LEAPモデルで継続成長を目指せ ―『成長企業の法則』 

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本書の著者である名和高司氏は、ハーバード・ビジネス・スクールの成績優等者に与えられるベイカー・スカラーを、日本人としては2人目に授与された俊才である。その後、マッキンゼーで19年間トップコンサルタントとして活躍した後、ライバルであるボストン コンサルティング グループ(BCG)のシニアアドバイザーに就任。現在は一橋大学教授を務めながら、著名企業の社外取締役などの活動も行っている。グローバル企業に対するコンサルティング経験も豊富であり、本書のテーマにはうってつけと言えるだろう。

本書は、BCGの協力も得て、「21世紀の勝ち組 世界トップ100社」を選定し、その共通点に関して洞察を加えている。選定の基準はやや厳しく、規制産業や金融機関は除き、2014年時点で売上高が1兆円以上ある企業のみを対象としている。また、集計の都合上、2000年以降にIPOした企業も除かれている(グーグルなど)。その上で、売上高成長率40%、企業価値成長率40%、平均利益率20%の重みで得点をつけ、ランキングを出している。名和氏はこれらを満たす企業を「G企業」と呼んでいる。「Global」「Growth」「Goliath(巨大であること)」をすべて兼ね備えた企業という意味だ。

特に売上高1兆円は厳しいハードルと言えるが、小さい会社であれば高い成長率を実現できるのは当たり前というのが、この条件を設けた理由という。シリコンバレーの若いベンチャー企業が経済を引っ張るアメリカなどとは異なり、経済活動に占める(老舗)大企業のプレゼンスが高い日本にとっては、彼らがさらなる発展を目指す上で参考になる部分が大である。なお、2000年以降のIPO企業に関しては、ランキングからは漏れているものの、本文中における言及は多く、「○○位相当」という表現で示されている。

ちなみに、日本企業からトップ100社に入ったのは10社。最高順位はファーストリテイリングの20位である。また、自動車関係の企業が5社ランクインしたのが日本の産業構造を反映していて興味深い。

本書は大きく、序盤、中盤、終盤に分けることができる。序盤は、このトップ100社の共通点に関する洞察と、それを実現するための著者のフレームワーク「LEAP」の紹介である。そして中盤は海外14社、国内7社についてのケーススタディとなっており、割かれているページ数は最も多い。この21社のケーススタディ、分析だけでも非常に読み応えがあり、経営者にとって大きなヒントが得られるはずだ。終盤はLEAPの考え方がいかに日本企業を変えうるかを改めて説明している。

さて、本論に戻ると、トップ100社の「G企業」の共通点として、第1に、「堅牢性」「ブレない」と言ったことに代表される静的な特質がある。根っこや幹の部分がしっかりしているとも言える。そしてそれと同時に、「変容性」「身軽」といった動的な特質を指摘している。俊敏さ、変化対応力があることとも言える。

言われてしまえば当たり前のようにも思えるが、売上高1兆円を超える大企業が、一見トレードオフにあるこれら2つの要素を同時に持つことは極めて難しい。名和氏は、この難しさを理解したうえで、静的な「深化」と動的な「新化」の両方がG企業に脱皮する上での鍵としている。

それをさらに詳細にフレームワーク化したのが、LEAPモデルだ。Lはビジネスモデルの要件を示し、静的特性であるLean(リーン)と動的特性であるLeverage(梃子)を両立させるべきとしている。次のEはコア・コンピタンスの要件を示す。ここでは、静的特性であるEdge(尖がり)と動的特性であるExtension(ずらし)を両立させる必要がある。Aは企業DNAの要件で、静的特性であるAddictive(こだわり)と動的特性であるAdoptive(適応力)を含む。そして最後のPは、LとEとAの交差点に位置する「志」のことであり、静的特性であるPurpose(大義)と動的特性であるPivot(一歩踏み出す)を示している。ポイントは、LEAPの4つの要素が、すべて静的特性と動的特性のトレードオフを両立させる必要があるということだ。どうすればそれが可能になるのかは、ぜひ本書で確認いただきたい。

最後に、「あとがき」にも面白い個所がある。それは古巣であるマッキンゼーに対して、「ベストプラクティスに『答え』はない」と批判している点だ。これこそが名和氏がマッキンゼーと袂を分かつことになった理由とのことだが、経営環境が激変する21世紀においては、過去のベストプラクティスを追うのではなく、LEAPを意識しながら前を向いて経営に当たるべきであるという指摘は的を射ていると思われる。

ベンチャー企業の支援も大事だが、大企業が元気にならないと、なかなか日本の経済は良くならないことは言うまでもない。誰が読んでも示唆の多い書籍ではあるが、特に大企業のマネジャーや経営を志す人間に読んでほしい1冊である。464ページと厚い本だが、ケーススタディ集的な部分も多いので、多様な用途に用いることができるはずだ。


『成長企業の法則 世界トップ100社に見る21世紀型経営のセオリー』
名和高司著
3,024円(税込)

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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