マクドナルド -ターゲットの見えないマックカフェ 

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えびフィレオ、マックグリドル、メガマック…。ヒットが続くマクドナルド

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今から遡ること約1年の2007年1月15日。朝マックメニューに「マックグリドル」が追加された。「説明できない朝ごはん」というキャッチフレーズを冠した不思議な雰囲気のセールスプロモーションで、そのスタートは切られた。

米国、カナダ、中国では既にヒット実績があるというこの商品、実際に口にしたのは発売日を少し過ぎてからなのだが、食べてみて驚いた。メープルシロップ入りのパンケーキで、グリルソーセージや卵をサンドした、確かに今までに食べたことがない甘塩っぱい味の組み合わせ。メタボも気になる今日このごろ、1個554kcalという「マックグリドル ソーセージ&エッグ・チーズ」のカロリー表示には少々躊躇をさせられるが、それでもそれを忘れさせつい食べ進んでしまうのがファストフードの魔力?魅力?か。僕自身、そんなマクドナルドファンの1人である。

2004年、代表取締役会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)に原田泳幸氏が就任して以降、日本マクドナルドホールディングス(以下、マクドナルド)は常に的確に強い事業作りに挑戦し続けている。その姿勢は素晴らしいと、尊敬の念をこめて思う。

就任した2004年の12月には、商品を作り置きしないオーダーメイド調理システム「メイド フォー ユー(MFY)」を完全導入し、廃棄を減らすと同時に、顧客に出来たての商品を提供できる基盤を構築。

2005年10月には「えびフィレオ」(当時270円)を導入し、これが大あたり。2000年代に入ってから、長く低価格路線から抜け出せなかったマクドナルドは、このえびフィレオの成功を皮切りに「売れる付加価値商品」に次々とチャレンジしはじめる。

記憶に新しい2007年は、マクドナルドの高額商品が次々と話題に。マックグリドルと同じ1月には、あの「メガマック」(350円)を発売。同社の単品最高価格というこのメガマック、売上高への影響は相当なもので、発売開始2日後の1月14日(日)には1日あたりの全店売上高23億4700万円と、新記録を打ち立てた。予想を上回る反響のため一時期、販売制限までされたほどである。その後6月には「メガてりやき」(330円)、12月には「メガトマト」(370~400円)と「メガたまご」(360~390円)を同時発売。話題を欠かさない。

原田氏就任以降の一連の取組みが市場に支持された影響は大きく、2006年には5年ぶりに年間全店売上高を更新し、4415億1600万円を達成。2007年8月には月あたり売上としては過去最高の463億円を計上。2007年通期でも、売上高で前年比1割アップ、純利益で前年比約5倍と予想している(2007年12月現在)。いずれにしても、近年のマクドナルドの活躍ぶりには目を見張る。顧客を的確に捉えた発想と、企業戦略の合致。それがこの結果を生んでいると言える。

米国でマクドナルドブランドを育て上げたのはレイ・クロック氏。そして日本マクドナルドの創業者は、藤田田氏。ハンドバックやダイヤモンドの輸入商をしていた藤田氏だが、レイ・クロック氏と出会い、1965年に起業した。昭和40年代当時、日本の飲食業は個人の生業が大半で、ビジネスのシステム化にはまだ程遠かった時代である。そんな中で藤田氏は、戦略意識を持ってビジネスモデルを構築しながらも、同時に「ビジネスマンならば庶民に会え。庶民の視点で考えろ」と言い続け、顧客視点を喪失することなくマクドナルドのあるべき姿を考え続けたという。

旧マックカフェ、マックトーキョー、新生マックカフェ、その目指すものとは?

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その上で。気になる業態がある。2007年8月に鳴り物入りで登場した「マックカフェ」である。日本全国に15店をオープンした、マクドナルドの新業態。「スーパーコンビニエンス」として「スピード」を、「ファーストカジュアルカフェ」として「おいしさ」と「値頃感のある価格帯」を実現するというのがコンセプト。さらに「心地よいサービス」の実現を目指した業態でもあるという。

マクドナルドは過去、1998年に恵比寿ガーデンプレイスをはじめとした場所に、サラダ類やこだわりコーヒー、マフィンやケーキといったデザートメニューを強化した「マックカフェ」をオープンしていたが、その後、撤退。2002年に「マックトーキョー」という、都会のビジネスパーソン向けにサラダやスイーツが食べられるというコンセプトの業態も出したが、こちらもやはり撤退している。

そして、07年8月スタートの新生「マックカフェ」。ターゲットは既存のマクドナルド各店と同じ「キッズ、ファミリー、若い世代」。「敢えてターゲットのすみ分けは行わずに、既存店とのシナジー効果を上げたい考え」(2007年8月29日、プレス発表会で原田CEO談)という。

仮説だが、マックカフェの狙いは、既存のマクドナルド店舗が抱える以下のような課題を解消することにあるのだろう。

まず、高効率のビジネスモデル作り。マクドナルドはそのメニューの特性上、ファストフードといえど調理が必要だ。什器への設備投資額が大きく、システム化された調理機材に加えて食材の収納場所が不可欠となるため、広い店舗面積がどうしても必要になる。地価の高い立地においては最初からデメリットを抱えているのである。また、マニュアルがあるとはいえ、従業員には一定の習熟度が要求され、ここにもコストがかかる(こちらも、人件費が高いエリアではデメリット)。しかし一方のマックカフェは、調理オペレーションがコンパクト。小さい敷地でも出店しやすく、スタッフのトレーニング期間も短く、出店までのスピードが早められる可能性が高い。

次にターゲットの拡張。既存のマクドナルドは、幅広に狙っているとはいえ実質的には若者世代がコアターゲット。よりダイレクトにファミリー、キッズ、シニア層を狙い、客層を広げたい。マックカフェは、そのポテンシャルを持つ。

そして新しいビジネススタイルの実現。マクドナルドがハンバーガーショップであることは社会に浸透しきっている。それを知らない人は、世の中にいない。しかし逆にいえば、それは「ハンバーガーショップ」という概念以上の存在になれない制約でもあり限界でもある。このイメージから脱却し、新しいビジネススタイルを構築するには、異業態での参入に活路を見出すのが自然。マックカフェはやはりそのポテンシャルをもつ。

逆に言えば。これらの課題解決ありきばかりでビジネスを創ると、自己都合で顧客不在のビジネスになりかねない。深く深く考え、組織として実現したい課題解決と、顧客に求められる事業創造を両立させていく。両立させられなければ、ビジネスは独りよがりなものになってしまう。事業を創るものの最大の腕の見せどころとなるこの両立。さて。マックカフェ。どうか。

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左:ナチュラルスープセット(590円) 右:マックロールセット(640円) ※2008年1月13日現在のメニューより

オープンしてから間をあけて計4回、都内のマックカフェに行った。商品の写真を見てほしい。まずは「ナチュラルスープセット」(590円)。これはオープン当初からあるメニューで、店内で焼き上げた直径6cmほどのパン、スープ、飲み物がセット。少し遅れて9月半ばから登場した「マックロールセット」(640円)は、もちもちしたピタパンの皮でサンチュとソーセージを巻き込んだというスナック。それにオニオンスープと飲み物がつく(写真のカフェラテはプラス料金)。子供向けにイヌやブタの形の「どうぶつパン」もある(下の写真参照)。

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どうぶつパン(260円) ※2008年1月13日現在のメニューより

2007年8月のオープン時には、恵比寿ガーデンプレイス店には600人が並び30分待ちの行列ができた。オシャレなロゴがとても素敵そうに見える。木目を基調とした店内もちょっとオシャレ?しかし。いったいこの店、誰に対して、何がしたい?マックカフェ、誰に愛されたい?

ベーカリーやパン、スープなどを中核とするその商品群は、既存のマクドナルド商品とは全く違う。ということは、女性会社員のランチ需要の取り込み?いやいや、食べてみるとわかるが、ボリュームが中途半端で、女性がランチに食べるとしてもちょっと少ない。

もちろん、男性のはずもない。男性会社員がスープでデニッシュ?おやつとしてブタさんのパンを食べる?それもそれである意味、素敵だが、当然そんな顧客がいるはすもない。

さらに言うと。例えば、東京・丸の内にある東京海上ビルディングの地下にある店舗。ここは既に、同ビルに勤務するビジネスパーソンの皆様が三々五々と集まって喫煙する喫茶スペース・くつろぎスペースになってしまっており、いわゆる「カフェ」という言葉が馴染む状況にはない。当ビルで勤務する友人も、「正直、なんでこんなところにこんなお店があるのか、不思議でしょうがない」との声を聞かせてくれる。

かろうじて想定できるターゲットは、お母さんとお子さんという親子連れ。しかし、既存の「マクドナルド」ではなく「マックカフェ」を選ぶ親子連れ、何がその決定要因になるのか。「カフェ」だから「オシャレ」?いやあ、本来の競合となりそうなスタバなどと比べると、圧倒的に、それほどオシャレでもない。残念ながら。

軽めのベーカリーもボリューム感が足りず、親子連れとは言え、お腹を満たすにはマクドナルドと比べ割高になる予感。しかもそもそも、お母さんとお子さんにとって居心地が良い店内に仕上がっているわけでは、全くない。例えば旗艦店舗である恵比寿ガーデンプレイス店は席間が狭すぎて荷物も上着も置けず。座り心地の良くない椅子(椅子ではなく背もたれのない棒状シート)には子供は座れないし、長時間滞在はできない。さらに分煙にはなっているが完全禁煙でないのも中途半端。サービスの観点からも、商品提供までにカウンターで顧客を待たせる時間は、通常のマクドナルドよりもはるかに長い。「オシャレ」でも「安く」も「居心地良く」もなく、かつ「早く」もない。本当に、誰にどう愛されたいのか。よくわからない。

誰に愛されたいのか、わからず。何がコアなコンセプトか、わからず。ただ「カフェ」という言葉だけが、独り歩き。そんな、マックカフェ。いったいどうしたいの?

気持ちはわかるが。ビジネスとしては、「STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)レベルの詰めが弱い」という印象ばかりが残る。

●前述の原田CEOの談話に戻ると、ターゲットは「キッズ、ファミリー、若い世代」とあるが、この時点で新業態を導入するにしてはターゲティングとして曖昧すぎる。
●かつ、コンセプトが全く見えない。何を価値としてずば抜けたいのか。そして既存のマクドナルド店舗とどう住み分けたいのか。全く見えない。全く。

施策(4P、「Product(製品)」「Price(価格)」「Place(場所)」「Promotion(プロモーション)」)レベルでいろいろ書いたが、そこから見えてくることは、ターゲット・コンセプトといった、施策の上層にあるべきSTPレベルで誰にどう愛されたいのかが全く見えてこないということ。まず何よりも気になるのは、ここである。

さらに言うと。「独りよがりなビジネスに過ぎる」という印象も、強く強く残る。

●高効率化・ターゲット拡張・新しいビジネススタイルの実現という、経営課題の一掃。それをやりたいのは、伝わってくる。マックカフェを特効薬として使えないか。そんな気持ちが、そこここに見てとれる。
●しかし、それが全体感を持って実現できていない。企業としての課題解決が先に立ってしまい、そこを気にしてばかりでお客様は不在。顧客不在のまま自己都合でビジネスを描いているように見えると、言わざるを得ない。これでは。愛されるはずも、ない。

「組織として実現したい」課題解決と、「顧客に求められる」事業創造を両立させうるか。両立させられなければ、ビジネスは独りよがりなものになってしまう。「ちょっと素敵っぽいコンセプトで経営課題一層を狙ったが、チープで安易な発想が雑然と盛り込まれただけになってしまった」。傍から見ると、そうとしか見えないマックカフェ。残念。残念ですが、徹底して顧客を想う姿は、マックカフェからは見えてきませんでした。

僕らがマックに期待する「カフェ」は、そういうものではないのだが。マックファンの期待の高さが、初日に30分の行列が生まれた事実で示されているだけに、物哀しさがより強く残る。徹底して、揺るぎなく、顧客を想い、見据え、価値を詰めてほしかった。2007年のマクドナルドで、唯一とても残念だったマックカフェでした。

・・・

そんな感想を持ったまま2007年を終え。08年スタート。そして2008年1月25日。マックカフェに新メニューが加わった。愛しのマクドナルドの鬼っ子?マックカフェ。何をしようとしているのか。早速、食べに行ってみた。

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左:マックピッツアセット(520円、420円) 右:ホットドックセット(490円、390円) ※価格の2つ目は「ゴールドカード」(繰り返し利用できるクーポン)使用時

大きく変わっていたのは「ボリューム」と「価格」。さらに「居心地」の改善である。

まずは、「ボリューム」。以前はクロワッサンサンドのような上品なメニュー主体だったが、今回、ピザやホットドックのようなボリューム感のある商品を投入してきた。

そのうえで、「価格」。以前は多少割高だったが、値ごろなラインに価格を落とし、レギュラーマックと同じラインに落としてきた。あわせて商品を購入したお客様には「ゴールドカード」という割引クーポンを配布。レギュラーマックと同じラインの価格から、さらに100円の割引を行っている。

さらに言うと。恵比寿ガーデンプレイス店は棒状シートのわきに椅子を置き、座りやすさの改善を行っている。あくまで恵比寿独自の取り組みでマックカフェ全体の話ではないかもしれないが、多少の改善を心がけている。

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新メニューのリーフレットと「ゴールドカード」(割引クーポン)

しかし。じゃあ、前に進んだのか。お客様に愛されるべく。そうかというと…うーん。

新メニュー自体はそんなに図抜けて魅力的でもない。居心地の改善も「多少」の範囲。そのうえで、結局誰にどう愛されたいのかは、よくわからない。

それなりに快適で安くてお腹がふくれる。それは従来のマクドナルドのコンセプトと、何がどう違うの?「ボリューム」「安さ」のテコ入れが、何か新しい道を示したかというと、そんな気はしない。…

では少なくともターゲットはよりクリアになったのかというと、それもよくわからず。親子連れ路線を明確にしたわけでもなく(ちなみに「動物パン」は今回で終了)、より男性寄りになった商品ラインナップだが、でも店舗イメージは相変わらずのオシャレ感。やはり、何か新しい道を示したかというと、そんな気はしない。…

誰に、どう愛されたいのか。クリアにしないまま、お家芸的な「ボリューム」と「価格」のテコ入れをした。でもその行く末は不透明。残念ながら、そんな印象だけが残ったのだった。

マックカフェのその先に

「ダイエットやアンチメタボがブームになっている一方で、大きなサイズの商品がヒットするという背反状況が起こっている」。そんな声を最近よく聞くが、この状況に最初に火をつけたのがマックの一連のメガ商品だ。

しかし、一連の「メガマック」シリーズがこれだけ爆発的に受け入れられたのは、「メガを食べる」価値の嬉しさを、それを求める消費者にしっかり的確に送り届けられたからこそ。だからこそ一過性で終わらず、メガは定番化した。

「えびフィレオ」をあんなにも愛くるしく仕上げ、求めるターゲットに的確に届けた。「マックグリドル」をあんなにもプチ贅沢でファンシーに仕上げ、求めるターゲットに的確に届けた。それらの努力と並行して、「メガ」をあんなにもワクワクと楽しげに仕上げ、求めるターゲットに的確に届けた。

近年のマクドナルドは、きっちり顧客に想いを馳せ、価値を届け続けてきたと言える。その底力が、好業績にきっちり現れていると言える。しかし。唯一マックカフェからは、その底力はまったく感じられない。それがたまたまの話なのか。新業態開発故の難しさなのか。わからないが、いずれにせよ残念だったマックカフェ。ある意味学びになるので、皆さんに是非、見に行ってほしいお店である。ちなみに、割引クーポンは4月末まで有効なので、それまで頑張っているはず。

もしかすると、プランの当初はとんがった企画だったのかもしれない。それが大企業ゆえの事情から丸く削られ、いつしか顧客を想うことから大きくかけ離れてしまったのかもしれない。しかしそうだとしても、いずれにせよ結果的に残念だったし、この先もマックカフェは迷走を重ねるのではないかという危惧ばかりが残る。

しかしそれよりも。マクドナルドの底力をすれば、きっと次はやってくれるはず。次は皆の期待に応えるどんな新業態を、マックは見せてくれるのか。いまだ懲りないファンの1人として、マクドナルドにはマックカフェの「次」を期待したいと思います。

参考文献:レイ・A・クロック、ロバート・アンダーソン『成功はゴミ箱の中に レイ・クロック自伝』プレジデント社、2007年

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