芸術への投資は一石二鳥 

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※この記事は日経産業新聞で2016年2月19日に掲載されたものです。
日本経済新聞社の許諾の元、転載しています。

東京・上野の東京都美術館で開かれているボッティチェリ展を訪れた。独特の構図、豊かな人間描写、そして美しい色彩など、巨匠の傑作を心ゆくまで堪能した。これほどの作品が日本に結集することはもう二度とないだろうと思えるほど、完成度が高い展覧会だった。

ルネサンス時代にこのボッティチェリやミケランジェロ、ダビンチなどの画家を支えたのが、フィレンツェの富豪メディチ家だ。民間人の財政的支援は、その時代の芸術的・文化的素養の向上に重要な役割を果たすものなのだ。

僕も先輩の経済人の活動に触発され、芸術家を支援することにした。著名になった画家の絵は高価で手が出ない。しかも彼らは僕のような弱小起業家の支援など必要としない。そこで自分の身の丈にあった手法を考えてみた。

それは「同世代で気に入った画家を応援する」というものだ。将来大きく成長しそうな企業を、安い未上場段階で支援するというベンチャーキャピタル的な発想と同じだ。

芸術へのベンチャーキャピタル的アプローチは一石二鳥だ。画家が将来有名になれば絵の価値は何十倍にも跳ね上がる。大成しなくても絵を楽しみ、心を豊かにできる。「投資」と「鑑賞」の両方で楽しめるのだ。

僕のお気に入りは半具象派の画家、岡野博さんだ。個人で作品を100点近く購入した。東京都内の自宅と浅間山の麓にある山小屋のほか、グロービス経営大学院の東京・大阪・名古屋・仙台・福岡の5キャンパスでも作品を飾っている。

岡野さんの絵は、見る人の気持ちを良くし、場全体を明るく豊かにする。運気もよくなると思う。経営学のケーススタディーの準備や議論をする学生に、息抜きの時間にコーヒーカップを片手に絵を見てもらい、精神的な安らぎを得てくれればと思っている。卒業生やスタッフの中には作品を購入した人もいる。

岡野さんの作品との出会いは20年以上も前のことだ。妻が僕に相談もなく、いきなり1点買って帰ってきたのがきっかけだ。絵に払った金額は当時の我が家としては大金だった。

でもニューヨークのマンハッタンを描いたその絵の美しさに魅せられた。僕は「岡野さんのコレクターとして世界で5本の指に入る」ことを決めた。展覧会には毎回、足を運び、気に入った作品を購入していった。やがて岡野さんの家で食事をするほど親しくなった。

彼から聞いて印象的だったのが描写方法だ。「感動したもの、美しいと思った印象をそのままキャンバスに表す」という。僕も「自分が感動したことをそのまま読者に伝えたい」という気持ちを、一番大切にして文章を書いてきた。表現方法は違っても、表現したいという気持ちの根本は共通だと分かって興味深かった。

岡野さんの絵には情感や感動などの心理的な要素が入り込んでいる。鮮やかな風景の中で人が働き、動物がたたずみ、船が出港している作品が好きだ。キャンバスから岡野さんの誠実な人柄がにじみ出ている。

今では日本版ダボス会議「G1サミット」と東北復興支援活動「KIBOW」のチャリティーディナーに、毎回絵を数点出展してもらえる関係になった。無償で提供してもらったこれらの絵の販売代金を、活動資金として使わせてもらっている。

僕の芸術支援はグロービスの経営が軌道に乗るに伴って規模を大きくしてきた。メディチ家がルネサンス期にボッティチェリらを支援した規模には足元にも及ばないかもしれない。

だが、より多くの経済人が周りのアーティストを支援すれば、日本の文化度は間違いなく上がるだろう。ボッティチェリのように世界的にも著名な画家が日本から輩出されるようになったら本望だ。そう思いながら上野を後にした。

京都大学工学部卒、ハーバード大学経営大学院修士課程修了(MBA)。住友商事株式会社を経て、1992年株式会社グロービス設立。1996年グロービス・キャピタル、1999年 エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学。学長に就任する。若手起業家が集うYEO(Young Entrepreneur's Organization 現EO)日本初代会長、YEOアジア初代代表、世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等を務める。2008年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設。2011年3月大震災後に、復興支援プロジェクトKIBOWを立ち上げ、翌年一般財団法人KIBOWを組成し、理事長を務める。2013年6月より公益財団法人日本棋院理事。いばらき大使、水戸大使。著書に、『創造と変革の志士たちへ』(PHP研究所)、『吾人(ごじん)の任務』 (東洋経済新報社)、『人生の座標軸』(講談社)等がある。

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