組織構造を規定するもの: 組織図は戦略を映す鏡 

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『グロービスMBA組織と人材マネジメント』の第3章から「組織構造を規定するもの」を紹介します。

組織の構造、すなわち組織図は、人々が組織の中で働く上で最も基本的な決めごととなります。つまり、誰と一緒に働くのか、どのようなタスクを行うのか、誰にレポートするのか、部門間の役割分担はどうなっているのかなどが、組織構造によって規定されるのです。その組織構造は、外部環境や、戦略や人材といった内部環境を勘案したうえで決定されます。ただし、外部環境は刻々と変わりますし、それに合わせて戦略や人材も変わっていきます。必然的に組織構造もそれに合わせて変わっていくべきですが、通常は人間の「慣れ」の問題などもあり、そんなにコロコロ組織構造を変えることが難しいため、そこにミスマッチやタイムラグが生じることになります。それは、結果として、戦略遂行にとって不適切な組織構造を生じさせてしまいます。このジレンマをどう解決していくかが、特に環境変化の速い昨今のビジネスシーンで問われていると言えるでしょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

組織構造を規定するもの

組織の構造を決める条件は大きく2つある。1つは組織の置かれた外部環境であり、もう1つは組織内の環境である。

外部環境:一般環境

組織が目的を達成するためには、その組織自身も構成員となっている外部環境の影響を受ける。具体的には、マクロ環境(規制環境、経済環境、社会環境、技術環境など)、市場環境(顧客数やニーズ変化など)、競合環境などである。これらは企業の戦略への影響を通じて、あるいは直接に組織へと影響を与える。

マクロ環境を特に一般環境と呼ぶこともある。ある企業にのみ特異に働くのではなく、あらゆる組織にとって共通の前提となる環境だからである。ある市場でビジネスを行う以上、特定の組織だけ法律の対象あるいは規制外になることは原則的にはないし(NTT法のような例外はあるが)、景気低迷の影響も等しく受けることになる。

とりわけ、ITにとどまらず、技術動向は組織構造に影響を与える。ジョアン・ウッドワードは1965年に、単品生産なのか大量生産なのか、あるいは連続生産なのかによって、より適切な組織構造に違いがあることを指摘している。実際、注文を受けてから生産する発電用のタービンを担当する組織のあり方と、石油精製のための組織のあり方が違うことは容易に想像がつくところである。発電用タービンのような受注生産の場合は、専門の技術者が設計し、そのなかでユーザーと情報交換しながら具体化していく。部材も独自のスペックに基づくものであり、必要があれば内製する。そのための技術者も必要となる。つまり、タービンの生産のためには、多様で高度なスキルを持つ専門家集団との協働が必要となる。したがって、それぞれが自律的に行動できるような組織構造が望ましい。

自動車が発明された当初は、このタービンのような生産方式を採用した。つまり、1台1台職人が手づくりするスタイルである。ところが、その後フォードが流れ作業によるT型フォードの大量生産方式を採用し、生産スタイルは一変する。たとえば、ある作業者は、ある部品の取りつけに特化して仕事をし、他の作業者との協力は特に必要とされない。決められた部品を決められた手順に従い、決められた時間内で取りつけることが求められる。そして、作業が規定どおりにできたかどうかをチェックする監督者が必要となる。こうして組織が階層化されていった。

外部環境:タスク環境

環境を構成する以上、組織は行動することによって環境にも影響を与える。たとえば、新製品を販売するということは、競合他社の行動に影響を与える。彼らは、対抗して新たな製品を開発するかもしれないし、既存製品の価格を引き下げるという手段を講じるかもしれない。その動きによっては、自社の組織構造を見直す必要が出てくる可能性もある。

同じく、新製品を販売することによって、新しい顧客が増え、大幅な売上高の伸びが期待できるかもしれないが、それと同時に、それまでは必要とされていなかった組織機能(サポート部門など)が必要となってくるかもしれない。

このように、自組織が行動を起こすことによって、直接影響を与えたり、同時に与えられたりする環境のことをタスク環境と呼ぶ。特に、競合他社と顧客あるいはユーザーはタスク環境を構成する重要要素となる。

内部環境:戦略

一般環境やタスク環境がたとえ同じであっても、企業が同じ組織構造をとるとは限らない。たとえば、製造業だから生産設備を持つとは限らない。パソコン・メーカーでも、生産設備を自組織内に持つ企業もあれば、持たない企業もある。

その理由は戦略の違いにある。一般環境やタスク環境が同じでも、これらの環境を分析した結果、組織としての方向性を示すものとして打ち出される戦略が同じであるとは限らない。環境をどのように解釈するかは、組織メンバーの認知に左右されるからである。認知とは何に価値を見出すかということである。新しい製品を開発し、新しい市場に参入することに価値を置くか、それとも既存の製品で新しい市場へ参入することに価値を置くかという違いである。一般に、どちらの価値判断が正解かという議論は成立しにくい。

パソコンのように市場変化の激しい業界において自社で設備を持つことは、設備が短時間で陳腐化する危険性を意味する。市場のニーズに柔軟に対応するために、調整コストが多少増大したり、技術流出の危険性が増したりしても、生産機能を外部化するという意思決定は、けっして例外的なケースではない。先に紹介したコンピューターメーカーのデルは、生産設備を持たずに大きな成功を収めた代表的な例である。

戦略の不完全さを意識する

意思決定の際にはどのように情報を収集しても、そこにはおのずと限界がある。完全な情報の下で意思決定することは、現実の世界では不可能である。あくまでも入手できる範囲内での情報に基づいて判断するしかない。

さらに、1人ひとりの認知能力には限りがある。全知全能ではない人間が集まり意思決定するのだから、時には、結果から見れば、誤った方針を打ち出す可能性もある。つまり、戦略が100%正しいということはないのだ。

したがって、むしろ重要なのは、いったん決定した戦略を実効性あるものにすることである。たとえば、新しい市場に参入することを目的として営業拠点を置き、さらにはその市場向けの独自の製品を開発することを決定した場合、当然、組織構造を大幅に変更しなければならない。営業拠点を営業所レベルの小規模なものにするのか、あるいは当初から支社レベルで大規模に進出を図るかは、まさに戦略と大きく関わってくる。戦略と整合した組織設計が重要だ。

なお、戦略はあくまでも仮説としての基本方針であり、それに合わせてつくった組織構造も、その実効性という面からたえず再検討の必要があることは言うまでもない。

内部環境:人材

内部環境としてまず戦略を見たが、他に、内部環境にはヒト・モノ・カネといった経営資源や、コア・コンピタンスと呼ばれる企業の核となる強みなどがある。ここでは、そのなかでも最も重要な要因である人について考えていこう。

最終的に戦略を実行する主役は人間である。人間が仕事をしやすくする工夫が組織であると言ってよい。組織のありようによって、仕事の進み方は違ってくる。先に指摘したように人間の認知には限界がある。その限界を前提としながら協働できる組織をつくることが重要だ。

ところで、戦略を決定し、そのための組織を設計するというプロセスは簡単には進行しない。その最大の理由は、そもそも必要な人材を手当てすることがそれほど簡単ではないからである。つまり、いくら優れた戦略を立案しても、そして組織構造をつくったとしても、それを動かす人がいなければ意味がない。

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院教授 佐藤剛)

次回は、『グロービスMBA組織と人材マネジメント』から「人事システムの全体像」を紹介します。


グロービス出版
グロービス電子出版

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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