人事システムの全体像: 隠れた競争優位の源泉 

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

『グロービスMBA組織と人材マネジメント』の第4章から「人事システムの全体像」を紹介します。

人事システムは、組織を運営していく上で柱となる「経営の仕組み」の1つです。その巧拙により、スキルの高い人々が駆り立てられるように戦略の遂行に邁進することもあれば、スキルもモチベーションも低い人々が、ベクトルもバラバラに行動して経営資源を費消し、競争に負けてしまうこともあります。適切な人材を採用・配置し、評価し、報酬を与え、育成する――文字にすると簡単ですが、これを適切に行わない限り、どれだけプランとしての戦略が立派でも、企業は勝ち残れないのです。逆に、このシステムがしっかりしていれば、短期的な競争力保持に加え、優秀な人材が次々に輩出されることから、長期的な繁栄の可能性も高まります。GEやトヨタなどがそうした組織の代表と言えるでしょう。組織人である以上、人事に無関心、あるいは人事の影響を受けないという人間はいません。その設計と運用の巧みさこそが、企業の隠れた競争優位の源泉となるのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

人事システムの全体像

人事システムは図表のように、4つのサブシステム――1) 採用・配置システム、2) 評価システム、3) 報酬システム(報奨システムともいう)、4) 能力開発システム――から成る。このサブシステムがそれぞれに協働することで戦略を実現する。

各サブシステムの主要な課題は以下のとおりである。

1)    採用・配置システム:どのような人間を採用するか、そして採用した人間にどのような仕事を与えるか
2)    評価システム:組織メンバーの能力や成果をどのような基準で評価するか
3)    報酬システム:評価の結果に基づいて、組織メンバーに給与などでどのように応えるか
4)    能力開発システム:業務遂行のために組織メンバーの能力をいかに開発していくか

人事システムの目的

人事システムの主要な目的は、戦略の実行を促進することと、長期的に人材を育てることである。

■戦略を促進する
マネジメントの重要な仕事は、複数の人間の意識をある方向に向けさせ、共通する目的を達成できるように行動を起こさせることである。そのために制度をつくり、施策をつくる。制度や施策はマネジメントの意図を具体化したものといえる。そこで用いられる重要なツールが人事システムだ。

たとえば、地方から全国展開するために営業力を強化しようとした時、中途採用の人数を増やしたり、そのために採用説明会を大都市圈で開催したりするなどの施策がとられる。あるいは、業績回復を狙ってドラスティックに管理職クラスをいっせいに入れ替えるという人事を行うかもしれない。

積極的に顧客を拡大するために営業担当者の評価基準を変更するという方法もある。具体的には新規の顧客獲得数を評価し、賞与に反映させるといった方法である。つまり、評価や報酬を工夫することで、マネジメントが期待する、特定の行動をとるように促すのである。

もちろん、戦略を実行するためには人事システムだけの工夫では不十分であり、あらゆる施策を総動員する必要がある。第3章で述べた、組織構造そのものを工夫することも必要となる。短期で集中的に特定の結果を手に入れたい場合には、プロジェクト・チーム制がとられることがある。階層数を減らしてフラット化した組織構造にし、意思決定のスピードを高めるといった工夫も考えられよう。

こうした大規模な試みもあれば、日常的にマネジメントの行動により、組織メンバーの行動に影響を与えることもある。たとえば、部下とどのくらいの頻度でどのような方法によりコミュニケーションをとるかによって、部下がやる気を出す場合もあれば逆にやる気を失うことがある。

このように、組織構造を工夫する、人事システムを工夫する、部下とのコミュニケーションを工夫するなど、マネジメントはさまざまなレベルで部下の行動をコントロールしようとしている。そして、そのようなマネジメント行動の第一義的な目的は、戦略を実行することなのだ。

■長期的に人材を育てる
戦略を立案する時、環境条件との適合性を考慮しなければならないが、環境は常に変化し、そのスピードも速い。一方で、人は一度組織のメンバーになったら、メンバーシップを継続させることが多い。とりわけ、日本の企業組織の場合、新卒で入社し定年まで同じ企業組織のメンバーである場合が多い。つまり、20年さらに30年という時間スパンでメンバーシップを継続するのだ。この長い期間、同じ戦略が継続されることはまずない。

つまり、特定の戦略を遂行するために必要な能力を持つ人材を採用することは、その戦略が変更になった場合、戦略と人材の整合性が保証されなくなることを意味する。このように考えると、戦略と人材の関係を固定的にとらえることは適切ではない。

もちろん、短期的に見れば眼前の戦略を実行する能力のある人材を採用する、あるいは育てるということは重要である。しかし長期的に見れば、将来の組織を担う人材、すなわち新しい戦略を構想・実行できる潜在的能力を持つ人材を採用することも欠かせない。

後者のような能力を持つ人材を確保し、活躍の場を与えることができれば組織が存続する確率は飛躍的に高まる。そこで、短期的には戦略遂行能力を高めるための人材の確保と、長期的には戦略自体を立案できる人材の確保という両方の視点が人事システムには必要となる。第1章第2節でも指摘したようにゴーイング・コンサーンを目指し企業が永続的に発展すべく、自律的に動ける人材、特にマネジャーを長期的な視点で育てていくことが、人事システムの大きな目標である。

注意が必要なのは、育成は、単にサブシステムの1つである教育育成システムだけによってなされるものではないという点だ。たとえば、配置は、仕事を通じた成長に直接つながる。また、評価報酬の制度に能力開発(自分自身のみならず部下の育成なども含む)の視点を盛り込むことで、成長が促される。もちろん、対人でのコーチングなどマネジャーの言動が重要なのは言うまでもない。

短期的・局所的な視点だけではなく、長期的・大局的な視点を持つことが、人事システムの設計では重要なのである。

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院教授 佐藤剛)

次回は、『グロービスMBA組織と人材マネジメント』から「評価の目的」を紹介します。

グロービス出版
グロービス電子出版

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

名言

PAGE
TOP