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「ほろよい」復活に見るリポジショニングの重要性

投稿日:2016/05/18更新日:2019/04/09

サントリースピリッツが昨年12月にリニューアルした「ほろよい」が売れているようだ。「2016年1〜3月の販売量は前年比2割超(中略)刷新前に比べ若者だけでなく中年層の取り込みにも成功している(日経MJ5発1日号)」という状況だ。「ほろよい」は発売以来8年が経過しているが、ここから「リポジショニング(ポジショニング変更)」の秘訣や商品をロングセラー化する条件などが学べるように思える。

若者の未充足ニーズにミートした「ほろよい」

筆者は某私大で非常勤講師を12年間務めているが、若年層のアルコール離れの加速は肌身に感じられる。若者の飲酒に関する意識調査の結果が様々な記事にも取り上げられているが、「酔いたくない」という回答が飲まない理由の上の方に挙がる。そのココロは「街で見かける“酔っ払いオジサン”のような醜態を晒したくない」という所にある。つまり、カッコ悪いのはイヤだが、実は飲酒への興味はある層も存在しているのが実態だ。だが、オトナになったらまず体験するアルコールであるビールは、若者が今までの人生で経験したことがないほど苦く、アルコール度数は5.5%程度が主流でちょっとキツめ。何よりイメージがオジサンぽい。そこに、「アルコール離れ(ビール離れでもある)」の大きな原因がある。

そこに、「お酒を飲んだことがない20代前半の若者を主要ターゲットに定めていた。低アルコール(3%)で味わいも甘めにすることで、ビールが苦手な若者を取り込む(同紙)」という「ほろよい」の狙いがミートしヒット商品となった。だが、8年目の2015年の実績は前年比1%に留まるという成長の踊り場を迎えたのだった。

ロングセラー商品への剣が峰

成長鈍化の原因を担当者は「発売後長く知名度や好感度は高めたが、次第に「子供っぽい」とのイメージを持つ消費者もでていきた(同紙)」と分析。店頭調査の結果、30代〜40代にまでターゲットを拡張することを決めたという。

だが、ここでちょっと考えたいのは、販売が鈍化した原因は「誰が・どう動いたか」だ。飲酒年齢になった新規顧客が順調に流入し、その顧客がそのまま継続購入をしてくれれば当然数字は順調に伸びる。記事には新規顧客の減少か既存顧客の離反か原因は明らかにされていないが、恐らく販売鈍化はその両方が起こった結果だろう。

発売以来8年も経過すれば、より魅力的な競合も登場する。また、20代だった顧客も30代になり嗜好も変化する。つまり、差し当たっての課題は本来のターゲットの獲得と既存顧客の維持だ。その上で、新たなターゲットとして、成長してオトナになったかつての主顧客から同世代へ波及させ、その世代の新規顧客獲得することと言えるだろう。

そのためには商品も変化しなくてはならない。「変わらず売れ続けるロングセラー商品」となるためには、「いかに既存のイメージを損なうことなく自然と変化することができるか」にかかっている。ロングセラー商品というと、全く商品が変わらずに常に売れ続けているという印象があるかもしれないが、水鳥が水面下で足を懸命に動かしているが如く、人知れぬ努力が隠されているのである。

「ほろよい」のリポジショニング

現代マーケティングの大家、フィリップ・コトラーは著書『コトラーのマーケティングコンセプト』のポジショニングの項で、「マーケティングで最も重要なのはポジショニングである」と明言し、さらにそのポジショニングを変える「リポジショニング」は、既存顧客と商品価値を維持したまま成功できるかどうかの「命懸けのジャンプ」であると表現している。それを「ほろよい」はやってのけたのである。

同商品には様々な味があるが、定番の1つである「ぶどうサワー」と3月に発売された「白ぶどうサワー」を旗艦商品としていると思われる。記事では担当者が「発売当初の消費者の嗜好は変化し、『果汁感のある飲料などを好むようになってきた』(同紙)」と見立てた様子が記されている。当初の「甘くて飲みやすい」という味わいへの支持からの変化が明確に伺える。

新天地を目指した「ほろよい」

リポジショニングを行う際は、競合に真っ向ぶつけるか、今まで訴求してきた価値の軸を変えるか、競合のいないポジションを目指すかというような選択肢がある。

担当者が発見した「果汁感」は、昨今のチューハイやカクテルのトレンドである。単なるフレーバーではなく、いかに本物の果汁を用いるかに始まり、その果汁が鮮度の高いうちにアルコールとブレンドして製品化するという、製品価値(製品特性)的に考えれば付随機能に相当する部分まで差別化競争となっている。とすれば「ほろよい」は強豪ひしめくいわゆるレッドオーシャンのポジションに飛び込んだのかというと、そうではない。もう一つの「低(3%以下)アルコール=酔っ払わない」という価値の軸で掛け合わされた象限に存在するプレイヤーは多くはない。強いていえば、「果汁感がある×酔っ払わない」なら、果汁ジュースが代替品になりそうだが、ターゲットは飲酒に興味のある20代なので、ジュースでは事足りない。

また、30‾40代は店頭調査で担当者が<自分の時間を過ごすときに飲む(同紙)>という飲用シーンを引き出している。ダメとは言わないが、そのシーンにジュースではちょっとカッコつかないし、リラックス要素も低そうだ。故に、「果汁の美味しさが味わえる×ほろ酔い気分になれる」は強いポジションであるといえるだろう。

リポジショニングを成功させた「ほろよい」は、より幅広い顧客と強固なポジションを獲得し、ロングセラー商品の道を歩み続けている。
 

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