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松下電器産業「産業人タルノ本分ニ徹シ・・・」

投稿日:2008/02/13更新日:2019/04/09

「ナショナル」への寂寥感

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【綱領】
産業人タルノ本分ニ徹シ
社会生活ノ改善ト向上ヲ図リ
世界文化ノ進展ニ寄与センコトヲ期ス

【Basic Management Objective】
Recognizing our responsibilities as industrialists, we will devote ourselves to the progress and development of society and the well-being of people through our business activities, thereby enhancing the quality of life throughout the world.

冒頭掲げたのは、あまりにも有名な、松下電器産業(以下、松下)の綱領の日本語版と英語版である。日本語版は1929年に創業者である松下幸之助(以下、幸之助)によって定められ、以来、松下のバックボーンとなってきた。

松下にはこの「綱領」の他に、「信条」(向上発展ハ各員ノ和親協力ヲ得るニ非ザレバ得難シ各員至誠ヲ旨トシ一致団結社務ニ服スルコト)、そして7項目からなる「松下電器の遵奉すべき精神」があり、同社の経営理念を形成している。2000年以降のいわゆる「中村改革」においても、流通再編やグループ企業再編、事業部制廃止、早期退職の実施など、さまざまな「聖域」にメスが入った中で、これらの経営理念だけはそのまま残された。

今般、松下が「Matsushita」そして「ナショナル(National)」のブランドを捨て、「パナソニック(Panasonic)」に社名、ブランド名を統一すると発表したことが世間を賑わせた。株式市場はこれを好感し、松下の株価は上昇した。その一方で、ブランディングの効率化は図れても、幸之助の経営理念の伝承が難しくなり、長期的に松下の競争力を損なうのではないかとの懸念も一部では呈された。また、かつての松下王国を支えた「ナショナルショップ」の面々からは、戸惑いとも寂寥感とも思える声が多数起こった。

幸之助なら何と言うだろうか

この点に関して、私が直感的に感じたのは、もし幸之助が生きていたら、もっと早くこの意思決定をしたのではないか、ということである。幸之助が存命なら、こう言ったのではないだろうか。

「世界中のお客様に分かりやすい名前の方がいいじゃないか。松下はもう日本だけのものではない」
「創業者の名前がなくなるだけで会社の求心力がなくなるのなら、それは経営者の責任だ」
「経営理念がしっかり理解されていて、時々のビジョンや戦略がしっかりしていれば、絶対に勝てる」

こんなことを夢想する理由は、それだけ松下の経営理念が普遍性に富み、かつ人々をエンカレッジするものだからである。「水道哲学」という幸之助の言葉もあって私自身錯覚していたのだが、松下の綱領はもっと当時の(物不足の)日本の時代背景を反映しているものだと思っていた。しかし、今改めて見ると、昭和初期に出されたとは思えないくらい、「世界」を見据えており、しかも世界全体の生活や分文化の向上に寄与しようとしているように思える。

日本人は忘れがちであるが、今なお世界には、貧困や戦争が原因で、文化的な生活を送れない人々が数十億人単位で存在する。あるいは先進国にいながらも、さまざまな理由から不本意な生活を余儀なくされる人々も多い。安価で安全で良い製品、そこから得られる情報や感動、そして雇用——世界単位で見た場合、1920年代の日本以上に、さまざまな意味での「豊かさ」を必要としている人間の絶対数は増えている。幸之助の定めた綱領は、混迷を増すグローバル社会において、ますます輝きを増しているともいえる。

であれば、名前などは、必要以上にこだわるべき要素ではないはずだ。綱領を軸とする経営理念を守り、それを世界に展開し、適正な利益を出しながら社会貢献することが、経営陣の仕事とか考えるからだ。往々にして創業者の残したものは聖域化しやすい。時代背景や経営環境を踏まえずに、旧来の「株(くいぜ)を守」ろうとする人々も多い。しかし、それは思考停止であり、怠慢に過ぎない。何を真の聖域とし、何を時代に合わせて変えていくのか。そしていかに抵抗勢力を説得し、前進していくのか——経営者が常に考慮すべき問題だろう。

なお、余談ではあるが、「TOYOTA」や「HONDA」が、創業者の名前を冠しながら、こうした問題にそれほど悩まされななかったのは幸運なことだ(いずれも、「Matsushita」に比べれば、はるかに外国人にとって覚えやすいし、発音も容易である)。また、極めて早い時期に世界を見据えて「SONY」にブランドを統一した盛田昭夫氏、井深大氏の先見性にも、改めて気付かされる。

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