社内の部署を地名で呼んでいませんか? 

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今回は、社内の部署を地名、あるいは建物や場所を表す言葉で呼ぶことに潜む危険性について考えてみましょう。

世の中全体を見ると、ある組織や集団、機能の代名詞として地名を用いることは少なくありません。たとえば政治の世界では「霞が関」は官僚組織の代名詞ですし、「永田町」と言えば国会議員や国レベルの政治の隠語となります。「代々木」と言えば日本共産党のことですし、古くは田中角栄氏個人を指して「目白」と呼ぶなんていう例もありました。

これは日本だけではありません、「ワシントン」や「ペンタゴン」、「クレムリン」などの隠語でその国の政府や機能を表すなどはよくある話です。

さて、上記のような例はそれで何か困ることは特にないでしょう。ただしこれが、社員が、社内の部署を呼ぶ時の隠語となると話は別です。

皆さんの会社でこんな例はないでしょうか?

・本社を指して「大手町」「新宿」「アトランタ」などと呼ぶ
・工場や研究所を指して「八王子」「川崎」などと呼ぶ
・取締役会を指して「10階」などと呼ぶ

ポイントは、まさに地名や場所の名前「だけ」で呼ぶということです。これがたとえば、「栃木工場」が正式な名称のところを「栃木工場」と呼ぶのであれば何の問題もありません。グロービスでも例えば福岡や仙台に大学院がありますが、「福岡校」や「仙台校」などと普通に呼んでいます。「○○支店」なども同様で、正しく部署名をつけて呼ぶのであればとりたてて問題はありません。

問題は、先述の例のように、あくまで地名や場所の名前「だけ」で呼ぶということです。こうした呼び方は隠語であり、何かしらの感情が込められているのが一般です。そして通常は、その感情はネガティブ、たいていは屈折したものです。

たとえば、本社を「大手町」と呼ぶシーンを考えてみましょう。どのような会話でそうした呼び方が出てくるかと言うと、以下のようなものが典型ではないでしょうか。

「大手町の人間はこれだから分かってないよな」
「大手町が何も決めてくれないからこっちも動きようがない」

これらの文章では「大手町」を「本社」と言い換えても内容は同じです。それにもかかわらずあえて地名を用いる背景としては、屈折した感情を隠語にすることで、不満を声に出しやすくしている、という要素があるのです。

屈折にはさらにいくつかのパターンがあります。1つは劣等感です。人間は劣等感を感じると、その反動で何らかの反発した態度をとりがちです。もう1つは逆にその部署が機能不全に陥っている場合などに表れる、複雑な感情です。たとえば、「大した仕事もしていないのに高い給料をとりやがって」といったような感情です。もう1つは仲が悪いけど表面上は取り繕わなくてはならないというパターンです。

実際にこうした感情が渦巻いて揶揄された有名な例に、かつてのゼネラル・モーターズ(GM)の「14階」の例があります。GMは20世紀初頭、まさにアルフレッド・スローンが伝記で解説したような科学的なマネジメントを行うことでフォードを抜き去り、世界一の自動車会社になりました。それを支えていたのは優秀な本社企画部門であり、当初はやっかみ、劣等感も含めて、フロア名から「14階」と呼ばれていました。

しかし、1960年代くらいに入ると、意味合いは異なっていきます。その頃には官僚主義が蔓延しており、GMで「14階」というと無駄な会議や書類ばかりが多い官僚的組織の代名詞になっていたのです。「また14階がおかしなことを言っているよ」という感じです。

ある部署を地名(ビルの名前やフロアも含む)で呼ぶ背景には、多かれ少なかれ、このような感情が入っています。これらはどれも、企業にとっては好ましいことではありません。

こうした隠語が会社の中に蔓延するようになったら、
・待遇に大きな差があり不満が蔓延している
・部署間の中が悪く、コミュニケーションがしっかり取られていない
・低パフォーマンスに対する不満が起きている

などの問題が生じている可能性を疑ってみてもいいでしょう。

部署を地名で呼ぶことには、他にも、組織に大きな壁を作ってしまうと言うデメリットがあります。「あっちはあっち。こっちはこっち」というマインドが強くなったり、「自分たちに問題はない。問題を起こしたのはあちらだ」という意識が強くなったりするのです。

そもそも同じ企業の中で「あっち」とか「こっち」ということ自体が好ましいことではありません。特に同じ事業の別機能であれば、同じバリューチェーンのパートナーのはずです。本来仲間として顧客に価値提供していかなくてはならないはずの人間が、敵意をむき出しにしたり、「使えない奴らだ」などと揶揄する状況が良い状態であるはずはありません。

そうした状態を示すウォーニングのサインが、「部署を地名(という隠語)で呼ぶ」という行為でもあるのです。

リーダーとしては、そのような言動が社内で見られたら、自分の会社や事業部はうまくいっていないのではないか、何かしらの屈折した感情が社内に生まれているのではないかと疑ってみることが必要と言えそうです。
 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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