業の起点は、この漫画にあるひとコマだ。「お前が変えてみろ、おしぼりの価値観ってやつを」――。

克之さんが“おしぼりアーチスト”の笹川勇さんと出会い、生まれたおしぼりドビィー君。国内外の旅先(ミラノスカラ座やニューヨークや沖縄など)に、ドビィー君を連れ出しては“アート”を写してきた(下の写真)。

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そのドビィー君を主役にしたのが『おしぼり人間 ドビィーくん』だ。漫画家志望の大戸タカシさんを社員の中から見出し、熱血おしぼり社員の純平が、大型洗濯マシンに閉じ込まれてドビィーくんになってしまう物語を創作した。現在第5話まで掲載、6話では意外な展開になるとか。

温故知新の事業展開

さて2004年10月の入社以来、克之さんが価値観を変えたくて手がけたのは、漫画だけではない(下の表)。

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一時コンサルタントの修行もした克之さん、その事業戦略をアンゾフのマトリクス(新旧の市場・顧客の軸)を用いて説明するが、筆者はその内容を参考に、おしぼり屋っぽさを出した「しぼる-ゆるくマトリクス」を自作してみた(下の図)。

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起点は、たかが&されどおしぼり屋であることと、悔しい気持ちだ。そこからの展開は温故知新。彼の好きな言葉であり、家業の継承・成長のキーワードでもある。

おもてなしという本質的な付加価値を追求した、香りの商品開発。これは「温故軸(古きをたずねる)」の展開だ。ウェブサイトやフリーペーパーという広報手段を導入して、従来の御用聞き的営業を超える「知新軸(新しきを知る)」の展開もバランスが取れている。古きの本質を突きつめつつ、新しきを加える。

そして、対角軸は「しぼる」-「ゆるく」。業界のイメージを上げるためスローガンや応援をするのではなく、漫画やアートというゆるめの変化球がいい。

父の事業を否定せず、100%肯定もせず、本業へのこだわりと時代の変化をミックスする。それでなければ家業、つまりファミリービジネスは継続できない。ピーター・ドラッカーは「ファミリーのためのビジネスではなく、ファミリーはビジネスのためにある」と言ったそうだ。それをもじれば「おしぼりのためのビジネスではなく、おしぼりでおもてなしの本質を究める」、それが藤波タオルのファミリービジネスを継承し、発展させていった。

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そしてこれら全てを包含するブランドコンセプト。成田空港に着くと目に留まる、国土交通省の「YOKOSO! JAPAN」に触発され、「おしぼりを日本の誇るブランドにしよう」と発想したのが「OSHIBORI JAPAN」だ。ブランド戦略としてロゴやグッズを展開してきたが、実は日本が世界に誇る三つの文化戦略を、彼はすでに奔流のように進めてきた。それが「漫画」「香り」、そして「おもてなし」だ。

「まず汚れが落とせないのを手作業で分けるんですよ」。克之さんの案内でおしぼり工場のライン見学をした。戻ってきたレンタルおしぼりの最初の工程は、汚いおしぼりを取り除くこと。おしぼり以外の用途(掃除など)で使われたものだ。

確かに真っ黒なおしぼりでは“頬ホンワリ”も“額ゴシゴシ”もできない。おもてなしという日本人の礼を広めるおしぼり事業、素晴らしいじゃないですか。

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