オンライン教育のゴールは?受講につなげるマイルストーンは? 

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知の創造勉強会 Edu-Techの最新事例[3]

今野: では、会場からも質問を受けたい。

会場:TechAcademy」では8週間で一定水準のエンジニアを育てるとのことだが、その入り口でスキルセットの認識に違いが生じたり、途中で落ちこぼれそうになったりするケースもあると思う。そのときはどのように対処していらっしゃるのだろうか。

村田: たしかに全員が必ずしも最後まで進むわけではないし、途中で辞めてしまう方も少なからずいる。その点を僕らはサポートする必要があるけれども、とにかくオンラインだから皆の進捗が見えるわけだ。誰が課題を提出していて、誰がチャットでどれぐらいメッセージを送っているかといったことが分かる。だから、たとえばチャットのメッセージが少ない人に対してはサポートが声を掛けたりするし、進捗が遅れている方にはチャットで警告が出るようなシステムも用意している。ただ、その辺はまだまだ不十分だと思うし、受講された方全員に最後まで進んでいただくということは、今も課題だと言える。

会場: オンライン教育のマーケティングとPRについてはどのようにお考えだろう。意外とリアルのコミュニティが大切になるときもあると思うが。

村田: 我々は集客もオンラインで行うし、お客さまの申し込みから実際の勉強までオンラインで行っているので、マーケティングもウェブだけ。具体的にはフェイスブックやツイッターやディスプレイ広告をしっかり最適化するということを続けている。ただ、この辺は普通のウェブマーケティングなので。一方、15万9000円をオンラインで払うというのは相当にハードルの高い行為で、そこへ到達するまでに大きな段差がある。従って、しっかりとお支払いのフェーズまで行けるようにするということを僕らはやっている。具体的には、まず無料のカリキュラム。1時間で勉強できるような無料カリキュラムをダウンロードできるようにしている。で、その次に無料の動画説明会を観ていただく。それを経て申し込んでもらうという風に、段階を設けることでしっかりお支払いのフェーズまで到達できるようにしている。

今野: ちなみに、他のウェブサービスと比較しても15万9000円を取れるというのは大変有利だ。CPA(Cost Per Acquisition)が4万円でもいける原価構造なわけで、4万円を使って1人取れるというのは相当に大きい。従って、まあ、ウェブサービスから入った会社としては当り前のことをやっているわけだけれども、それで結構ユーザーを取れているのはすごいと感じる。これが一般的なウェブサービスであれば、CPAは1000円を超えないようにしないとライフタイムバリューが合わない。そういう世界からすると原価構造を最適化している点は一定の強みになっていると思う。

村田: あと、リアルでのPRやコミュニティに関して言うと、今後も「DemoDay」という形で成果発表会は続けたい。これ、今は東京でしか開催していないけれども、地方にも我々のお客さんは多いので地方開催も考えていく。ただ、それ以外で、たとえばリアルで教室を持つといったような方向は考えていない。オンラインに最適化することで現在の原価構造を実現できているし、リアルを持たないことで安く提供して、その余剰をマーケティングに使えたりしているので。オンラインのみでやっていく方向性は変わらない。

今野: 「DemoDay」に参加させていただいて感じたことがある。これはテクニック論かもしれないが、初心者を対象にした教育事業では生徒さんの変化率がすごく大きい。だから感動体験も大きいわけだ。それで、たとえば生徒さん同士で「DemoDay」後に懇親会みたいなことをすると、もう、感動して泣きそうな人もいたりして(笑)。苦労してきたから。実際、立派なサービスを構築できた方以外にも、「ちょっとプログラムが動くっていうところまでしかできませんでした」といった方はいる。大部分はそういう人で成り立っているわけだ。でも、リアルの場でそういう会話をするとことでコミュニティが生まれていて、それが価値になっている面もある。その意味でも初心者にフォーカスしたのは“当たり”だったのかなと思う。

ちなみに今は受講者7000人と企業数100社を、社員数5~6人で回している状態で、外部キャッシュはほとんど減っていないというか、3000万ぐらいしか使っていない。あとはぜんぶ収入で回っている状態だ。そこまで自立して走れるような状況になっている。

会場: 今のお話に絡むかもしれないが、昨今はエンジニアがすごく高単価な人材になってきている。その辺はどのように確保していらっしゃるのだろう。社内に抱えるのか、あるいは社外の方にお願いするのか。あと、私たちもEラーニングを提供しているけれども、たとえば「質問に回答するサイクルをAIで回せないか」といった議論もしている。このあたり、メンタリング等の現状と今後のあり方に関して、何かお考えがあればぜひお伺いしたい。

村田: メンタリングやサポートに関して言うと、我々は先日、オルツというAIの会社さんと共同で研究開発を行うというリリースを発表させていただいた。それで何を目指しているか。我々のサービスではチャットが最も質問できるツールになっているけれども、やはり質問には傾向があるし、似た質問や似た回答がある。「それをしっかりAIに学習させたら、同じような質問が来たときに自動で答えることもできるのでは?」と考えているためだ。ただ、メンタリングに関しては、どちらかというとサポートよりも人と向き合うことで強制力を働かせることが目的になっているので、このまま人間でやっていくほうがいいのかなと思う。

今野: メンタリングの人的リソースはどのように調達しているのだろう。

村田: 自社サイトやクラウドソーシングで募集している。社員としての雇用ではなく社外のパートナーになる。

会場: 今後、参入障壁はどのように築いていこうとお考えだろうか。あと、結果にコミットすることやゴールを設定することは重要だと思うけれども、法人向けのサービスとなると個人のオンラインブートキャンプとは少し意味合いが違ってくるのかなと思っていた。法人におけるコミットや成果についてはどういった工夫をなさっているだろうか。

村田: 参入障壁に関して言うと、まず、今はプログラミング教育を行ったり短期間で成長させたりするようなサービス自体が少ないので、どこの会社も参入しようと思えばできる状況だと思う。従って、僕らとしてはいち早く成長するということを考えている。また、メンターも競争力の源泉になると考えている。教える人やサポートする人の質、あるいは人間性も重要になるのではないかな、と。仕組みやオンラインブートキャンプのようなサービスはどこでも構築できると思うけれども、良いメンター、あるいは良いメンターの仕組みというのはなかなかつくりづらいと思うので、そこをしっかり構築していきたい。

一方、企業研修のほうは、たしかにカスタマイズしながらそれぞれ異なるゴールを設定することが多い。プログラミング言語が違ったりしてニーズも多様なので。ただ、今後は「オンラインブートキャンプ」の仕組みをしっかりと企業のなかに入れ込んで、ある程度は共通したものをセットしながらサービスを提供できるようにしたい。そこはまだできていないので、今後の課題になる。

会場: 単価が安いサービスでは何か事例があるだろうか

今野: はじめから強制力があるファンクションに入ることだと思う。たとえば学校。「スタディサプリ」は模試や宿題管理といった領域に入っているし。そう考えると、そもそも強制力がある領域をインターネット化するケースのほうが、実は多いのかもしれない。

会場: 成長に向けて強制力が不可欠になるというお話に関して、たとえばアカデミックなリサーチ等なさっていたらその辺について伺いたい。

村田: アカデミックな裏付けはない。試行錯誤のなか、トライアンドエラー繰り返しながら僕ら自身が見つけたという話になる。

今野: 具体的に「こういうケースがあったから」という話は何かあるのだろうか。

村田: リアルなスクールをやっていた頃、受講者の方々に「なぜ勉強しに来たのか」ということをいつも聞いていた。すると、「今までもオンラインや書籍を使って独学で勉強していたけども習得できなかったからスクールに来ました」という方が多かった。これってどういうことかなと考えてみると、つまり勉強するためにお金を払っていたのではなかったのだと思った。当時は1講座でおよそ2万円だったが、その日その場所へ来るためにお金を払っているんだということに気が付いた。やっぱり社会人の方って忙しいし、オンライン学習等だと「帰りにちょっと飲みたいからやめとこう」なんてこともある。だから、その日、その時間、その場所に行かなければいけないということにお金を払っている面が大きいんだなと感じた。現在のサービスはその点を応用していった面がある。

会場: 私たちもオンラインで英語MBAの教育を1月からはじめていて、国内外で集客している。それでイベントやオンライン説明会に人を集めたいと思っているけれども、授業料と入学金でおよそ15万円ということもあって、どうしてもオンラインでは体験が想像しきれず、最後のコンバージョンにつながらないという課題を抱えている。その点、先ほどは資料ダウンロードや動画説明以外で何か工夫すべきことはあるだろうか。たとえば生徒さんや卒業生といった方々の生の声を共有したりするとか、何か最後のひと押しにつながるものがあれば教えていただきたいと思った。

村田: 申し込むにあたって情報をしっかり提示するのはすごく大事だと思う。あと、僕らがトライしたことでうまくいっているなと感じるのは、「期」をつくったこと。たとえば「Webアプリケーションコース」でも18期や19期といった形でカリキュラムの開始日が決まっている。オンライン学習であれば、本来はいつ申し込んでもいいじゃないですか。今日申し込んで、今日勉強できる形にしたらいい。でも、いつでもできると逆に申し込まない。だから、そこで「今週日曜までに申し込まないとできません」ということで期を設けると、「次はないんじゃないのか?」という感じがする。だから、実際に締め切り間近に申し込んでくる人が多い。そんなわけで、我々としてはいつでも勉強できる仕組みにできるけれども、あえて期をつくっている。もしかすると英語学習等でもそんな風にするほうが最後のコンバージョンを後押しできるかもしれない。

今野: その辺はフラッシュマーケティング時代の経験が生きている? 

村田: そうですね。期間限定で大幅に安くできるサービスだったし、残り日数の少ないほうが購入を決断しやすくなるということはあったので。

会場: ゴール設定に関して、最近はアメリカのMOOC(Massive Open Online Courses)でも、「見て学ぶだけではダメだ」ということで、企業と組んで転職させるような動きも出はじめているように思う。特にオンラインだけで学ぶ場合、ゴール設定のあり方はどういった方向に進んでいくとお考えだろうか。

村田: やっぱり転職や就職につながるというのは1つの大きな要素だと思う。この点はリアルでもオンラインでも同じだ。ただ、それともう1つ、地方の方も東京の方とまったく同じ教育を受けることができるという点もオンライン学習の醍醐味だと僕らは思っている。では、地方の方は勉強したあと、どうするのか。今はクラウドソーシングも出てきて働き方が変わってきた。従って、オンラインで勉強して、オンラインで仕事をしてお金を稼ぐといったスタイルが今後は増えるのではないかなと思っている。だから、広い意味で「職につなげる」ということを我々もやっていく必要があるのかなと思う。

今野: たしか、受講生の6割が地方の方だと伺っている。

村田: これまではリアルなITスクールとなると東京や大阪のような大都市にしかなくて、地方でプログラミングを勉強する手段や機会がなかった。だからこそ今は地方の方々が利用してくれているのかなと思う。

会場: オンラインで受講される方々のなかで、続く人というか、途中で止めずに成果を出して卒業する方々に特性や共通項は何かあるだろうか。「そもそもやる気がある」とか「やらざるを得ない状況に追い込まれている」といった要素以外で、「こういう志向がある」ということを何かお感じであれば教えていただきたい。それともう1点。たとえばITの先進企業に入ってばりばり活躍するといったことをゴールにすると、初心者から8週間の教育を受けたあとも踏んでいくべきステップが数多くあると思う。それでも今は「最初の1歩」という部分にフォーカスしているのには何か理由があるのだろうか。あるいは、その辺で今後の展開としてお考えになっていることがあればぜひ伺いたい。

村田: 短期間で成長する方々の共通項は明確だ。たとえばチャットのサポートは複数の方が同時に使えるけれども、そういう人は空気を読まずにむちゃくちゃ質問してくる(会場笑)。「それはカリキュラムに書いてあるよね?」ぐらいのことでも聞いてくる。でも、質問数が多い人は伸びる。最初は理解できていなくてもどんどん伸びてくる。やっぱり恥ずかしがらずに分からないことを聞く人は早く伸びるのだと思う。たとえば海外で英語を勉強するのもそれに近いと思うけれども、とにかく恥ずかしがらずにやらせるのが重要ではないか。

それとキャリアに関して。僕らが今提供しているのは初心者の状態から8週間というカリキュラムなので、それでどこまで成長できるかというと、働けるレベルとしてはまだ低いかなと思う。ただ、それでも提供するのには理由がある。まずは「まったくの初心者である方がアイディアを形にするところまでできる」ということをやらないと、裾野が広がらないと思うからだ。従って、まずはそこで学習機会をつくっていきたい。ただ、その次の段階として、今後は企業で働けるレベルまで成長できるような学習プログラムも用意していきたい。
今野: 少し話が逸れてしまうけれど、「スタディサプリ」をつくった山口文洋(氏:株式会社リクルート マーケティング パートナーズ代表取締役社長)さんは「既存カリキュラムの概念を変えたい」と言っていた。何を基準にするかによるけれど、たとえば「社会科のこの部分と理科のこの部分を学ぶと最も効果が高くなる」といったデータに基づいて、現在の縦割りカリキュラムを変えたい」と。同様に、エンジニアリングの勉強についても、「どんな未来につながるか」といったことをガイドしてあげることが大事になるのかなと思った。

会場: 企業内でも各種プログラミング研修はやっていると思うけれども、「TechAcademy」はどういった位置づけでどのように企業へ提供されているのだろう。もしくは、どのようにして企業の研修に入り込んでいるのだろうか。あと、企業研修やオンラインブートキャンプで数多くの受講生が入ってくればユーザーのデータベースも蓄積されていくと思う。その辺はどのように活用していくお考えだろうか。もしくは、そもそも個人情報ということでユーザーのデータは貯めていないのか。可能であればその辺の方針も併せて伺いたい。

村田: 企業研修に関しては、とにかく地道に入り込んでいったという話になる。ただ、インターネット企業は社内リソースで研修ができるものの、実際にはどこもやらない。社内で研修しようと思うと、基本的には誰かが兼務でやらなければいけなくなるので。それであれば、お金を出しても外部にやってもらったほうがいいと考えるところがほとんどになる。そうしたニーズをしっかり読み取ってサービスを提供しているのが1つのポイントだ。一方、今後に関しては、たとえば直近では4月で新卒研修があるから、そのなかにオンラインブートキャンプのプログラムを入れてもらうといったことを考えている。それで、「まずは営業であってもエンジニアであっても、新卒の方は全員、1ヶ月ぐらいかけて小さなプログラムやアプリケーションをつくるところまでやりましょう」と。そんな風にして僕らのほうから提案している。

あと、ユーザーデータは貯めている。そのうえで、勉強したことをしっかりと生かして職につなげていく方向で活用したい。転職したいと考えている方々の勉強データというのは、リクルーティング会社さんや人材派遣サービスの会社さんにはなく、我々だけが持っているものだ。これは大きな強みだと思う。就職の際、「どれほど勉強熱心だったのか」「どこで躓いてどこでクリアして、どんなプログラムつくることができるようになっていたか」といったデータを、企業側で評価軸として見ることができるようにしたい。

会場: 事業をスタートされた当初は、どのように成長ドライバを把握していったのだろう。「コンテンツを拡充する」「講師の質を高める」「顧客との接点を増やす」といった施策のなか、どのようにしてポイントを整理していったのかを伺いたい。

村田: 立ち上げ当初は、まずはしっかりお金を払ったうえでサービスを享受していただけるサイクルが成り立つかどうかを考えていた。お金をいただくのなら、それ以上の価値を提供しなければといけないわけで、「何が“それ以上の価値”になるのかな」と。それを用意したうえで、実際に申し込んでもらうというサイクルをまずは一回り、「小さなサイクルでもいいから回せるようにしよう」と考えていた。

今野: フラッシュマーケティング事業から転換しようとしていた当時は、「何をやろうか」ということをそれこそ1から考えて、プログラミング教育のなかでも一番入りやすいところから入ろうと考えたいたのだと思う。たとえば、「初心者向けであればコンテンツも早くつくることができる」とか、「まずは粘着力の高いユーザーからお金をいただくことができたらいいね」とか。そのうえで、1つずつ問題を改善していったら、初心者向けという部分こそ変わらなかったものの、実は当初の無料サービスと180度異なるものに変わっていったという面があったのだと思っている。

村田: 最初から大きなトライをするのは難しいというか、リスクが大きい。だから小さくても早く形にすることが大事だと思っていた。だから当初は自社でカリキュラムをつくり、最初の募集もフェイスブックのイベント機能で募集していった。先生も僕が担当したりして。まずは小さい規模であっても成り立つかどうかがポイントになると思う。

今野: ちょうどいい感じの時間になったので、本日はこれで終了にしたい。ありがとうございました(会場拍手)。

※本記事は、グロービス社内で行われた勉強会の内容を書き起こしたものです(全3回)
 

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