持続的変革企業に共通する8つのファクター 

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「強い者が生き延びたのではない。変化に適応したものが生き延びたのだ」。これは生物進化論の金言であり、企業組織においても同様だと考える人は多い。ただし、実際に持続的に変化できる企業というのは多くはない。

どんな環境変化にも対応、あるいは先取りし、自らの意志で自らを変革できる企業の条件があるとすれば、それは何か――。今年に入ってからの株価下落、通貨変動、欧州でのテロ、震災、中国経済の減速などを見るにつけ、ビジネススクールで教鞭をとるものとして、この古くて新しい問いへの答えに少しでも近づく努力を重ねなければならないと気が引き締まる思いだ。

その問いを考えるためのヒントになると思われる研究成果を紹介したい。グロービス経営大学院の研究プロジェクト(6カ月にわたるグループ研究)のうち、2014年度に私が指導教官を務めた『持続的変革企業における組織内の思考様式・行動様式の分析』(笠井孝浩、川瀬好彦、戸倉雅子、森川亜未)から。P&G、リクルート、3M、ユニチャーム、ボストン・コンサルティング・グループなど、変革やイノベーションを継続的に、組織の能力として実現している企業の現役・OB社員など延べ13人、20時間以上に及ぶ対面インタビューを実施し、企業が持続的変革を実現するための方程式仮説と、重要ファクターを炙り出すという大胆な試みである。

本稿では、仮説設定や議論のプロセス部分を省略し、得られた結論のエッセンスをお伝えしたい。まずは、調査対象企業へのヒアリング結果から抽出された持続的変革のための3つのキーファクターと方程式仮説として、以下のような結論を得た。

いずれの成功企業も、これら3つのキーファクターをバランス良く、高水準で実現している。研究チームはそれを実現するための「近道」のようなものについても、かなりの時間をかけて議論したが、結論としては「愚直に徹底している」というところにとどまった。とはいえ、私は指導教官として、この結論が大きく的を外しているとは思っていない。私自身、多くの企業の組織変革に取り組んできたのだが、「変革を持続させる」ということほど難しいことはない。変革の現場では、「理」だけでは動かない。「情」をも動かすパワーが必要だ。決してスマートにはいかない。「愚直」にやり続けることが大切。そして中途半端では先細りだ。「徹底」すること覚悟が求められるのである。

では、3つのキーファクターを高めるための条件として、研究チームが抽出したものを見ていこう。カギカッコ内は、ヒアリング先で得た印象的なコメントである。固有社名は伏せている。

(1)個人の思考・行動・資質

■1-1 成果を出すことに強いコミットメントが全方位から要求され、自分自身も求めている
「『あなたなら、どうしたい?』『おまえ、やりきるの?』を常に問われている」
「『ちゃんとしてください』と後輩から言われることで、ドキッとする」
「あえて自分を追い込む。過去の成功体験ばかりしゃべる人にはなりたくない」

■1-2 変化や成長過程でのプレッシャーを楽しむ
「眉間にシワを寄せて目標達成しても面白くない。楽しむことを怠けるな」
「追い込まれたほうが燃える。ドMの人が多い」
「プライドがズタズタになるような辛い経験をした。だが、『なんとかなるだろ』と根拠のない自信がついた」

■1-3 知的好奇心が旺盛で、腰が軽い
「出入りの弁当屋さんに『うちにどうやって入りこんだの?』『1日何食が損益分岐点なの?』などと声をかける」
「入社当時、『飲み会の席上で仕事の話ばかりするなよな』と思った。半年経つと自分も
仕事の話しかしてなかった(笑)」

(2)集合体の思考とコミュニケーション

■2-1 知恵や経験を、組織や次世代に広めることが基本動作
「自分のことだけではだめ。他人や部下に関心を持たないようでは失格」
「どんなに忙しくても、誰か相談に来たら手を止め、徹底して相談に乗る」
「惜しみなく教えることで、自分を追い込む。もっと凄い奴になりたい」

■2-2 追い込まれても、救ってくれる温かみ
「誰かの『つらいっす』に対してみんなでどうしようかって考える」
「つまずいている人を全力で助けてくれる。飲みやランチに誘ってくれる。人のことを見ていてくれる」

■2-3 組織ぐるみで遊びに本気。仕事と遊びの垣根がない
「宴会芸が面白くないとダメ。宴会準備のために、とても濃い密度で仕事をやっつける」
「宴会芸にも泣かせるポイントを作る。それで誰かを動かす。戦略であり、コミットメントでもある」

(3)組織による仕組みや仕掛け

■3-1 型にはめる、プロセスを決めることで思考を深め、コミュニケーションを良くする
「組織でのノウハウ共有ががっちり決まっていた。考えるべきこと、検証すべきことが明確で、自然に学べる仕組みができていた」
「上司が極端なまでにメモのできばえにこだわる。メモの欠陥は知性の欠陥を示す可能性があるからだ」

■3-2 行動の自由度は許容する。リスクテイクができる
「ルールから逸脱しなければ、その先は自由」
「1億円かけた企画が、ユーザーテストの反応が悪くてお蔵入り。でもプロセスを踏んでいれば誰も責められない」
「失敗した人が昇進して偉くなっている。チャレンジしたことがプラスになる文化がある」


これらの企業の特徴は、さまざまな二律背反を同時に満たしていることである。
・統制されているのに、自由
・標準化・フォーマット化されているのに、柔軟
・厳しいのに、温かい

なにより、インタビューをした人たちが即座に具体的なエピソードをその人なりの分かりやすい言葉で説明できる。これが、「企業文化が浸透している」という状態なのだと、研究チームは実感した。

またチームは、「多くの凡庸な企業が『持続的変革企業』を目指すには?」という問いにも1つの解を導き出した。

凡庸な企業が「持続的変革企業」になっていくには、まずは構成員の行動を縛り、思考・コミュニケーションに統制をかけ、定着させる。

具体的には、
・現場の行動を規定する強制ギブズを入れる。つまり、明確な目標やKPIの設定と小まめなフィードバックを徹底する。議論や会議スタイル、社内文書をフォーマット化したり、現場の行動管理を行ってもいい。カタチを徹底することで、まずは結果を出せる組織にしていく。
・企業理念や行動指針を、借り物の言葉ではなく、自社の構成員に腹落ちするような言葉・内容で策定しておく。

そのうえで、前述のようなトップからミドルマネジメントのリーダーシップの涵養や、情報やナレッジを共有した人を高く評価し、協力的で、他人に「与える」人を評価し、昇進
させるといった施策を打っていく。

持続的変革を実現する道は決して平坦ではなく、たどり着ける企業も、ましてや維持し続けられる企業も稀である。自社の立ち位置や課題意識に対して、何をどう取り入れていくのか――。少しでも思考のヒントになれば幸いである。
 

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