囲碁の新世代 世界けん引へ巻き返し 

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※この記事は日経産業新聞で2016年4月8日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

囲碁の井山裕太棋士が前人未踏の領域に足を踏み入れようとしている。現在、囲碁史上初の七冠をかけた5番勝負の真っ最中だ。4月14日の第3局で勝てば晴れて七冠達成となる。

井山さんは2013年に六冠になった。しかしその後、唯一保持していなかったタイトルの十段戦の予選で敗退。歯車が狂ったのか、保持していたタイトル2つを失い、四冠におちた。

ところが15年に王座、天元の2つを奪還する。16年に入って棋聖のタイトル防衛戦を4対0で勝った。そして、残る十段のタイトルに挑戦するための予選を勝ち抜いた。

井山さんが特異なのは、今までの棋士と全く違う手法で囲碁を学んできたところだ。囲碁の扉を開いたのは、お父さんが買ってきた任天堂のスーパーファミコンの囲碁ソフトだ。ゲームに熱中し囲碁の世界にのめり込んでいった。

さらに、訓練のためにインターネットと棋譜データを駆使する。将棋でかつて七冠を達成した天才の羽生善治さんと同じ、テクノロジーの申し子だ。

昔は囲碁も将棋も「遊んでなければ強くなれない」という風潮があった。囲碁でいえば大物棋士の藤沢秀行さんのような人が典型例だ。頻繁に飲みにいき、人間的にも豪快で、これまでの殻を破る大胆な発想力を持つ。そういった人が結構多かった。羽生さんや井山さんはそのような大胆さとは一線を画している。将棋や囲碁を科学的に捉え、現代のツールを駆使して研究を重ね、日々棋力を磨いている。

インターネットは場所の概念を取り払ったが、囲碁も例外ではない。井山六冠は大阪に在住している。十段戦の対戦相手である伊田篤史棋士も日本棋院中部総本部の所属だ。一昨年のことだが、毎年1月5日の「囲碁の日」に東京・市ケ谷にある日本棋院で行われる打ち初めの儀式で、東京におけるタイトル保持者の参加はゼロだった。東京の棋士が名古屋、大阪の数倍いるにも関わらずだ。

以前は棋譜が大阪や名古屋に届くのに時間がかかり、棋士は東京にいなければ不利だと言われていた。今では全世界に瞬時に配信されることによって東京とそれ以外の地域とのタイムラグは完全になくなった。

技術の進化は棋士の若年化ももたらしている。井山さんは平成生まれの26歳、十段戦の対戦相手の伊田さんは22歳だ。今まで囲碁界は大体タイトル保持者は30代だった。中国では10代の強さがめざましい。世界ナンバーワンの囲碁棋士と言われる柯潔(か・けつ)氏は18歳だ。

近代囲碁は日本がけん引してきた。囲碁の世界トップ棋士を打ち破ったことで話題となった人工知能(AI)の名前「AlphaGo(アルファ碁)」に日本語の「碁」が使われているのはその証左だ。

ただ00年代に入ると韓国が強くなり、10年以降は中国の強さが際立っている。

日本の囲碁界は様々な施策で巻き返しを図っている。日本棋院は100周年を迎える24年に実現を目指す「100周年ビジョン」を発表した。行動計画には囲碁の裾野拡大や、世界で戦えるプロ棋士の育成、財政基盤強化の方法、メディアやネット戦略など、日本の囲碁界が強くなるため10の方法論を提示した。

14年に始めた「グロービス杯世界囲碁U-20」は、20歳未満の世界トップ棋士が集まる日本主催の唯一の世界棋戦である。第1回グロービス杯では、何と日本の一力遼棋士が16歳で優勝した。これからは日本も巻き返しを図り、日中韓3カ国の激しい戦いとなるであろう。

ネット世代の井山棋士が七冠を達成するかどうかにまずは注目したい。七冠となった暁には、世界棋戦に積極的に出てほしい。世界の囲碁界を日本の棋士が引っ張っていくことを強く願っている。
 

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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