組織の戦略と行動: トップが考えた戦略が良いとは限らない 

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『グロービスMBA組織と人材マネジメント』の第1章から「組織の戦略と行動」を紹介します。

組織、特に企業組織と戦略は不可分のものと言えます。組織があるから戦略が実行されるとも言えますし、戦略があるからこそ組織が団結したり効果的に機能するとも言えるのです。では戦略は組織においてどのように立案されるかと言えば、大きくトップダウン型とボトムアップ型に分かれます。重要なポイントは、それぞれに一長一短があるため、簡単には優劣はつけられないという点です。日本企業は伝統的にボトムアップ型の戦略立案を得意としてきました。戦略論の言葉で言えば、創発的な戦略策定プロセスを重視していたということです。これは日本企業の同質性や阿吽の呼吸あってのものとも言えます。ただし、昨今は組織変革の緊急度合いが高まったり、グローバルでの経営の最適化という課題も生じています。そうした中、トップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチをどうバランスさせるかは、日本企業にとって大きな課題と言えるでしょう。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

組織の戦略と行動

「組織の意志」の次に必要となるのが、その意志を経済的活動に落とし込む活動である。組織の具体的活動の指針となるものを一般的に戦略と呼ぶ。

行動指針としての戦略

戦略にはさまざまな定義があるが、よく用いられるのは、「企業/事業目的を、競争優位性により、持続的に達成できる構造を構築する施策群」という定義だ。この定義では、競争に勝ち、利益を上げ続けることを強く意識している。

組織メンバーは戦略を手がかりにしながら、仕事を進める。1人ひとりが同じ戦略を行動基準とすることによって、最終的にすべてのメンバーと同じ方向に向かうことができる。もし、統一した戦略がなければ、1人ひとりがどちらの方向に進むべきかという判断を独自にすることになり、個人的な好みや思惑、あるいは独断が入ってくることになってしまい、組織という協働システムが機能しなくなる。

戦略は組織が目的を達成するために不可欠のものであり(逆に、戦略を実行するうえで組織が必要という側面もある)、したがって、戦略をいかにつくり上げるかは、マネジメントにとって重大な課題である。戦略が組織のなかでどのように生まれてくるかについては、大きく2つのタイプがある。トップダウン型とボトムアップ型だ。

戦略立案のプロセス1: トップダウン・アプローチ

欧米企業、特にアメリカの企業組織の戦略立案の特徴は、トップ・マネジメントであるCEO (最高経営責任者)が戦略を策定し、それを部下に実行させるということである。戦略を策定するための前提として外部環境を分析し、自社の市場でのポジショニングを確定する。そのうえで参入した市場において3種類の戦略パターン――差別化するか、コスト・リーダーシップをとるか、それとも集中するか――からどれを採用するかを決定する。

こうしたポーター流(戦略論で有名な、ハーバード大学のマイケル・ポーター教授が提唱している戦略論であることから本書ではこう呼ぶこととする)の戦略論の特徴の1つは、分析的であり、その分析結果から導かれる結論、すなわち戦略タイプも定式化されているということである。分析対象、分析手法もオーソドックスなものなので、同じような結論に達しやすい。

トップ・マネジメントとそのブレインで戦略を立案し、その実行を部下に求めるというこの方法が実効性を持つためには、戦略がどのようなものか明示し、組織メンバーに誤解のないように説明しなければならない。戦略を受け入れ実行するように組織メンバーを説得する必要もある。もちろん、トップダウンで命令することも可能だが、戦略の内容の理解が不十分であれば戦略の所期の目的を果たすことは難しくなる。したがって、マネジメントはていねいに説明し説得することが求められる。

こうして立案され、組織メンバーに共有される戦略は、結果として組織外の第三者にも非常にわかりやすい形式で表現されることになる。マスメディアにとっても、ある企業組織がどのような戦略を立案し実行しているかが理解しやすいので、取り上げられる頻度も高くなり、ビジネスパーソンも注目するようになる。また、観察が可能で理論的にも説明しやすいので、戦略のあり方や当否が論じやすい。説明を受ける側も理解が容易であるために、受け入れ実践しやすいと判断するのであろう。

戦略立案のプロセス2: ボトムアップ・アプローチ

日本企業の特徴として、戦略が組織の外の人間からよく見えないということがある。「わが社の戦略は○○○である」と宣言することはあまりないが、気がつくと、組織全体がある方向に一丸となって動き出している。最近は、日本企業もIR(投資家向け広報)活動の必要性から、外部に戦略を発表することがある。しかし、発表されている時にはすでに実行段階に移っていることが少なくない。

このような現象が観察される理由として、戦略の本当の立案者が必ずしもトップ・マネジメントではないということがある。日本型経営の特徴の1つとして指摘されることに「おみこし経営」がある。 トップ・マネジメントがみずからトップダウンで意思決定するのではなく、下からの(ボトムアップからの)提案を承認するという意思決定スタイルである。

つまり、経営者は部下の担ぐおみこしに乗っていて、おみこしがどこに向かうのかは部下の判断次第ということだ。一般におみこし経営という表現を使う時、批判的な意味合いを持つことが多い。組織の最高責任者が意思決定するのではなく、部下の決定を承認するだけだから、結果責任をだれがとるかがあいまいだ、という批判である。また、再生案件のように、緊急時で意思決定や実行のスピードが求められている案件では、おみこし経営はフィットせず、トップダウン型の強い方針徹底が求められる。

おみこし経営的な意思決定は、組織全体で共有されており、会社全体でも部署単位でも同じ意思決定スタイルをとっている場合が多い。ある部に属する人間が発案した事柄は部長によって承認され、次のステップとして部長が役員に提案し、承認される。最終的に役員が役員会あるいは社長に提案し承認を得て全社的な方針、つまり戦略となるという入れ子状態の意思決定スタイルだ。

こうした意思決定スタイルは、だれが下した意思決定かがあいまいなため、不祥事が起きた場合などには、責任者をあいまいにする口実として使われることもあった。しかし、より上位の人間が承認、決定し、オーソライズするという、公式の手続きをマネジメントがとることが担保されていれば、こうしたボトムアップからの戦略の策定方法は大いに強みを発揮することになる。

(本項担当執筆者: グロービス経営大学院教授 佐藤剛)

次回は、『グロービスMBA組織と人材マネジメント』から「組織文化の機能」を紹介します。
◆グロービス出版

 

東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『ビジネス仮説力の磨き方』『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード
図解 基本フレームワーク50』(以上ダイヤモンド社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『利益志向』(東洋経済新報社)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBA事業開発マネジメント』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の共著書、共訳書がある。
グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、ビジネスプラン、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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